東電はほんとに福島第一原発から全面撤退しようとしたのか

2011年9月 8日 (木)

9月8日の読売新聞は、福島第一原子力発電所の事故に関して、次のような驚愕すべき事実関係を報じています。

 〈枝野幸男前官房長官は7日、読売新聞のインタビューで、東京電力福島第一原子力発電所事故後の3月15日未明、東電の清水正孝社長(当時)と電話で話した際、作業員を同原発から全面撤退させたい、との意向を伝えられたと語った。

 東電関係者は、これまで全面撤退の申し出を否定している。菅前首相や海江田万里前経済産業相は「東電が作業員の撤退を申し出てきた」と説明してきたが、枝野氏は今回、撤退問題に関する具体的な経過を初めて公にした。

 枝野氏は、清水氏の発言について「全面撤退のことだと(政府側の)全員が共有している。そういう言い方だった」と指摘した。

 枝野氏によると、清水氏はまず、海江田氏に撤退を申し出たが拒否され、枝野氏に電話したという。枝野氏らが同原発の吉田昌郎所長や経済産業省原子力安全・保安院など関係機関に見解を求めたところ、吉田氏は「まだ頑張れる」と述べるなど、いずれも撤退は不要との見方を示した。〉

 この末尾の吉田氏の発言については、6月5日NHKスペシャル「事故はなぜ深刻化したのか」では、次のような説明がなされていました。

 〈15日になり、東電の清水社長から官邸に、5回ほど、現場から撤退したいと電話があった。そこで、菅首相が東電に乗り込み、「撤退したら東電はなくなる!」と叱咤激励し、東電と政府との総合対策本部を立ち上げた。寺田学議員はインタビューで、清水社長の電話には「撤退」と語句があったと語った。

 しかし、東電の古森常務は、「撤退」するとは言っていないと答え、番組では、現場にいた人間がインタビューに、床で寝込んでいた作業員のところに、吉田所長が来て、”頑張ってきたが限界だ!”として、300名ぐらい残っていた作業員に向い、”去りたい者は去っても(責任は)問わない”といい、70名が残った。〉

 私は、菅首相が東電に乗り込み、「撤退などあり得ない。覚悟を決めてほしい。撤退したときには東電は100%つぶれる」と怒鳴り散らしたとの報道を聞いた時、”東電が完全撤退するなんて言うはずがない。事故が深刻化したので、作業員の被爆を最小限に止めるため、必ずしも現場にいなくてもよい者は待避させる。事故対応は必要最小限の作業員で交替制でやる”と言ったはずだ。それを撤退と決めつけて怒鳴り散らすとは何事だ!と思いました。

 しかし、清水社長は菅前首相に首相官邸に呼ばれた時、今後の対応をどうするか首相に尋ねられて「明言しなかった」そうですから、それが事実なら、政府に「完全撤退」と受け取られても仕方ない。おそらく、東電本社は、事故対応に見通しを立てることができず、そこで、作業員の安全を図るため政府に撤退を申し出たのかも・・・。あとは、「自衛隊と米軍にその後の対応を委ねる構えだった」との報道もなされていましたので。(毎日新聞 3月18日(金)2時33分配信 )

 このため、菅首相は直後に東電本店に乗り込み「撤退などあり得ない・・・」と幹部らに迫った。つまり、これが、東電本社に、東電と政府との総合対策本部を立ち上げることになった理由だというのです。

 この点に関して枝野氏は、こうした菅氏の対応について「菅内閣への評価はいろいろあり得るが、あの瞬間はあの人が首相で良かった」と評価したとのことです。(2011年9月8日09時14分 読売新聞)

 幸いなことに、現場責任者である吉田所長の判断は、先のNHKスペシャルで説明されたように”去りたい者は去っても(責任は)問わない”で、その結果、70名が残った”のでした。当時、アメリカの報道でも、この残された約50名の作業員の英雄的な行為を称讃する声が報じられ、同時に、この50名がダウンした後を心配する報道もなされていたように記憶します。

 ということは、東電本社は、現場作業員を犠牲にすることを怖れて政府に撤退を打診したが、現場作業にあたった吉田所長以下作業員は、撤退するつもりはなかった。ただ、吉田所長としては、これは一種の「特攻」作戦ですから、その志願者を募ったというわけです。これは、現場指揮官としては当然の判断だったと思います。

 では、ここから何が見えてくるか?部下を殺すことに責任を取りたくなかった東電本社。現場を放棄することなく「特攻」志願者を募った現場指揮官・・・こんな図式が見えてくるのではないでしょうか。また、こうした東電本社の無責任な態度に、菅首相が「撤退などあり得ない」と幹部に厳命したことは、首相としては当然のことだったと思います。

 この間の事実関係を解明し、一連の事故の責任が何処にあったかを、国民の前に明らかにしていただきたいと思います。その結果、菅前首相の行為が評価されることになれば、日本国の最高リーダーとしての基本的資質は証明されたことになりますから、私も大変うれしく、菅前首相には感謝申し上げたいと思います。

 いずれにしても、福島第一原発の事故はこれほどひどいものであり、当然、政府もそれを把握していたわけですが、それにしては政府の発表もマスコミの報道も、こうした事実からは随分かけ離れていたように思います。パニックを避ける為とはいえ、こんな報道の仕方で良かったのでしょうか。そのために被害を拡大した部分があったのではないでしょうか。この面の事実関係もしっかり調査してもらいたいと思います。

*この記事で総合対策本部となっているのは「統合対策本部」が正しい。