福島大臣罷免、社民党連立離脱を歓迎する――自らの言葉(=思想)に責任を持つことが大切!

2010年5月29日 (土)

  28日夜、鳩山首相は社民党の福島大臣を罷免しました。このことは、民主党と社民党の日本の安全保障政策に関する基本的考え方が異なっている以上、こうした局面では、選挙対策より安全保障を優先せざるを得ないのですから、”当然のことが行われた”ということだと思います。社民党としては、鳩山首相の「善意の論理」をうまく利用して、自らの安全保障政策(注1)を実現させようとしたわけですが、残念ながら、首相もそこまでは脳天気ではなかった訳で、まあ、”作戦失敗!”というところが社民党の本音なのではないでしょうか。

(注1)「日米安保条約の軍事同盟の側面を弱めながらその役割を終わらせ、経済や文化面での協力を中心にした平和友好条約への転換を目指します。」というもの

 ただ、沖縄の人びとの反発、特に社民党のいうような安全保障観に基づく基地の撤去ができると期待してきた人びとの落胆と怒りはそれは大きいでしょうね。まさか、首相が何の確証もなく「最低でも県外、できれば国外」等というはずはないと、誰でも思いますから。おそらく、こうした人たちは、軍事的にもそれが可能だと信じたに違いありません。といっても、この点についての責任は社民党の福島党首も同様だと思います。ただ、首相でなかったおかげで、その責任追求を免れているだけですから・・・(首相だったら、曾ての村山首相がそうであったように、先のような主張を押し通すことはできなかっただろう、ということ)

 ところで、今回の問題の処理について、小沢幹事長が必ずしも積極的に動いていない、というのはどうした事でしょうか。もともと、社民党や国民新党を連立に引き入れたのは小沢氏だったといいますから、こうした事態に陥るのは当然予測できたはずで、それを”知らんぷり”というのはいささか無責任なような気します。おそらく、小沢氏も、この局面ではこれ以外の選択肢はないとあきらめたのでしょう。しかし、選挙協力だけはなんとか残したいので、積極的な発言は控えた、ということなのではないでしょうか。

 そんなことで、28日の夜、鳩山首相の「普天間基地問題と沖縄県民の負担軽減について」の記者会見が行われたわけですが、その記者会見の内容は鳩山首相の真情がこもっていて意外と面白いものでした。以下、私が興味を持った部分を抜き出してみます。

 まず、沖縄県民が過重な基地負担に耐えてきたこと、そのことを多くの日本人が忘れがちになっていることについて、国民の注意を喚起することから始まりました。

 「日本の国土のわずか0.6%の沖縄県に、駐留米軍基地の75%が集中するという偏った負担がございます。米軍駐留に伴う爆音とも言えるほどの騒音などの負担や、基地が密集市街地に近接することの危険などを、沖縄の皆様方に背負っていただいてきたからこそ、今日の日本の平和と繁栄があると言っても過言ではありません。しかし、多くの日本人が、日常の日々の生活の中で、沖縄の、あるいは基地の所在する自治体の負担をつい忘れがちになっているのではないでしょうか。」

 また、沖縄が先の大戦で強いられた犠牲についての指摘、
「国内でほぼ唯一の、最大規模の地上戦を経験し、多くの犠牲を強いられることとなりました。ここでもまた、沖縄が、本土の安全のための防波堤となったのであります。」

 さらに戦後は、
「27年間(38年間の間違い)わたるアメリカ統治下でのご苦労、さらに返還後も、基地の負担を一身に担ってきたご苦労を思えば、現在の基地問題を、沖縄に対する不当な差別であると考える沖縄県民の皆様方のお気持ちは、痛いほど分かります。」

  また、このような、日本の安全保障のために沖縄が負担してきた「犠牲」についてだけでなく、駐留米軍に勤務する米国の若者が負っている「犠牲」についても次のように言及しました。これは、おそらくオバマ大統領の立場に配慮を示したもの(参照)ではないかと推測されますが、日本の首相が日本国民に訴える言葉としては、はじめてではないかと思い、私はこれは大事な観点なのではないかと思いました。

 「しかし、同時に、米軍基地の存在もまた、日本の安全保障上、なくてはならないものでございます。遠く数千キロも郷里を離れて、日本に駐留し、日本を含む極東の安全保障のために日々汗を流してくれている米国の若者たちが約5万人も存在することを、私たちは日々実感しているでしょうか。彼らの犠牲もまた、私たちは忘れてはならないと思います。」

 そして、これらの犠牲によって我が国やアジア太平洋地域の平和が保たれていることについて、1972年5月15日、「沖縄復帰にあたっての政府の声明」を引用し次のように言いました。
「沖縄を平和の島とし、我が国とアジア大陸、東南アジア、さらに広く太平洋圏諸国との経済的、文化的交流の新たな舞台とすることこそ、この地に尊い生命をささげられた多くの方々の霊を慰める道であり、われわれ国民の誓いでなければならない。」

 次に、日米安保と沖縄の基地問題に民主党がどのように取り組んだか、その経過と結果について、
「・・・戦後初めての選挙による政権交代を成し遂げた、国民の大きな期待の元に誕生した新政権の責務として、大きな転換が図れないか、真剣に検討いたしました。
市街地のど真ん中に位置する普天間基地の危険をどうにかして少しでも除去できないか、加えて、沖縄県民の過重な負担や危険を、少しでも、一歩ずつでも具体的に軽減する方策がないものか、真剣に検討を重ねてまいりました。

 そのために、普天間の代替施設を「県外」に移せないか、徳之島をはじめ全国の他の地域で沖縄の御負担を少しでも引き受けていただけないか、私なりに一生懸命努力をしてまいったつもりでございます。」

 また、「当然のことながら、米国との間では、安全保障上の観点に留意しながら、沖縄の負担軽減と普天間の危険性の除去を最大限実現するためにギリギリの交渉を行ってまいりました。そうした中で、日本国民の平和と安全の維持の観点から、さらには日米のみならず東アジア全域の平和と安全秩序の維持の観点から、海兵隊を含む在日米軍の抑止力についても、慎重な熟慮を加えた結果が、本日の閣議決定(参照)でございます。」

 次に、こうして出された日米安全保障協議委員会による「日米共同声明」の内容について、いまだ沖縄県民の理解が得られていないこと、また福島大臣を罷免せざるをえなかったことについての、鳩山首相の率直なお詫びが述べられました。 

 「残念ながら、現時点において、もっとも大切な沖縄県民の皆様方の御理解を得られるには至っていないと思っております。また連立のパートナーであり、社民党党首であります福島大臣にも残念ながらご理解をいただけませんでした。結果として、福島大臣を罷免せざるを得ない事態に立ち至りました。

 こうした状況のもとで、本日、閣議決定に至ったことは、誠に申し訳ない思いで一杯でございます。また、検討を重ねる過程で、関係閣僚も含めた政府部内での議論が、沖縄県民の皆様方や徳之島の住民の皆様を始め、多大のご心配やご不安をあおる結果になったことも含め、ここにお詫びを申しあげます。」

 しかし、こうした問題の解決のためには、今回決定した政府案を出発点として進むほかないとして、国民に対して次のように訴えがなされました。

 「また沖縄の負担軽減のためには、全国の皆様の御理解と御協力が何よりも大切でございます。国民の皆様、どうか、是非、沖縄の痛みをわが身のこととお考え願いたい。沖縄の負担軽減に、どうかご協力いただきたい。あらためて強くお願いを申し上げます。

 本日、私は、この厳しい決断をいたしました。私は、今後も、この問題の全面的な解決に向けて、命がけで取り組んでまいらなければならないと思っています。沖縄の皆様、国民の皆様、どうか、ご理解とご協力をお願いいたします。」

 続いて、閣議決定の具体的内容と経緯の説明として、
「民主党自身も野党時代に県外、国外移設を主張してきたという経緯がある中で、政府は昨年9月の発足以来、普天間飛行場の代替施設に関する過去の日米合意について、見直し作業を実施をいたしました。・・・こうしたことから、昨年12月、新たな代替施設を探すことを決めました。

 その後の5ヶ月間、何とか県外に代替施設を見つけられないか、という強い思いの下、沖縄県内と県外を含め、40数か所の場所について、移設の可能性を探りました。

 しかし、大きな問題は、海兵隊の一体運用の必要性でございました。沖縄の海兵隊は、一体となって活動します。この全体を一括りにして本土に移すという選択肢は、現実にはありえませんでした。ヘリ部隊を地上部隊などと切り離し、沖縄から遠く離れた場所に移設する、ということもかないませんでした。

 比較的沖縄に近い鹿児島県の徳之島への移設についても検討しましたが、米側とのやり取りの結果、距離的に困難、との結論に至りました。この間、徳之島の方々には、ご心配とご迷惑をおかけし、厳しい声も頂戴しました。大変申し訳なく思っています。」

 「しかし、それでも私が沖縄県内、それも辺野古にお願いせざるをえないと決めたのは、代替施設を決めない限り、普天間飛行場が返還されることはないからでございます。海兵隊8千人等のグアム移転や、嘉手納以南の米軍基地の返還も、代替施設が決まらないと動きません。この現実の下で、危険性の除去と負担軽減を優先する。それが、今回の決定であることを、どうかご理解を願いたい。」

 また、「新たな代替施設については、詳細な場所や工法などについて環境面や地元の皆様への影響などを考慮して計画をつくります。地元の方々との対話を心がけてまいります。沖縄の方々、特に名護市の多くの方々が、とても受け入れられない、とお怒りになられることは、重々わかります。それでも、私は敢えて、お願いをせざるをえません。」

 もちろん、今後とも、沖縄の負担軽減と危険性の除去には努力してまいります。しかし「そのためには、他の自治体に米軍等の訓練受入れをお願いしなければなりません。昨日、全国の知事さん方にもお願いしました。今後もご理解を求めてまいります。また、今回の日米合意では、徳之島の皆様にご協力をお願いすることも検討することといたしました。今後もよく話し合ってまいります。」

 この点については、今回米国との合意の中で、「県外への訓練移転のほか、沖縄本島の東方海域の米軍訓練区域について、漁業関係者の方々などが通過できるよう合意をしました。また、基地をめぐる環境の問題についても、新たな合意をめざして検討することにいたしました。今後はその具体化に力を尽くしてまいります。」

 そこで、あらためて、「ここに至るまでの間、国民の皆さんや沖縄県民、関係者の皆様にご心配とご迷惑をおかけしたこと」について「あらためて、今一度、心からお詫びを申し上げます。」と謝罪した上で、国民へのお願いとして、

 「政府は、私が示しました方針に基づき、普天間飛行場返還のための代替施設の建設と、沖縄の負担軽減策の充実に向けて、これから邁進してまいります。今後とも、沖縄のみなさんとは、真摯に話し合わせていただきたい。沖縄県以外の自治体の方々にも、協力をお願いしてまいりたい。国民の皆様方が心を一つにして、基地問題の解決に向けて知恵を出し合っていきたいと思います。」

 最後に――ここが重要ですが――自国の平和を主体的に守ることができる国になることの大切さが国民に訴えられています。

 「どんなに時間がかかっても、自国の平和を主体的に守ることができる国に日本をつくっていきたい、と私は考えております。日米同盟の深化や東アジア共同体構想を含め、私たち日本人の英知を結集していこうではありませんか。沖縄の基地問題の真の解決も、その先にあると、私は思っております。」

 以上、鳩山首相の弁明というか、お詫びの言葉のエッセンスを紹介してきましたが、これを読んで皆さんはどう思われますか。

 私は、以前のエントリーで、鳩山首相の「善意の論理が招いた悪意」について論じましたが、その後の事態はほぼその通りに展開しました。では、今後はそれをどう処理すべきでしょうか。私は、それは、以上の鳩山首相の言葉の通り、特に沖縄県民に対して、そうした鳩山首相の「善意の論理」が招いた混乱について、率直にあやまる外ないと思います。

 しかし、社民党と同様に日米安保条約の軍事同盟としての役割を認めない人たちにとっては、沖縄から普天間基地を撤去する、というより、日本から米軍基地をなくすという方向での期待が裏切られた訳ですから、怒りは収まらないでしょう。今後は、こうした方たちは、連立離脱する(であろう?)社民党と連帯して、民主党の安全保障政策に異議を唱えていくほかないと思います。というのも、鳩山首相の場合は、沖縄の基地負担の軽減に引き続き取り組むとは言っても、それは「日米安保条約の軍事同盟としての役割」の再認識の上に立っているのですから。(*下線部分「民主党」と「社民党」に訂正5/30)

 では、沖縄における辺野古に基地を作らせない運動は今後どのように展開するでしょうか。”成田闘争のようになる”という人もいますが、私は、問題は「日米安保条約の軍事同盟としての役割」の認識が多くの国民に支持される限り、事態はそれほど深刻化することはないと思います。それより、その基地負担を沖縄以外の県がどれだけ分担しようとするか、そのことに焦点が移っていくのではないでしょうか。

 この件に関して、27日に行われた全国知事会議で、鳩山首相が、「(米軍)基地問題で沖縄県に多くの負担をお願いしているが、国民全体の問題として思いを分かち合ってほしい。・・・沖縄県内に普天間飛行場の移設先を見いださざるを得ないが、訓練の一部移転が皆さま方のふるさとで可能だという話があればありがたい」と要請しました。 

 これに対して、大阪府の橋下知事は、沖縄の負担軽減策が必要だと言及した上で、「大阪では何も負担をしておらず、安全のただ乗りの状態。沖縄の方には申し訳ない。沖縄の負担軽減についてはしっかりと話して行かなくてはならない」と述べています。

 東京都の石原知事は、尖閣諸島の領有権の問題で鳩山首相が「中国と話し合う」と述べたことに怒って途中退席したようです(これについてはその直後に岡田外相が、首相の見解を訂正した)。また、全国知事会としては、政府から具体的な提案があれば「関係市町村や住民の理解を前提とし、真摯(しんし)に対応していく」との見解をまとめました。当初の文案では「協力していく」となっていたそうですが。

 これに対して橋下知事は、「今は本州で基地を受け入れることができませんよと、沖縄県民に対して申し訳ないという意思を表示することが重要」と指摘。「結局、誰でも言えることだけ言って、責任を伴うようなことを何ひとつ言わない。(知事会が出した結論は)うちの小学生の息子でも言ってる」と憮然(ぶぜん)とした表情で答えています。

 私も、橋下知事の言う通りだと思いますね。今回の騒動の責任が鳩山首相にあることは言うまでもないとしても、それをいいことに、自分の責任を回避する態度もとるのも同様に間違っていると思います。というのは、鳩山首相の「善意の論理」のもつ陥穽に、多くの国民が陥っていることも事実ですから、この機会に、この問題を人ごとと思わず、自らの問題と再認識する必要があると思うからです。

 ともあれ、連立離脱した社民党が、その仮面を脱いで素顔のまま、自らの政策主張をするようになったことは、歓迎すべき事だと思います。いずれの立場であれ「自らの言葉(=思想)に責任を持つ」ことは、民主国家の政治家に要請される最低限の資質ですから。今後は、堂々と、その獲得した議席数に応じた発言力を行使していただきたい。それから、民主党にはもう一つ、亀井大臣の怨念政治をどう脱却するか、という課題が残っています。できることならこちらも、自力で問題解決してもらいたいですね。