御威光国が目前に二つ!

ブログ「一知半解」 / 2009.11.26

「日本人は”自然化された自然”によって形成され、”御威光”によってそれが保持されている秩序を、イデオロギーと無関係に自然的環境のように受けとり、それを”今の掟”として受容し、柔軟かつ誠実にそれに対応することによって摩擦を避け、その中で現実に社会に機能するもののみに価値を認め、その結果すべてを、経済性と有効性に還元しうる民族である」

 私たちに、このような、日本民族の伝統的生き方についての歴史的・思想的自己把握ができるかどうか、山本七平はこれを問うているのですね。

 日本人の機能主義は、それがイデオロギー抜きの機能主義であるが故に、必然的に御威光国の作る世界秩序と衝突するようになる。戦前、昭和において日本は、アジア王道文明というイデオロギーを掲げ、英米の自由主義世界秩序に挑戦しました。そのため予算の9割を軍事費につぎ込み、軍事力強化のための資源を中国に求めたのです。

 ではなぜこれが破綻したのでしょうか。それは、アジア王道文明が欧米の覇道文明を駆逐するのを歴史的必然と見た、そのイデオロギーが、単なる日本人の思い込みに過ぎず、中国人はこれに同意せず、逆に欧米諸国を味方に引き入れて日本に対抗し、首尾よく日本軍を中国から追い出した、ということなのです。
 この歴史的教訓から、日本人は何を学ぶべきか。

 第一に、日本が適応を迫られている世界秩序とは、日本人が縄文時代以来適応してきた”自然的秩序”ではなく、国際政治秩序であるということ。それは経済力だけでなく、軍事力そしてイデオロギー力によって維持されているということ。

 第二に、日本は、この後者の二つ能力を決定的に欠いているということ、この事実を、日本人はどれだけシビア-に認識できるか、ということです。

 さらに、今日の日本人にとっての困難は、この世界秩序形成力を持った御威光国が目の前に二つも現れたということです。彼らとどうつき合い、民族としての生存を確保していくか、私たちは、この難問に直面しているのです。

 再び、この教訓を戦前に求めるならば、まず、中国に対しては、卑屈にならず、その裏返しとしての傲慢に陥らないように注意し、冷静に、そのイデオロギーと軍事力に対する有効な対応策を練り上げるということです。

 次に、アメリカに対しては、その現世界秩序維持国として彼らが払っている自己犠牲を、バカにするような言動は厳に控えること。そして、日本のできる範囲で最大限協力する姿勢を崩さず、同盟関係を維持するよう努めること。そうすることによって、一党独裁国である中国のアジア戦略の暴走を防き、自由主義国として共存できる日の到来を待つこと、これだと思います。(中国の思想は、蒋介石語録などを読んでいると、結構すごいものがありますが、なにしろ巨大帝国ですからね)

 この点、鳩山首相のアジア共同体構想が、こうした日本の能力の限界をどれだけ踏まえているのか、また、小沢幹事長のキリスト教批判、イスラム教の相対的支持が、はたしてどういうイデオロギーに基づいているのか、いささか不安に思わざるを得ませんね。