「支那事変対処要綱」(昭和12年10月1日総理、外務、陸、海四省間で決定)

 総 則
一、一般方針
 今次事変は、軍事行動の成果と、外交措置の機宜と、両々相俟ち、なるべく速かにこれを終結せしめ、支那をして抗日政策および容共政策を解消せしめ、真に明澄かつ恒久的なる国国交を日支間に樹立し、もって日満支の融和共存の実現を期するを本旨とす。情勢により、長期兵力行使に堪ゆるため、これに関する所要の処置を講ず。
二、軍事行動
 軍事行動は、支那をして速かに戦意を拠棄せしむるを目途とし、兵力の行使、要地の占拠およびこれに伴う必要なる諸工作等、適時適切なる手段を執るものとす。
三、外交措置
 外交措置は、速やかに支那の反省を促し、わが方の所期する境地に支那を誘致するを目途とし、支那および第三国に対し、機宜の摂政及び工作をなす。事変の終結にあたりては、支那をして抗日政策及び容共政策を解消せしめ、従来の行懸りに捉われざる画期的国交調整条件をもって外交交渉を行なう。
四、軍事、外交およびこれに伴う諸施策は、国際法上許さるべき範囲を逸脱せざるよう慎重実行す()。
準 則
一、兵力行使
(1)陸上兵力の行使の主要地域域は、概ね冀察および上海方面とす。
(2)所要地域に対し、海上並びに航空作戦を行なう。
二、国家総力の整備
 作戦の遂行を円滑ならしむると共に、国際情勢の最悪化する場合に応ずるため、総動員の実施、戦時法法令の制定、耐久的挙国一致の具現等、所要に応じ、国家諸般の運営をこれに適合せしむ。
三、北支対策
 北支問題の解決は、日満支三国の共存共栄を実現するを目途とし、支那中央政府の下に、真の北支を明朗ならしむるをもって本旨とす。
(註・行政は中央政府においてこれを行うも、右地域の行政首脳者は日支融和の具現に適当なる有力者たるべく、別に中央政府との間に北支において日支平等の立場に立てる合弁その他による日支経済合作の趣旨を協定す。なお北支に一定の非武装地帯を設定す)
四、中南支対策
 中南支は、日支通商貿易の増進および発展の永続に適する情態をここに出現せしむることを期す。
(註・上海川辺に非武装地帯を設定す。但し右上海の安全保障は関係列国の共同責任とする建前を取るものとす)
五、北支作戦後方地域に対する措置
 事変中、北支作戦後方地域に対する措置は、敵国領土占領の観念より脱却し、概ね左のに如く律す。
(一)占領地行政はこれを行わず。但し治安は軍の指導によりこれを確立す。
(二)政治機関は現地住民の自主的組成に委す。但しこれを指導し、明朗なる施政をなさしむ。
(三)軍事上必要なる交通施設および資源の問発は、必要なる統制下にこれを行う。
但し以上(二)および(三)は、和局山現後の国交調整に影響せしむることなし。
(註・国交調整大綱
(1)停戦交渉と共に日支両国は真に両国の親善関係を具現するため、従来の行懸りに捉われざる国交調整を行なうものとす。
(2)細目 支那側は排日抗満政策を棄て、防共につき帝国と協調し、日支経済提携を実行す。即ち支那全般にわたり海運、航空、鉄道、礦業等の事業より着手し、日支平等の立場に立立脚せる日支共同開発を行い、漸次両国の真正なる経済提携に進むと共に、排日関税の是正等両国経済提携の障害を除却す。日本側は北支方面においても支那側を刺激し排日の口実となるが如き政策を強行せず、日支相剋の原囚芟除を旨とし、真に明朗なる国交関係の樹立保持に努む。)
六、対外通商並びに経済財政関係
 日支および第三国問の通商並びに経済財政事項に関しては、支那をして戦意を拠棄せしむるを主眼とし、これを律す。
七、対第三国関係
 第三国に対する外交措置並びにこれに伴う諸工作は、進んでわれに好意を持たしむると共に、第三国との紛争を醸し、または、その干渉を誘発することなきよう、これを施策す。軍事行動およびこれに伴う諸工作もまた右の主旨に副うよう慎重施行す。
八、前記諸項の具体的方策は、別にこれを定む。