「南京大虐殺」論争における現在と未来(2)

2014年4月28日 (月)

今日中国は、南京事件について「30万人以上が殺害された」とか、「日本軍国主義による侵略戦争は3500万人を超す軍人、民間人の死傷者を出した」などといっています。しかし、日中戦争は、中国共産党にとっては、日本軍と蒋介石軍を戦わせることで漁夫の利を得ようとしたものです。もちろん、そんな策略に嵌った方が愚かだったわけで、弁解の余地はなく、それ故に、侵略戦争の汚名まで着ることになっているのです。

このことは、1964年7月10日に毛沢東が当時の日本社会委員長党佐々木更三らと交わした談話に、はっきりと述べられています。

「佐々木 ― 今日、毛主席の非常に寛大なお気持のお話をうかがいました。過去において、日本軍国主義が中国を侵略し、みなさんに多大の損害をもたらしました。われわれはみな、非常に申し訳なく思っております。

主席 ― 何も申し訳なく思うことはありません。日本軍国主義は中国に大きな利益をもたらし、中国人民に権力を奪取させてくれました。みなさんの皇軍なしには、われわれが権力を奪取することは不可能だったのです。

 この点で、私とみなさんは、意見を異にしており、われわれ両者の間には矛盾がありますね。(みなが笑い、会場がにぎやかになる)。

佐々木 ― ありがとうございます。

主席 ― 過去のああいうことは話さないことにしましょう。過去のああいうことは、よい事であり、われわれの助けになったとも言えるのです。ごらんなさい。中国人民は権力を奪取しました。同時に、みなさんの独占資本と軍国主義はわれわれをも助けたのです。日本人民が、何百万も、何千万も目覚めたではありませんか。中国で戦った一部の将軍をも含めて、かれらは今では、われわれの友人に変わっています。」

毛沢東のいう「過去のああいうことは、よい事であり、われわれの助けになったとも言えるのです」というのは、日本の「独占資本と軍国主義」が蒋介石を破滅寸前に追い込んでくれたおかげで、我々は権力を奪取することができたということ。つまり、日本の「独占資本と軍国主義」は愚かであり、我々はそれを利用して政権を奪取した勝利者である。だから、「何も申し訳なく思うことはありません」といっているのです。合わせて、日本に「反独占資本主義」に基づく連帯を勧めることも忘れていません。

これが、中国共産党にとっての日中戦争の率直な総括でしょう。ところが今日、中国(共産党)は、南京事件で「30万人以上が殺害された」とか、日中戦争全般を通して「日本軍国主義による侵略戦争は3500万人を超す軍人、民間人の死傷者を出した」などと日本をさかんに攻撃しています。それが本当ならまだしも、犠牲者数を10倍以上も水増しして、それをナチスのホロコーストに比定しようとしているのです。

では、こうした今日の中国共産党と、毛沢東との違いは、一体どこにあるのでしょうか。おそらくそれは、毛沢東は、共産主義に基づく中国革命に自信を持っており、抗日戦争は勝利の歴史であり「良いこと」だったと思っている。それ故に、この戦いで中国の払った犠牲の大きさをことさらあげつらう必要はなかった。これに対して、今日の中国共産党は、共産主義を信じておらず、その権力維持に不安を抱いている・・・。

そこで、こうした不安を除去し自らの権力を維持するため、ことさらに、戦前の日本軍による被害の大きさを強調しているのではないでしょうか。特に南京事件についていえば、これは前稿で述べた通り、中国軍の意図的な退却の失敗?が招いたものです。従って、その被害の大きさを強調すればするほど、「日本軍の南京占領を高価なものにするため」あえて部下将兵を見殺しにした、中国軍指揮官の非情さが顕在化します。

実は、かって中国共産党は、このような事情をよく承知していました。これについては、2013年12月19日 の「RECORD CHINA」に、「『南京大虐殺』、中国の教科書に登場したのは80年代に入ってから、それまでは授業でも教えられず―中国紙」と題する、次のような興味深い記事が紹介されました。

「18日、中国が日本の戦争犯罪として主張する「南京大虐殺」は、建国後の中国では長い間、教科書や書籍に取り上げられることもなく、学校の授業でも教えられることはなかった。

2013年12月18日、南方都市報によると、中国が日本の戦争犯罪として主張する「南京大虐殺」は、建国後の中国では長い間、教科書や書籍に取り上げられることもなく、学校の授業でも教えられることはなかったという。

南京師範大学で中国史を教える経盛鴻(ジン・ションホン)教授は、「ここ南京でずっと学んでいるが、私が学生の頃は南京大虐殺を教える教師などおらず、教科書にも中国近現代史の本にも南京大虐殺に関する記述はなかった」と話す。

南京大虐殺の翌年、1938年1月に創刊された新華日報は、南京大虐殺に関する記事をたびたび掲載した。1948年11月に光華書店が発行した「中国抗戦史講話」も南京大虐殺を紹介しているが、旧日本軍の行為よりも国民党の軍が何も抵抗せずに南京から逃げ出した事実を重点的に取り上げている。だが、その後に出版された歴史書はいずれも南京大虐殺に触れていないという。

この事実について経教授は「文革時代に提唱された『3つの世界論』では、日本は第二世界に属し、中国にとって団結できる相手とみなされていた。当時は米国の中国侵略を非難することはあっても、旧日本軍の侵略や南京大虐殺の罪悪について深く追求することはなかった」と説明する。

転機は1982年7月に訪れた。日本の旧文部省が教科書検定で「華北へ侵略」を「華北に進出」に、「南京大虐殺」を「南京占領」に変えさせたとの報道(訳者注:後に日本政府がこれを誤報だと認めている)があったことだ。中国政府は激しく抗議し、中国の各メディアもこの問題を大きく報道した。

1983年、中国は南京大虐殺に関する資料の編纂、記念館の設立などを決定。翌1984年2月から6月までの期間中、中国政府初となる大規模な調査を実施し、生存者や目撃者、被害者1756人からの証言を集めた。抗日戦争勝利40周年記念の1985年8月15日、正式名称「侵華日軍南京大屠殺遇難同胞紀念館」がオープンしている。(翻訳・編集/本郷)」

これによって、中国共産党が事件発生当時から1982年頃まで「南京大虐殺」をどのように見ていたか分かりますね。事件当初から戦後にかけて、それは「旧日本軍の行為よりも国民党の軍が何も抵抗せずに南京から逃げ出した事実を重点的に取り上げて」いたということ。「その後に出版された歴史書はいずれも南京大虐殺に触れていな」いということ。つまり、この事件は、あくまで国民党軍の問題であって、共産党にとっては対岸の火事にすぎなかったのです。

ではなぜ、中国共産党は、この事件を、旧日本軍によるナチスのホロコーストに匹敵する残虐事件に祭り上げようとしているのでしょうか。それは、「南京大虐殺記念館」設置の経緯が示す通り(参照「南京大虐殺記念館」)、日本の国内世論分断に有効と考えられたためです。また、それが次第にエスカレートしているのは、今日の中国共産党の延命策として海洋膨張策が採られていることに対し、日本の復活が障壁となることを恐れているためだと思います。

悲しいことには、そのために採られている唯一の方策が、自らも信じていない「南京大虐殺」というウソ宣伝であり、それで日本人の道徳性を貶め、その国際的信用を損なわせようとしていることです。しかし、その内、ウソ宣伝は自国民にもばれます。また、日本人の道徳性は、いろんなメディアを通して世界的に高く評価されています。国内世論的にも、こうした中国の見え透いたプロパガンダに、いつまでも日本人が騙されるはずがない。

こう考えると、上述した「南京大虐殺」に関する中国のウソ宣伝は、日本の問題というより中国の問題だということが判ります。では、ここに日本の問題はないかというと、こうした中国の問題とは別に、日本人がしっかり認識しておくべき問題が、この「南京事件」に関してあるのです。次回は、この点について私見を申し述べたいと思います。