小沢氏「白」への唯一の道は、原資の出所を明らかにすること

2010年2月 7日 (日)

 2月4日、東京地検は、小沢一郎氏の資金管理団体「陸山会」の土地購入を巡る政治資金規正法違反事件で、同会の事務担当者であった石川知裕衆院議員と後任の事務担当者だった池田光智氏、それに、現在西松建設ダミー献金事件で公判中の小沢氏の公設第1秘書兼陸山会会計責任者大久保隆規氏を追起訴しました。しかし、小沢氏本人については、嫌疑不十分ということで起訴が見送られました。

 この事件をめぐっては、宗像紀夫(元東京地検特捜部長・弁護士)氏や、郷原信郎(元東京地検特捜部・弁護士)氏などが、それぞれの立場から、検察を支持あるいは批判する論を闘わせていました。

 宗像氏は、「秘書3人の逮捕まで行ったということは、検察は政治家を逮捕する時は、普通はそんなあやふやな捜査はしないから、何らかの証拠を握っているのではないか」。つまり「検察は小沢一郎を単なる政治資金規正法違反容疑ではなく、水谷検察からの5000万円等の違法献金が含まれていたことを立証しようとしているのではないか」と主張。

 これに対して、郷原氏は、「いくらなんでも、支出入の総額が4億円足りなかったから、それだけで重大事件だとはさすがに言えないと思う。だからそれは、何らかの不記載・・・具体的な収入が書いてないということを立証できなければ、いくらなんでも政治資金規正法違反として悪質なものとは言えない」と主張していました。

 小沢氏不起訴という結果から見れば、これは、問題の政治資金収支報告書に記載されていない収入原資の特定が、2月4日までにはできなかったということだと思います。しかし、これでこの件に関する検察の捜査が終結したのかというと、そういうことではありません。検察は、4日の記者会見では次のように言っています。

――原資は解明できたのか
「原資が何も分かっていなければ、起訴とならない。(土地代金の原資となった)4億円は陸山会の前に一度、小沢議員に帰属している。どういう金かは公判で明らかにする」
――この4億円の一部はゼネコンからのものか
「それは言えない」
――小沢氏が記者会見で説明した原資は違うのか
「今日の時点では否定も肯定もしない。必ずしも小沢議員の説明をそのまま認定しているわけではない」

 もちろん、小沢氏が主張するように、それは「私共が長年かかって積み立ててきた個人資産」なのかも知れません。奥様も鳩山家ほどではないが、かなりの資産家だといいます。また、水谷建設が胆沢ダム受注の謝礼として小沢氏の秘書に渡したという二度の5,000万円については、フリージャーナリストの上杉隆氏は、あるテレビ番組で”秘書が着服した?”というようなことをいっていました。また、郷原氏は、水谷建設社長の偽証ではないかといっていました。いずれにせよ、この問題が解明されないことには、”一件落着”ということにはならないと思います。

 また、郷原氏は、現在明らかにされている被疑事実だけでは、政治資金規正法違反としては悪質とはいえず、この程度で現職の国会議員を逮捕するのは検察の「暴走」ではないかと批判していました。氏は、同様の検察批判を、検察が西松建設ダミー献金事件で大久保秘書が逮捕された時にも繰り返していました。

 曰く、大久保秘書は西松建設からの献金を表献金として受け取っていたのであり、裏献金とは知らなかったのだから悪質とはいえないとか、収支報告書に記載するのは「寄付をした者」であり必ずしも「資金を出した者」ではないとか、もし、その政治団体がダミーだと分かったら、その時点で収支報告書を訂正すれば済む。また、そのことで企業団体から政治家個人が違法献金を受けていたということにもならない。なぜなら、犯罪には犯意が伴っていなければならないから、などと述べています。(「西松事件報告書」) 

 しかし、こうした言い分を認めていたのでは、政治資金規正法で企業団体から政治家個人への政治献金を禁止した意味がなくなってしまいます。というのは、ダミーの政治団体をつくればいくらでも裏献金ができることになるからです。従って、私は、その政治団体が実態のないダミー組織であることを政治家個人(あるいはそれを受ける秘書)が認識していたと立証されれば、それが「形式犯」で済まされることはないと思います。

 そもそも、1994年の政治資金規正法改正――企業団体献金は政治家が代表を務める政党支部と資金管理団体の二つに限る。政治家個人に対する企業団体からの政治献金はその五年後から全面禁止――や政党助成法の成立を主導したのは、細川連立内閣の時の小沢氏でした。その本人が、ダミー組織を介して企業団体献金を受け続けてきたということになれば、政治家としてのモラルや責任が問われて当然でしょう。まして、新生党や自由党解党時の政党助成金の残金の大半を、解党直前に自分の政治団体に寄付?していたということになればなおさらです。

 また、今回の「陸山会」の土地購入を巡る政治資金規正法違反事件についても、この件に関する収支報告書の記載漏れは、とても事務ミスとか計算間違いなどといえるものではありません。次の、産経ニュースの小沢氏と陸山会及び関係政治団体間の資金の流れ図を見て下さい。

 この表の内、陸山会の政治資金収支報告書に記載のあったものは、ベージュ色の背景の部分だけで、それ以外の資金の流れは全て不記載です。これらのうち、原資不明とされているものは、小沢氏分については、いわゆる”タンス預金”で出所が全く分からないもの。その他は、陸山会の収支報告書や関連政治団体の報告書に記載のないものです。

 また、上図で、現在判っているものは次のようなことです。

 ①及び②を不記載にしたのは、小沢氏が”タンス預金”を4億円も持っていたことを、民主党の党首選前であったので隠したかったから。そこで銀行から4億円の融資を受けて土地購入したように偽装した。

 ③は、銀行から土地購入資金4億円を融資してもらうためには担保が必要となった。しかし、陸山会の資金は収支報告書上では2.2億しかなかっので、その不足分を補填するため、小沢氏の三つの政治団体(小沢一郎政経研究会・誠山会・民主党岩手県第4区総支部)から陸山会に1.8億円を入金した。しかし、このことは陸山会の収支報告書には記載があるものの、陸山会の通帳や関連政治団体の報告書には記載がなく原資不明となっている。

 ④は、土地の購入日を実際に購入した年の翌年の17年1月7日としたため、陸山会の収支報告書上では残金が不足した。そのため、その直前の1月5日に「小沢一郎政経研究会」など二つの関連政治団体から2.8億円の寄付を受けたように報告書に架空記載した。(池田容疑者供述)

 ⑤は、石川容疑者らが、土地代金に充てた4億円とは別の4億円を陸山会の口座に入金し、5月に⑥4億円全額を引き出したもの。また、07年5月頃、同会から⑦4億円が出金され、池田容疑者は、これは、土地代金に充てた4億円の返済として小沢氏に渡したもの、と供述している。これらは全て収支報告書には記載されていない。

 なお、①と⑤と同時期に、胆沢ダムの工事受注の謝礼として水谷建設より5,000万円づつ計一億円の裏献金がなされたと、水谷建設の元重役は次のように証言しています。

 「水谷と小沢側近は、赤坂のANAインターコンチ、2階にあるアトリウムラウンジで会った。水谷が渡した相手は、1回目が石川知裕に5千万円、2回目が大久保隆規に5千万円だったと特捜部に証言した。水谷建設は、「胆沢ダムは小沢先生の影響力が強かったので、小沢事務所に挨拶をした。そして1億円は見積もりに水増して、鹿島に請求し、鹿島から戻してもらった」(毎日新聞)。しかし、石川、大久保両氏ともこれを全面否認しています。

 ではなぜ、こうした、極めて不透明かつ複雑な資金の流れがなされたのか、なぜ、ベージュ色の背景部分だけしか収支報告書に記載されなかったのか・・・。一説では、小沢氏は自己資金で土地を買えば良かったのに、うっかり陸山会購入としたためこのようなことになったのではないか。そうであれば、これは自分のお金がグルグル回っただけで悪質とは言えない、などというものです。

 だが、これはとてもそのような単純な話では済まないと思いますね。これだけの虚偽記載をしていることが明らかになれば、政治資金規正法違反に問われるのは当然です。そのポイントは、これらの原資不明の資金がどこから出たのかということです。先の郷原氏も「小沢氏はすみやかに原資の出所を明らかにすべきだ」といっています。もちろんそれで小沢氏の個人資金であったことがはっきりすれば、当然政治資金収支報告書違反の悪質性も低く評価され、秘書の罪も軽くなります。

 以上、「陸山会」の土地購入を巡る政治資金規正法違反事件で、小沢氏の元秘書及び現秘書が起訴され、一方小沢氏は嫌疑不十分で不起訴となったことについての私見を申し述べました。再度その結論を申し上げるならば、「小沢氏はすみやかに不明とされる原資の出所を明らかにせよ」ということです。といっても、いずれこのことは、三人の公判の中で明らかにされるとは思いますが。