日米首脳会談共同記者会見におけるオバマ大統領の「No」の意味

2009年11月19日 (木)

日米首脳会談後のオバマ大統領と日本人記者とのやりとりで、一瞬”緊張”を感じた人も多かったのではないでしょうか。

 記者のオバマ大統領に対する質問は次の通りです。質問は三組あり、一、二組にはそれぞれ関連した二つの質問が含まれていました。

1-① 政権期間中に広島と長崎への訪問なさってはいかがでしょうか。その希望はお持ちでしょうか。
1-② そして、広島と長崎の核爆弾投下の歴史的意味をどのようにお考えでしょうか。あれは正しい決定だったでしょうか?

2-① また、北朝鮮の状況考慮したうえで、日米同盟はどのように強化されるべきでしょうか。
2-② この分野において核兵器削減に両国はどのように協調すべきでしょうか。

3 また、普天間飛行場移設問題について、いつまでの解決と想定していらっしゃるでしょうか。日本がこの決定を先延ばしにすべきでしょうか。例えば、来年まで、あるいは現在の協議の外で決めることでしょうか。どのようにお考えでしょうか。

 これに対するオバマ大統領の応答は次のようなものでした。
まず、前置きとして、
Let me, first of all, insist that the United States and Japan are equal partners. We have been and we will continue to be. Each country brings specific assets and strengths to the relationship, but we proceed based on mutual interest and mutual respect, and that will continue.

 さて、まず第一に、米国と日本は対等のパートナーであると申し上げたい。これまでもそしてこれからもです。両国は、相互の関係についてそれぞれに独自の利益と熱意を持っています。しかし、私たちは、相互利益・相互尊重の精神に基づいてそれを推進しており、それは今後も継続されるでしょう。

(作業グループの立ち上げ)
3 That's reflected in the Japan-U.S. alliance. It will be reflected in the resolution of the base realignment issues related to Futenma. As the Prime Minister indicated, we discussed this.

 こうした関係は日米同盟に反映してきました。それは、普天間飛行場に関わる米軍再編の決定にも反映するでしょう。鳩山首相が述べましたように、私たちはこのことについて話し合いました。

The United States and Japan have set up a high-level working group that will focus on implementation of the agreement that our two governments reached with respect to the restructuring of U.S. forces in Okinawa, and we hope to complete this work expeditiously.

(その結果)米国と日本は高レベルの作業グループを設置することとし、そこで、私たちは沖縄における米軍再編に関する二国間合意の実行に焦点を合わせ(て議論す)ることにしました。私はこの作業が迅速に完遂されることを期待しています。

(基地の負担軽減)
Our goal remains the same, and that's to provide for the defense of Japan with minimal intrusion on the lives of the people who share this space.

 私たちの目標は同じです。それは基地提供に関わる人々の生活への悪影響を最小限にしつつ日本に防衛力を提供することです。

(アメリカ人への感謝)
And I have to say that I am extraordinarily proud and grateful for the men and women in uniform from the United States who help us to honor our obligations to the alliance and our treaties.

 そして、私は、この同盟条約に対する私たちの義務の遵守に尽力している(制服の)米国人たちに対して、特別の誇りとともに感謝の念をもっていることを申し述べたいと思います。

2-②核拡散防止、核兵器廃絶
With respect to nuclear weapons and the issues of non-proliferation, this is an area where Prime Minister Hatoyama and I have discussed repeatedly in our meetings. We share, I think, a vision of a world without nuclear weapons. We recognize, though, that this is a distant goal, and we have to take specific steps in the interim to meet this goal. It will take time. It will not be reached probably even in our own lifetimes. But in seeking this goal we can stop the spread of nuclear weapons; we can secure loose nuclear weapons; we can strengthen the non-proliferation regime.

 核兵器とその拡散防止の問題については、鳩山首相と私は、私たちの会議を通じて何度も議論してきました。私たちは核兵器の無い世界についての未来像を共有している、と私は考えています。私たちは、これは遠い未来のことではあるけれども、この目標を達成するためには暫定的な複数の段階を経る必要があると認識しています。それは時間を要します。たぶん私たちの一生間には到達できないかもしれません。しかし、このこの目標を追求するなかで、核兵器の拡散をストップさせることはできるし、核兵器の削減を確実にすることすることができます。私たちは核拡散防止体制を強化することができます。

As long as nuclear weapons exist, we will retain our deterrent for our people and our allies, but we are already taking steps to bring down our nuclear stockpiles and -- in cooperation with the Russian government -- and we want to continue to work on the non-proliferation issues.

 核兵器が存在する限り、私たちは、私たちの国民と同盟国を守るための抑止力を保持しますが、しかし、私たちは、すでにロシア政府と協調して核兵器の保有量を減らすことに着手しています。そして、この核拡散防止の問題に関する仕事を継続したいと思っています。

1-②(広島、長崎原爆問題について)
Now, obviously Japan has unique perspective on the issue of nuclear weapons as a consequence of Hiroshima and Nagasaki. And that I'm sure helps to motivate the Prime Minister's deep interest in this issue.

 さて、当然のことですが、日本は広島と長崎に対する(原爆投下)の結果として、核兵器問題に対する独自の視点を持っています。そして、私は、この問題に関する鳩山首相の深い関与を励ますべく、支援を確かなものにしていきたいと思っています。

1-①(広島、長崎訪問について)
I certainly would be honored, it would be meaningful for me to visit those two cities in the future. I don't have immediate travel plans, but it's something that would be meaningful to me.

 私は、将来それらの二つの都市を訪問することは、私にとって確かに名誉なことであり、意義深いことであろうと思っています。近々の訪問計画は持っていませんが、しかし、それは私にとって意義深いものであります。

2-①(北朝鮮問題について)
You had one more question, and I'm not sure I remember it. Was it North Korea?

もう一つ質問がありましたね、記憶が不確かなのですが。北朝鮮でしたっけ?

Q Whether or not you believe that the U.S. dropped a nuclear weapon on Hiroshima and Nagasaki -- it was right?

質問者 米国が広島と長崎に核爆弾を投下したことを、あなたは正しいことだとお考えですか?

PRESIDENT OBAMA  No, there were three sets of questions, right? You asked about North Korea?

オバマ大統領 いいえ、質問は三組でした。そうですよね。あなたは北朝鮮について質問しましたね?

Q I have North Korea as well, yes.

質問者:私は北朝鮮についても質問しました。はい。

PRESIDENT OBAMA  Yes. With respect to North Korea, we had a extensive discussion about how we should proceed with Pyongyang. (後略)

オバマ大統領 よろしい。北朝鮮問題についてですが、私たちは、北朝鮮政府とどのように交渉を進めるかについて、幅広い議論をしてきました。(後略)

(以上あくまで私訳です)

 両者の応答は以上の通りですが、これに対する日本のマスコミ一般の報道は、この興味深いやりとりの意味の詮索をスルーするものが多かったようです。この記者会見のプロトコル(外交儀礼)をチェックするものはいなかったのか、と疑問を呈する意見もありました。

 一方、次のように、その意味を解説する意見もありました。(参照

 「会見の後の質疑応答の部分で代表の日本側記者が「広島、長崎への原爆投下は正しかったとお考えですか?」という質問を投げかけた部分は、非常に重要なやり取りだったと言わざるを得ません。オバマ大統領は、明らかに狼狽していました。「ずいぶん沢山の質問ですねえ」とふざけて見せ、「最後の質問は何でしたっけ・・・北朝鮮の問題だったかな?」と巧妙に話題を振って、見事に「北朝鮮の話」を延々として時間切れに持ち込んだのです。要するに質問への回答を拒否した形になりました。オバマ大統領という人のスピーチや、質疑応答での対処はずいぶん見てきていますが、こうした光景は異例です。

 その前の部分では、広島・長崎への訪問予定に関しては「短期的には予定はありません」としながらも「訪問ができたら大変な名誉です」という言い方で、「ニュートラル+やや前向き」の回答をしていましたが、「短期的には予定はない」という発言の部分については、「原爆投下の是非」への回答拒否と併せて、これも重苦しい瞬間でした。この重苦しさをどう乗り越えてゆけば、良いのか、それはオバマの問題であるだけでなく、日本側としてももっと真剣に考えて行かねばならないと思います。」

 これはオバマ大統領は「原爆投下の是非」について回答を拒否した、という意見ですが、私は、より正確には、次のように解釈すべきではないか、と思いました。

オバマ大統領 もう一つ質問がありましたね、記憶が不確かなのですが。北朝鮮でしたっけ?
質問者: 米国が広島と長崎に核爆弾を投下したことを、あなたは正しいことだとお考えですか?
オバマ大統領 いいえ(残っている質問はそれではありません)、あなたは3セットの質問をしたのですよ(質問番号を確認=筆者)。そこで、私はまず3の質問について答えました。それから2-②、そして1-②、1-①の順で答えました。残った質問は2-①北朝鮮に関する質問のはずです。そうですよね。
質問者 私は北朝鮮についても質問しました。はい。

 つまり、オバマ大統領は、記者の再質問に対する回答を拒否したのではなく、その質問については、1-②ですでに答えられる範囲で答えた。あなたが今繰り返した質問は残された質問ではない、といったのではないでしょうか。だから、「No!」といった。そして、その説明として”あなたの質問は三組あった。”と質問の数を質問者に確認した上で、残された質問は”北朝鮮について”ですね、と念を押したのではないでしょうか。その質問に対する回答を拒否あるいははぐらかすためなら、「No!」という断定的な言い方はしませんし、質問の数を確認するようなことをする必要はありませんから。では、なぜ、あえて、「もう一つ質問がありましたね、記憶が不確かなのですが。北朝鮮でしたっけ?」という質問を記者にあえてしたか。

 それは、大統領は、この質問にはすでに答えられる範囲で答えているという事実の確認を求めると共に、その非礼を指摘する意味もあったのではないでしょうか。

 もしそうだとすれば、瞬時にこれだけの周到な弁論を組み立て、質問者に、「No!」を突きつける討論術は、さすがに見事というほかありません。

 ところで、普天間基地をめぐる日本側の対応について、オバマ大統領があえて、次の言葉を日本人に突きつけたことの意味を了解した日本人は一体どれだけいたでしょうか。

「私は、この同盟条約に対する私たちの義務の遵守に尽力している(制服の)米国人たちに対して、特別の誇りと感謝の念をもっていることを申し述べたいと思います。」

 ここでは、日本人の、この同盟に対する貢献が言及されていないことに注目すべきだと思います。