Last Modified - 21 FEBRUARY 2001

Story Tellers from the Coming Generation! Interactive fighting novel JOJO-CON

JOKERさんの「ジョンガリ・A」
VS
クスミダ弐号機さんの「運命の車輪の男」

双方向対戦小説ジョジョ魂

ROUND 2

1. 83メートル・前方

中空を切り裂いて、弾丸が走る。定められた着弾点に髪の毛一本ほどの狂いもなく向かったそれは、到達すべき点を十数センチ前にして「透明な壁」……フロントガラスによって前進を止められた。その壁の向こうで、男の顔が余裕の笑みを浮かべる。

間髪入れずに放たれた次の弾丸は、先ほどのものより下方を狙っていた。フロントガラス……ボンネット……さらにその下、接地した右前部のタイヤを目指した弾丸は、クワガタの顎のように変形したバンパーで弾き返される。

「ウヒャホハ! 効かんなぁ〜、弾丸なんぞッ! 『運命の車輪』は近距離パワー型! そこらのクソ車とはデキが違うのよぉ〜ッ!!」

運転席のズィー・ズィーがフロントガラスをコツコツと叩くと、外側でめり込んでいた弾丸がポロリと落ちた。

35メートル前後の幅を持つ川、その川に沿って伸びる遊歩道をズィー・ズィーの駆る『運命の車輪』が突き進む。正面、80メートルほど先にあるジョンガリ・Aの姿……それが遊歩道の左側に立つ、近くの街路樹に隠れた。

木の陰から銃口だけが伸びるのが、ズィー・ズィーにかろうじて見えた。しかしその銃口の向きは、これまでの自分を狙った方向ではないように見える。ズィー・ズィーが銃口の先を目で追うのと、3発目の銃弾が撃ち出されたのはほぼ同時だった。

「……アレは!?」

川の表面から5メートルほど上、つまり遊歩道とほぼ同じ高さ。そして『運命の車輪』の右前方約20メートルの位置に、スタンド『マンハッタン・トランスファー』が待機していた。弾丸が到達するや、『マンハッタン・トランスファー』がその弾道を『運命の車輪』へと変える。

「ヤツのスタンドかッ! (そしてこの方向は!)」

右後方のタイヤに弾丸が到達する寸前、装甲が上から伸びてタイヤを覆い隠す。弾丸はその装甲に突き刺さって止まった。ホッと息をつこうとしたズィー・ズィーは、その前に右のガラスに撃ち付けられた4発目の打撃音に、ビクッと背を震わせる。

「なるほど、なんて鋭い銃撃だ。これが『死刑執行人』のスタンド能力……しかしよぉ……」

アクセルを踏み込む。

「オレには当たらねぇぜ! そしてこの街路樹のようにッ! このままテメーを!」

『顎』を開け閉めさせて、並んでいる街路樹を次々にへし折りながら、『運命の車輪』がジョンガリ・Aに向かって爆走する。

「ブチ折って轢き殺すッ! クソ野郎ッ!!」


ライフルから空の薬莢を地面に落としながら、ジョンガリ・Aは街路樹の陰で目を細めた。白く濁った瞳で『運命の車輪』を睨みつける。

「58、57、56……なるほど、なんて頑丈な車体だ。本体があれに覆われているというのは少し面倒だな……まぁ、面倒なだけ、だがな。……51、50。限界だ」

右手で銃身を持つと、踵を返して後ろに走り出す。左肩に背負った軍用のバッグから、ガシャガシャと金属音が響いた。街路樹の途切れたところで左に曲がる。前方に、黒い建物がおぼろげに見えた。

「このアパート……」

呟きながら、自分の前でライフルを振るう。ブチッと音を立てて、張られていたテープが千切れた。

「入り口にテープ、か……来い、『マンハッタン・トランスファー』!」


「ウヒャホッ! 徒歩で逃げようってのか? んむ!?」

背を向けて走るジョンガリの姿。それを隠すかのように川の上から音もなく移動してきた『マンハッタン・トランスファー』が、『運命の車輪』の目前を横切ろうとする。ズィー・ズィーにはそのスタンドの形や動きが、とても頼りないものに見えた。

「……チンケなスタンドだ。くたばんな!」

勢いに乗った『運命の車輪』が『マンハッタン・トランスファー』に激突する! しかしその瞬間、『マンハッタン・トランスファー』は『運命の車輪』のボンネットの上にふわりと浮き上がった。ボンネット上を紙くずのように転がり、フロントガラスを上る。車体上部に生えた角のような突起をS字を描くように次々と避けて、車の後ろへと抜けていく。そして何事も無かったかのように遊歩道を横断し、その向こうの建物へと消えていった。

「……あ? なんだ今の? なー、な、な、な……何かされたか?」

そのスタンドのあまりの手応えの無さ、そして奇妙な動きに、ズィー・ズィーは口をぽかんと開けて見送っていた。

2. 7メートル・上方

木造二階建て、1階につき4つの部屋が配置されている黒い色をしたアパート。その壁や屋根に見られる枯れた色合い、そして多くの傷跡は、このアパートが建ってから今までの長い年月を偲ばせる。普通の人間が一見して感じるであろうその時の流れ……だが、今、そこに走り来た男には、それを「見る」ことで感じることはできなかった。男にできたのは、割れた窓から入って、ひととき部屋を彷徨った後に去り行く、一陣の風を「観て」感じることに過ぎない。

「やはりそうだ、この建物……中に動くものは『1つ』しかない……」

アパートの右下に当たる部屋のドアを前に、ジョンガリはライフルの引き金に指を掛けた。銃口をドアのノブに向ける。一撃。ドアを開けながら呟いた。

「そしてこれで『1つ』も無くなった……先ほどのテープといい、どうやらこのアパート、廃屋だったようだな……」

開け放ったドアの向こうから埃とカビの臭いをが流れ出て、ジョンガリの鼻をくすぐる。ジョンガリが目をやった先にあったのは、家財道具など何一つ無い、ただの白色の四角い空間だった。その床の中央で、一匹の黒猫が横たわっている。窓側へ向けて、赤い血と肉片が撒き散らされていた。血溜まりが少しずつ形成されていく。

部屋に入り込んだジョンガリは、猫の死体を気にも留めずにそのまま窓の前まで進む。窓ガラスに手を当てると、何年分もの埃が掌に付着するのを感じた。いつの間にか、彼のスタンド『マンハッタン・トランスファー』が顔の横に浮かんでいる。指を横に滑らせて、ガラスの表面に線を描く……それに合わせるようにして、窓の割れ目から『マンハッタン・トランスファー』が外へと抜け出していった。

「……窓の向こう……空き地…………いや、ブランコに……砂場……? 小さな公園のようなものか。……18メートル先にアスファルトの道路……片側一車線の車道だな…………22メートル先に車が一台……」

背後、やってきた遊歩道の方から、木を折り倒す音が聞こえてきた。タイヤの滑る音が聞こえる。

「来たか!」

鍵を開け、勢いよく窓から外に飛び降りる。同時に左肩のバッグから長いロープの固まりを取り出した。ライフルにロープを巻き付けて結び、余った分を左肩に通す。そして銃口を上に向けるようにして、地面にライフルを突き立てた。

「フッ!」

銃口に右足を掛け、ライフルを踏み台にして気合いとともに跳躍する。観葉植物が置ける程度、片足の大きさくらいの幅しかない2階のベランダに右手が届く。跳躍の勢いと右腕の筋力で一気に跳ね上がると、左手がベランダの手すりに届いた。右手も手すりに持ってきて、懸垂の要領で身体を上へと持ち上げる。足を手すりに掛けて立ち上がり、バランスを取りつつロープを引いてライフルを持ち上げた。

ライフルを左の脇に挟んで、手すりの上を走り出す。細いベランダが、ミシミシと音を立てて軋む。4つの部屋のベランダを次々に駆け抜けると、アパートの端ギリギリのところで足を跳ね上げ、壁に蹴りを放った。ジョンガリは既に「観て」知っていたのだ……4つ目の部屋の屋根、その部分だけが壊れて迫り出していなかったことを。そして壁を使った三角飛びの要領で、屋根の上へと到達する。

「……さて、次は……」

ライフルを屋根に置いて、ロープをバッグにしまう。左手にライフルを持ち直し、一度その場で屈伸をすると、屋根の上を勢いよく走り出した。

「5メートル……24……」

隣に建つマンション、そのベランダに向かってジョンガリが跳躍した。

3. 扉の向こう

「おっとと! ここだぜッ!」

ブレーキと共にハンドルを切って、車の後部を大きく振り、車体の向きを90度変える。後部タイヤのあげる悲鳴と一緒に、女の悲鳴も聞こえてきた。その二つの悲鳴は、すぐに同時に止まった。

「?」

弾丸の跡の残る右の窓から後ろを覗き見ると、車のすぐ横に年若い少女がへたり込んでいる。ジョンガリを目指して半分我を失っていたおかげで、どうも彼女の姿が見えなかったらしい。危うくはね飛ばすところだったようだ。そしてその少女に見覚えがあることにも思い至った。さっき「ヤツ」といた少女だ。まさかコイツ……。窓は開けずに、用心深く呼びかける。

「お、お前! アイツの仲間か?」
「はッ、はひッ!?」

少女が座り込んだまま、グギ・グギ・グギギとぎこちなく顔を向けた。半泣きで砂まみれの顔。おそらく『運命の車輪』が跳ね飛ばした砂を、もろに被ってしまったのだろう。

「生きてんなら答えろッ! ジョンガリ・Aの仲間なのかッ!?」
「あぁ、あぐあぐあぐ」
「ジョンガリ・Aと同じ! 貴様もスタンド使いか!? 答えろコラァッ!!」
「キャアァッ! 撃たないで轢かないで殺さないでェッ!」

少女が頭を抱えて縮こまる。

「うわッ! スタンドかコラァッ!!」

ズィー・ズィーが『運命の車輪』の中で縮こまる。……一拍の間。

「……へ、変な動きすんなッ! だからさっきのヤツ! ジョンガリの仲間かって訊いてるんだよオレは!」
「ジョ……ジョンさんがどうかしたんですかっ?」
「ジョンガリだろ?」
「ジョンさんでしょ?」

……一拍の間。

「(偽名を使ったのか?)もうジョンでいいよ、ジョンで。で、テメーとアイツの関係は!?」
「や、やっぱり貴方って、あの人のお友達じゃなかったんですか?」
「知るかーーッ! オレが訊いてるんだコラァッ!!」

クラクションを連発する。少女がまた身体を震わせた。

「ひぃッ! あああ、貴方に会いに行くからって! 駅から案内したんですっ! 目の悪い人だったからっ! ううっ……」
「……あぁ、そう……仲間じゃないなら別にいい……さっさと帰りな、ここはヤバイぜ」
「ううーーっ……ひっ……」

ゆっくりと立ち上がった少女は、砂にまみれたままトボトボと歩き出した。

(目が悪い? アイツがか? じゃあ、あのゾッとする射撃は何なんだ。当てずっぽうに撃ったってか? バカ言えッ!!)

少女の背から視線を移し、前に建つアパートを観察する。ボロいアパートだ。二階に上がる階段も無くなっている。右下の部屋のドアが開いているのに気がついた。

(弾丸操作、それがヤツの能力に違いはない。オレも見たんだ、確かに! 目が悪い……まだ何かありやがるのか、「謎」が。さっきのスタンドの動きも奇妙だった。『運命の車輪』に触りもせずに、表面を滑っていったあの動き……)

「チクショウ、考えてる時間はねぇ!」

エンジン音を響かせて、再び『運命の車輪』が進撃を開始する。目指すはアパート、右下のドア。

「目がどーとかは関係ねぇ! 追いついて踏み潰す、それだけだッ!」

ドバギバギイイィッ!!

ドアをその周りの壁ごと突き破って、アパート内部に飛び込む『運命の車輪』。粉砕された壁の向こうにあった白い空間……中央に咲いた赤い染みと黒い点に目を奪われたその刹那、一発の弾丸がズィー・ズィーの右肩に突き刺さった。

4. ?メートル・?方

「んな…………ッ?」

ほんの一瞬の出来事。認識できたのは2回連続した打撃音と、右肩の痺れと重み。前方に視線を戻すと、フロントガラスに突き刺さって車内に顔を出している弾丸が1つ、目に入る。そしてその先には、開け放たれた窓の外に浮く「ヤツのスタンド」……。

「な、なんだ……ッ、肩……アガッ!」

『運命の車輪』が部屋を走り抜け、再び壁を突き破って外に飛び出す。鉄製の柵を紙テープのように切断し、公園に躍り出て停止する。車内ではズィー・ズィーが、肩に当てていた左手を顔の前に広げて呻いた。そこには血にまみれたライフルの弾丸が転がっていた。

「これ……血が出てるぞ……ウゲッ! なんなんだよ……撃たれたのかよッ!」

ダン! ガキィンッ!

再び2回、異なる打撃音が連続する。左の窓に目を飛ばすと、1発の弾丸が窓にめりこんで穴を開けていた。そしてそれの背後に接したもう1つの弾丸が、ゆっくりと落ちていく様が見られた。

……2発の弾丸を、全く同じところにほぼ同時に撃ち込んでいる。杭をハンマーで打ち込むが如く、先の弾丸を次の弾丸が打ち込んでいる。そして先ほど前方から撃ち込んできたのは、遊歩道にいた時に最初に弾丸が当たった、フロントガラスに窪みを作ったあの場所じゃあないか?

現在、自分が見舞われている状況を、ズィー・ズィーはようやく理解した。

「う、うわああああぁぁぁーーーッ!!」

『運命の車輪』を急発進させる。すぐに前方のブランコにぶつかった。ギアをバックに切り替えて後退すると、今いたその位置に2発の弾丸が突き刺さる。バックのまま、再びアパートの中へ突っ込んだ。破壊音とともに2つ目の部屋を蹂躙する『運命の車輪』。バラバラと落ちる壁の破片の間を、弾丸がタイミング良く抜けてきた。弾丸はそのままフロントガラスに開いた穴を通って、運転席のシートを貫く。

「く、来ると思ってたぜ、チクショオ……」

攻撃を予想して屈んでいたズィー・ズィーは、その姿勢のまま呟いた。

「アイツ自身が見えてないところでも撃ってきやがる……くそったれ! 動いてないとマズイ!!」

アクセルを踏み、ハンドルを回して車体を回転させる。回りながらアパートを出て、また飛び込む。出てきては飛び込む。激しい音を立たせてアパートの一階部分を破壊しながら、『運命の車輪』は回転を続けた。

ドンッ! ドシュッ! バスゥッ!

そんな中でも、ガラスに開いた穴から弾丸が次々と襲ってきた。紙一重でそれらを避けるズィー・ズィーだったが、左の窓から来た1発がハンドルを握る逞しい左腕に命中した。

「ギェアッ! チグショーッ!」

再び公園に飛び出す。痛みに耐えながら、車外へと素早く目を走らせる。公園の向こうや隣のアパートから、何事かとこちらを見つめる者達の姿が見えた。

「テメェらじゃねぇッ! テメェらを探すために耐えてるんじゃねぇッ! 何処だチクショウッ!!」

ズドンッ!

「ウゴッ……!」

後ろの窓から飛び込んだ弾丸が、シートを貫いてズィー・ズィーの背中に到達する。痛みに思わずのけ反った。そののけ反りに合わせて上を向いた目が、遂にその影を捉える。

「い、いやがった……ガハッ!!」

5. 15メートル・下方

アパートの隣に立つ4階建てのマンション、その屋上にジョンガリはいた。屋上への入り口を背に、手すりにライフルを2丁置いて『運命の車輪』を狙っている。

「フハハハハッ! まるでゴキブリだな、貴様はッ! 無様なものよッ!!」

右手で左のライフルに、左手で右のライフルに、それぞれ同時に弾丸を詰め込む。

「惨めったらしく! このまま地べたに這いつくばって死ねッ、ゴキブリがッ!」

2つの銃口が『運命の車輪』へ向く。その時「標的」が、動きを変えた。マンションのあちこちから悲鳴が上がる。『運命の車輪』がマンションへと直進してきたからだ。

「今度はこの建物に隠れるつもりか? 無駄だ! 我が『マンハッタン・トランスファー』が、依然として貴様を捉えているッ!!」

ズシイイィンッ!

『運命の車輪』がマンションに衝突した。振動に身を揺らしたジョンガリは、次の瞬間その顔面を引きつらせた。

「な、なにイィーッ! 違うッ!?」

ライフルを持って、一歩後ずさる。

「ここに来るのかッ? まさかッ! 『登る』だとオォッ!?」

『運命の車輪』はマンションの壁を「上に向かって」走行していた。タイヤから大きなスパイクを生やし、壁面に突き刺して登っているのだ。口から血を吐き出しながら、ズィー・ズィーは凄絶な笑みを浮かべていた。

「上にいれば近寄れないとでも思ったか? バカがッ! 4階建てなんてメチャ近いぜッ!!」
「クッ! しかしこちらに向かうということはッ、車体をこちらに向けるということだッ! 余裕で狙いを付けられるッ!」

肩のバッグからサイレンサー付きの銃を取り出して、真下の『運命の車輪』……その横に位置した『マンハッタン・トランスファー』に狙いを定める。

「全弾避けきれるか? 食らえぃッ!」

ドン ドン ドン ドン ドン ドンッ!
ボゴォッ!!

マンションを一際大きな揺れが襲った。放たれた弾丸が空を切り、ジョンガリの視界から『運命の車輪』のシルエットは消えていた。そこに残ったのは、壁に穿たれた巨大な穴……振動が徐々に屋上へと迫り来る。

「こ、この建物の中に潜っ……ハッ、ここはマズイッ!」

慌てて屋上を奥へと走ると、今まで立っていた屋上の出入り口付近が轟音を立てて吹き飛んだ。揺れにつんのめりながら屋上の逆の端までやってくると、ジョンガリは手すりに捕まりながら背後を振り返った。埃が舞い散る出入り口の残骸の中に、細長い形に変形した『運命の車輪』がいる。メキメキと音を立てながら、徐々にその本来のフォルムを取り戻していった。

『運命の車輪』が、残骸から数メートル進んで止まる。ジョンガリとズィー・ズィーが睨み合う形となった。

「マンションの屋上だ、逃げ場はねぇな……ウヒャホッ! ヒドイ目に遭わせやがって……倍返しにしてやるぜ!」
「……………………9メートル……73……」

奥歯を噛みしめながら、ハンドルを強く握るズィー・ズィー。ジョンガリは両手を背に隠し、仁王立ちで前方を見据える。音もなく移動してきた『マンハッタン・トランスファー』が、2人の間、ほぼ中間の位置に止まった。

……2秒……3秒…………ジョンガリの腕が動く!

「『マンハッタン』ッ……」
「遅えッ! こっちは既に構えてんだよッ!!」

シュキイイーーーーーン!!

「何だッ!?」

『運命の車輪』から放たれた「それ」を、『マンハッタン・トランスファー』がふわりと避ける。ジョンガリも横に跳んだ。

ドバッ ドバッ ボゴォッ

ジョンガリの足に「それ」が命中した。呻いてジョンガリが倒れる。しかし、驚愕したのはズィー・ズィーの方だった。

「何だとォーーッ、避けたッ!? そんなバカな!!」
(あの承太郎でさえ避けられなかったんだぞ、「ガソリン弾」は! そもそも見えやしないんだッ! 見えない飛び道具をなんで交わせるんだよッ!)
「ウグッ……何を撃って……?」

足を数カ所えぐられながらも立ち上がったジョンガリは、銃を『運命の車輪』へと向ける。

「こっ、これならどうだぁーーーーッ!!」

シュキイイイイィィーーーーーン!!

前方、屋上の幅いっぱいにガソリン弾を放つ! 避けられる場所のないジョンガリは、為すすべもなくガソリン弾を数発、胴体に食らった。血を吹き出しながらよろめくと、バランスを崩して背後へ倒れる。そしてそのまま手すりを越えて、ジョンガリの身体は下方へと落ちていった。

6. 照らされる先

「あんな攻撃があるとは……ハァ、ハァ……見えはしないが……ガソリンか…………匂いはよく分かる…………分かるぞ、音もな……ハァ…………」

車道を渡ると、カーステレオの大きな音を撒き散らすその車へと歩み寄る。音でビリビリと振動している助手席の窓を、乱暴に叩いた。そこに座る髪の毛を逆立てた男が、こちらを向いたのを空気の流れで感じ取ってから、よく見えるように中指を突き立ててやった。ドアが勢いよく開くと、辺りは更に激しい音に包まれた。

男が何かを言いながら……あまりに音がうるさくて、こんなに近くにいる男の怒声すらも聞こえない……襟を掴んできたので、太股に一発くれてやった。倒れたそいつを車道の真ん中に蹴り出して、助手席に乗り込む。運転席にいた帽子を被った男が何かを言い出す前に、ライフルを突きつける。そいつは律儀にもカーステレオを止めてから、手を挙げた。

「賢明だな。おかげでガチガチと鳴る歯の音までよく聞こえるぞ。……ハァ、ハァ……さっきからずっとここでやかましくしていたな? 必要以上の大きな音というのは、周囲の状況を把握しにくくする。咄嗟の判断ができなくなるぞ、気を付けろ」
「……な、なんなんだアンタ……か、金なら……」
「ハァ……お前が喋ることは以後禁ずる、命令だ。命令に違反すれば殺す。いいな?」
「……ヒ……な……」
「問われたら迅速に答えるッ!」
「は、はいぃぃーーーーッ!」

頬に銃口を押しつけると、ようやくその男は従順になった。待機を命じてから、先程までいたマンションを振り返る。


「……これは……いつの間に……」

『運命の車輪』の車内からズィー・ズィーは、ジョンガリの落ちていった場所で手すりに結ばれているロープを発見した。それは下へ長く伸び、ほとんど地面まで達している。……もちろん、ジョンガリの姿はそこに無かった。

「ここでアイツに逃げられたら……これから先ずっと、あの狙撃に怯える一生になる。ガソリン弾も見せちまった……アイツはもう二度とこっちの射程内に入ってこない! オレの負けだッ! 殺されて終わりだッ!!」

急いでマンションの周辺を伺うと、道路に出たジョンガリの姿を見つけた。1台の黄色い車に近づいて、出てきた男を車道に転がすと、その中に入ってしまった。

「よし見つけた。そして……なんとなく分かってきた、ヤツの能力……あのスタンド、ガソリン弾を避けやがった。何故、スタンドが『実体のガソリンを』避ける? そして本体…………目が悪い……見えないガソリン弾を避ける……目の届かないところへの正確な狙撃…………あぁ、あと少し分からねぇ!」

拳をハンドルに叩きつける。カシャ、と軽い音を立てて落ちた物があった。携帯電話……ふと、ある男の断末魔にあった言葉が脳裏をよぎる。

「……おい、お前……『空気穴から』とか、言ってなかったか? 黄の節制(イエロー・テンパランス)……」


バンッ!

屋上から、『運命の車輪』が飛んだ。

「よし、出せ!」

命令に応えて、黄色の車体が動き出した。その後ろで、『運命の車輪』が着地した重い音が響く。

「ただし、命令以上のスピードは出すな。遅くするのも、もちろん許されない。オレが言う通りのスピードで走れ。いいな!」
「ハ、ハヒィ!」
「オレが速度計を見ていないからといって、適当なことをするなよ。そんな物見なくても、スピードなんてそれ以上によく分かるんだからな……ハァ、ハァ……あぁ、それと信号とか標識といった類は構うな。もともと、オレには見えない物だ。守りたくても守れないというところだな、安心して無視しろ……」
「ヒイイィーーーーッ!」


追いながら、サイドガラスを装甲で覆う。更にフロントガラスの大半も、同様に見えなくした。

「これでもう銃弾が入ってくる穴は無いぜ……テメェの位置さえ分かってりゃあ、わざわざガラスで耐えてる必要なんて無いんだからな……」

僅かな視界に黄色い車体を捉えて、ズィー・ズィーは口の端をつり上げた。

「そしてこれは、ちょっと分のいい戦いになってきたんじゃあねぇかぁ〜? 車同士なんてよぉ〜ッ! カーチェイスってのは追う方が有利なんだぜッ、ウヒャホハァッ!!」

2台の車が行くその道は、いつしか川に沿って伸びていた。少しずつ赤く染まっていく空に、街の輪郭が暗く浮かぶ。そんな中を沈み始めた太陽が、2台の車と川のゆく先を照らし出していた。

To Be Continued !!

双方被弾! ダメージ自体はズィー・ズィーの方が高いか?
しかしバトルはカーチェイスへ! 『運命の車輪』の独壇場となるのか!? ジョンガリ・Aはどう動く?
とりあえず、交通安全はワリと風前の灯火って雰囲気です! 交通ルールは守りましょう!

JOKERさんとクスミダ弐号機さんは、自分のキャラクターにとっての『理想の決着』と『それを得るための手段』などをテキトーに書いて、マッチメーカーにお送り下さい!

e-mail : six-heavenscope@memoad.jp SIX丸藤