民主党代表選挙各候補の演説を聞いて思ったこと、日本を滅ぼすものは「和」
民主党には辟易していますので、代表選挙の演説も全く聴く気がしませんでした。でも、野田候補の”どじょう演説”にはいささかびっくりしましたし、なんかしらん、それがうけたらしく、本命とされた海江田候補を破って、氏が新首相に選出されました。そこで、私も、ネットでその演説を聞いてみることにしました。ついでに、他の候補の演説も聴いてみました。 率直な感想を申し上げると、野田氏の”どじょう演説”は「どじょう」ではなく「同情」だと思いました。地盤も看板もカバンもなく、駅前で何十年も辻立ちして庶民の「同情」をかって政治家になったんだなーという印象、そんなにしなければ庶民は政治家になれないのかという「同情」、それでは、政策の勉強する時間はなかっただろうという「同情」・・・です。 マスコミ評では、氏は演説が上手だとかで、例えば、アサガオのお話・・・アサガオが早朝に可憐な花を咲かせるには何が必要か・・・それは陽の光ではない、夜の闇と冷たさです・・・。なるほど、駅前に辻立ちして演説する日々、夜明け前の闇は深く冷たかったろう。そう思うと、”どじょうが金魚のまねをしてもしょうがねえじゃん”という言葉の感じもつかめます。 まあ、政治家の手慣れた演説におけるレトリックですから、目くじら立てることもないわけですが、問題は、氏が、同じ演説の中で、始めて政治家の仕事を意識した時のこととして、浅沼稲次郎が演説の途中、壇上で右翼の青年に刺殺されたことに言及したことです。氏がそれを繰り返しテレビで見ていた時、氏のお母さんは”政治家って、命がけ・・・なのよ”と言ったとか。 確かに政治は”命がけ”でした。特に戦前はそうでした。それが怖くて多くの政治家は軍に迎合し口をつぐみましたが・・・。また、戦後も一時期まではそうでした、そして、今、”命がけ”という政治家の言葉は、”口先だけ”の言葉になっています。殊に今の民主党の政治家を見ていると、彼等が”命がけ”になっているのは、「ことば」ではなくて「権力」なのではないかと・・・。 このことが、野田氏の先の演説にも現れているのです。つまり、氏が紹介した二種類のエピソードは、互いに遊離していて接点がない。つまり、”どじょうが金魚のまねをしてもしょうがねえじゃん”という言葉は、”金魚になってあぶない目に会うようなことはしない”。つまり、政治家が自らの「ことば」に固執して”命を賭ける”ようなことはしないという意味になってしまいます。 それから、ついでに他の候補者の演説についても、私の印象を記しておきます。 前原氏は、その演説を、外国人から政治献金を受けていたことの言い訳から始めましたが、長すぎて、まさに”言い訳”になりました。代表(=首相)候補の演説を”言い訳”から始めるなんて変ですね。なお、後半の言葉からは、民主党が国民に約束したマニフェストが破綻したことが明らかになったために、政権交代時の民主党の政策理念までが消滅しつつあることについての危機感が感じられました。 実は、民主党の政権交代時の約束=マニフェストには搾術がありました。それは、民主党が掲げた政治主導、公務員制度改革、地方分権、事業仕分けなどは、実は、小泉構造改革の理念を継承するものだったのですが、それを認めてしまうと政権交替できない。そこで、その負の部分を「格差拡大」と攻撃することにしたのです。さらに「ばらまき4K」で国民を利益誘導しようとしました。 このトリックをちゃんと自覚しているのが小沢氏で、だから、これはインチキではない本物だ!と言い張らなければならないのです。また、この事実を認識してはいるが、このインチキのおかげで首相になれたのだから、この戦術を編み出した小沢氏への恩を忘れてはいけない、というのが鳩山氏です。一方、やっぱりまずかったなあ、と反省しているのが、前原氏でしょう。 だから、なんとかして、4K以前の、民主党が自民党を打倒して政権交代を果たした、その原点となった理念を回復したいと思っている。しかしそうすると、民主党のそれは小泉構造改革の理念を継承するものだったということが暴露されてしまう。つまり、政権交代時のトリックいやインチキが国民にばれてしまうのです。そんなジレンマを、氏の演説からは感じとることができました。 それにしても、この4Kはひどい。それが大衆受けを狙った擬似餌だったこともさることながら、この政策はことごとく、彼等の宣伝文句とは裏腹に「格差拡大」になっているからです。子ども手当はちゃんとした所得制限さえ入れれば、月3万の給付も可能です。そもそも児童手当の所得制限さえ高すぎた。また、高校授業料無償化も高速道路無料化も農家の個別保障制度についても同様です。 ではなぜ民主党はこんなでたらめな、うそで固めた政策に固執するのか、なぜこれに対して一定の支持があるのか。いうまでもなく、これは民主党票の買収費用だからです。”こどもは社会が育てる”なんて、よその国のまねごとを言っていますが、本気でそれを信じているなら、なぜ、ちゃんと所得制限を入れて、年収数百万以下の世帯の子育てを支援しないのか。 また、馬淵候補の演説ですが、氏は、小学校卒で土建業から身を起こして首相になった今(昔?)太閤田中元首相を尊敬しているらしく、列島改造論に入れ込んでいる様子がよく分かりました。日本列島改造を田中元首相がやったように、自分も、思い通りに、法律をバンバン作って日本を作り変える・・・そんな政治家像を民主党の代表選挙で堂々と披露するなんて、アナクロな話です。 なお、そうした言葉の後で、氏は、野党時代に経験した自民党の政官業癒着の裁量行政や官僚の不作為を批判し、さらには、氏が国交大臣になった時に、いわゆる道路問題に切り込んだことなどについても言及しました。しかし、これらの問題は、田中元首相の政治手法によって生み出されたものであるとの反省は、氏の言葉からはついに聞くことができませんでした。 なお、氏の道路行政に対する考え方については、猪瀬氏が「馬淵氏のあきれた脳天気発言、高速道路無料化で」で厳しく批判しています。田中前首相の政治スタイルを理想としているために、猪瀬氏等が苦心して実現した改革(案)には賛成できないということなのでしょうか。また、”しがらみを断ち切る”という言葉を、当選3回の私を支持するために・・・と言う意味にも使っていました。 次に海江田氏の演説ですが、氏があえて総裁選に立候補したその主たる動機、それは菅首相の仕打ちに対する怨みだということがミエミエでした。オレが首相になって菅に仕返しする。私しか知らないこと、できないことがある。そのためには、小沢氏の党員資格停止処分の取消し、三党合意の撤回、TPPの撤回など何でもやる!そして小沢の支持を取り付けて首相になる。その演説の締めくくりの言葉は、首相になったら、”ドアは開けて(オープン)おきます”でしたが、已に首相になったつもりだったのでしょう。 最後に鹿野氏の演説ですが、今、政治がやらなければならないことは、大震災からの復興、原発の早期収束だと言っていました。その通りですね。ほんとは菅首相もそうしなければならなかったのですが、菅氏は、自然エネルギー買取法案など、後の人がやればいいようなことを、自分の名を歴史に残すために、あえてそれを自分の退陣条件にまで入れて、これを拙速に成立させました。 その他に、円高デフレ対策について、ドル安ユーロ安について欧米と協調体制をとること、社会保障と税の一体改革、財政再建の必要性、内向きになっている外交を立て直して日米同盟を強化すること、違憲状態となっている参議院の選挙制度を早急に改革すること、地震、北朝鮮、テロに備える危機管理などについて、網羅的に今後の政策課題について言及しました。 そして、演説の最後の締めくくりとして、2年間の民主党政治の反省を踏まえて、政権交代時の原点に返ること、そのためには民主党内の融合と和が必要なこと、そのことを、聖徳太子の「和を以て貴しとなす」を引用して力説しました。また、「知行合一」のことも?。で、この時、私は、日本を滅ぼすものは「和」である、といった塩野七生氏の次のような言葉を思い出しました。 (山本七平の言)「『貞観政要』の中にはさまざまの学ぶべき点があるが、何やら日本の欠点を指摘されているような気持になるのがこの部分である。前に塩野七生氏と対談した時、その国を興隆に導いた要因が裏目に出ると、それがそのまま国を滅ぼす要因となる、と私が言うと、氏は即座に賛成され、間髪入れず、日本の場合はそれが「和」であろうと指摘された」(『帝王学』山本七平) げに、危機において日本を滅ぼすものは「和」であって、民主党の次世代を担うべき若きリーダーたちは、この日本の抱える恐るべき問題の意味を少しも分かっていないようです。ということは、民主党の破滅は近いと言うこと。もちろん野田内閣は何も決められず、最後の断末魔の修羅場を演ずることになるでしょう。それが民主党の破滅なら一向にかまわないわけですが・・・。 |