小池都知事の犯した過ちの徹底検証

2017年6月29日

小池都知事については、私が2016年12月 5日 (月)「小池都知事、『根回しなし』は結構だが事実認識を誤っては元も子もない」
で論じたように、「第一次自己検証報告書」までは、地下水のモニタリング検査の意味や地下空間設置に至る事実関係をかなり正確に捉えていました。

小池知事「知事の部屋」/記者会見(平成28年9月30日)
「 記者】ジャーナリストの池上と申します。お疲れさまです。豊洲で基準値を超える汚染が出たことについてなのですけれども、今後、この土壌汚染対策法上の汚染区域の指定解除を行うのであれば、汚染が残っているかどうかの周辺調査をした上で対策が必要になると思うのですけれども、そういう、今後も指定解除を行うことを目指すのかどうかということ、これは都の方針として、知事としてはどうお考えなのかというのをちょっとお聞きしたいのですけれど。

【知事】土壌汚染対策法の観点からいたしますと、2年間のモニタリングをしてきたわけです。それで、形状変更時の届出区域の指定解除、そのために2年間続けるというものでございました。豊洲の市場用地というのは、これは土壌汚染対策法上でありますけれども、土壌汚染の摂取経路というのがそもそも土壌とか地下水の飲用利用というものはそもそもない。そして、健康被害が生じるおそれがない区域というものでございます。

ただ、自然由来ということがございますので、これらについては自然由来のものが含まれるということですから、そもそも解除ということにはならないのではないでしょうか、対象として。その土地そのものが。ということで、台帳からは消えないということになろうかと思います、その点については。

【記者】汚染区域の指定解除というのは、これは市場の人たちが求めている安全宣言の前提になるものではないかなと思うのですけれども、その辺についてはどう思いますか。

【知事】それについては、土壌汚染の対策法上とすれば、この土地がそうであるということ、今申し述べたとおりなのですけれども、それについては土対法という観点と、それから全体的な観点と、いつも私は総合的と言うのですけれども、農林水産大臣の方に、この土地は市場に適していますから、そして、指定をお願いをいたしますということをお願いする、そういうポイントがあるわけですから、そこのときは、総合的な判断ということになろうかと思います。そのことが、市場が求めておられることではないかと、このように考えております。」

「【記者】読売新聞の波多江と申します。築地の関係なのですけれども、延期の表明から間もなくちょうど1か月たつかと思うのですけれども、今新たな問題が次々と発覚していて、移転時期の決断の時期ですとか、あと、新たに市場関係者への補償、今どのようなことを考えているのか、そのあたりを教えてください。

【知事】時期につきましては、先ほども申し上げましたように、地下水のモニタリングについては、引き続き行うということでございまして、その結果は年明けになります。それから、今プロジェクトチームで、その他の安全性、例えば建物です。それから、空間があったわけでございますが、それによって耐震性などはどうかという新たな調査といいましょうか、新たな検証も必要でございます。そういったことを含めて、安心・安全、これらが科学的に、そしてまたちゃんと皆様方が感覚的にも分かっていただけるような、そういった、これは努力をしなければ、説明の努力、ヒ素とか聞くと、それだけでも、え?とびっくりされるわけですけれども、水の中には、環境基準以下で入っているケースというのは非常に、要はゼロリスク、ゼロはないということなのですが、そこら辺がなかなか見て国民の皆様方からすれば非常に敏感に感じ取られる部分がございます。そこはきっちりと説明していかなければなりません。それらのことを踏まえてどのような判断であれ、ファイナルな結論というのはそれらをベースにして進めていきたいと思っております。」

 ここでは、小池都知事は、地下水のモニタリング検査の意義とその扱いについて、ゼロリスクの罠に陥らないよう注意しつつ、あくまで科学的見地をベースとして、豊洲市場の安全性を総合的に判断するという慎重な姿勢を示していました。

 また、地下空間の設置については、土対法改正を想定し、建物下も地下水モニタリング検査ができるように検討したものであること。その出来映えについては「担当部局の中央卸売市場の職員が『日本で誰もやったことのない土壌汚染対策を短期間で仕上げた』と胸を張り、NHKの人気番組になぞらえて『プロジェクトX』だと思って取り組んだ」(産経ニュース2016.12.29)と言うような認識も持っていました。(記者会見で小池氏がこの件に言及していたように私は記憶します)

 つまり、このあたりまでは、真相解明に向けた常識的な対応だったわけですが、その後、事実解明と称して3代前の石原都知事に詳細な質問状を送りつけ(H28.10.7)それに対する石原氏の回答が「ゼロ回答」だったとマスコミに不満をぶちまけ(H28.10.14)たあたりから様相が変わって来ました。その後、その質問状や石原氏の回答書をマスコミに公開し、そのため石原氏はマスコミの嘲笑と攻撃に晒されるようになりました。

 そして、第二次自己検証報告書(H28.11.1)では、地下空間は都が示した整備方針に反すると決めつけ、関係部局の責任者を退職者も含めて処分すると共に、小池都知事は、市民団体が起こした「豊洲市場の用地購入を巡る住民訴訟に関し、購入当時の責任者だった石原慎太郎元知事に賠償責任はないとしていた従来の都の方針を見直すと表明し」「責任をあいまいにしてはいけない。いま1度、立ち止まって考える」とし、都側の弁護団の総入れ替えと、訴訟対応特別チームの設置」を決めました。

 私は、こうした小池都知事のやり方に疑問を感じ、2017年2月 5日 (日)「小池都知事は、なぜ石原慎太郎元都知事を「さらし者」にしようとするのか(1)」
と、2017年2月 5日 (日)「小池都知事は、なぜ石原慎太郎元都知事を「さらし者」にしようとするのか(2)」
で私見を表明しました。

 ただ、この第二次自己検証報告書発表の段階でも、小池都知事は次のようなことを言っています。

「振り返ってみれば、ちょうどこの平成20年というか、当時の状況を考えますと、都議会の方も、民主党が多数を占めているような状況でもございました。そういった中で、いろいろと都の職員も、いろいろな苦労もあったことかと思います。それとはまた、盛土がない、盛土を決めたのに地下空間にしたということと話は違いますけれども、全体を取り巻く環境というのは、かなり、これまでにないような状況にあったということも一つ思い出しておいた方がいいのかなと思います。」小池知事「知事の部屋」/記者会見(平成28年11月1日)

 これを見れば、地下空間設置の事実が、なぜ都庁内で共有されなかったかの政治的事情について、小池都知事は一定の理解を持っていたことになります。これに対して、当時民主党だった民進党が抗議めいた動きを見せたように、私は記憶しています。

 その後、約半年が経過しましたが、事態は、この時私が予測した通りに展開しました。小池都知事は石原元都知事を断罪することに失敗したあげく、豊洲への移転延期に伴う経費や補償金は日を追って累積し、移転賛成派と反対派の抗争は再燃し、また、市場問題プロジェクトチームは執拗に築地再整備を提言しました。結局、市場のあり方戦略本部での協議を経て、小池都知事は「市場を豊洲(江東区)に移す一方で、築地跡地を再開発して市場機能を持たせる基本方針を表明しました。(H29.6.22)

 これに対して、一体豊洲移転に重点があるのか、豊洲はあくまで種地として利用し、5年後には築地を再整備して市場を戻す事に重点があるのか、その解釈をめぐって混乱しました。私の解釈では、重点は前者に置かれていると思いました。こうなったのは、オリンピックに間に合うよう築地は更地にし環状2号線を通すと共に、空き地を駐車場として整備する必要に迫られたためだと思います。

 その一方で、小池都知事は、オリンピック終了後は、5年後を目処に築地を再整備し、豊洲に移した市場機能の一部を築地に戻し「食のテーマパーク」として再開発するとしています。また、「以前の計画では豊洲移転に伴い、築地市場を更地にして4386億円で売却。豊洲市場の総事業費5884億円の償還に充てる予定だったが、小池氏のプランでは都が管理し、民間に長期賃貸させたい」としています。

 しかし、5年後築地をどうするかという問題は、今後5年かけて検討すべき課題であって、5年後、今の移転反対派がどうなっているかも分かりません。また、築地の再開発をどうするかということも、築地を売るか売らないかという問題も、小池都知事が勝手に決められることではありません。それをあえて構想としてぶち上げるのは、豊洲移転の事実を曖昧にし、移転反対派の攻撃を逸らし、目前の選挙を有利に戦うための情報操作と言えるでしょう。

 なお、ここに至るまでの小池都知事のやり方をどう評価するかということですが、結局、当初の豊洲移転に戻ったわけで、一体、今までの石原たたきを始めとする豊洲汚染騒動は何だったのかということです。小池氏が取るべきだった最善の策は、言うまでもなく、第一次自己検証報告書の線で今回のような結論に持って行く事だったと思います。

 ところが、その後、小池都知事は、あたかも豊洲市場は汚染されていて使いものにならないかのごとき風評をまき散らし、その豊洲への市場移転を決定した石原元都知事の責任をマスコミを総動員して追及し、さらし者にし、自らは「リボンの騎士」を気取り人気を集めました。

 こうした石原攻撃が功を奏して、今回の都議選では小池氏が代表を務める都民ファーストの会が第一党を伺うほどの勢いを示しています。しかし、結局、豊洲に移転したということは豊洲の安全性に問題はなかったと言うことです。では、この間の騒ぎは何だったか、石原たたきは何だったか、それは一種の冤罪事件ではないか。都議会の100条委員会設置も時間と金の無駄、移転中止に伴う経費の発生や諸会議の設置もほとんど無駄だったと言うことになります。

 本来なら、小池都知事は、豊洲移転を決断した段階で、率直に自分の判断の誤りを認め、石原氏を始め関係者に対する謝罪などを行うべきです。しかし、小池氏はそうしたことのできる人物ではなく、行き着くところまで行くことになると思います。猪瀬氏は、自分の怨み晴らしを小池氏に託しているようですが、以上のような小池氏のやり方を見る限り、裏切られることは必定です。(参考:小池都知事における人望の研究)