政府の落ち着きは”不安の前の和気あいあい”か?

2011年3月18日 (金)

 本日のプライムニュース「福島第一原発の現状は、自衛隊をどう動かす」における元陸上自衛隊北部方面総監志方俊之氏(*金田秀昭氏としていましたが誤りでした)((現帝京大学教授)の発言は衝撃的でした。番組サイトで収録されたビデオではカットしてありますが、ほぼ次のようなことを言いました。

 現在行っている自衛隊のヘリコプターによる海水散水作戦及び陸上からの高性能消防車による放水作戦は、すでに現在自衛隊が持っている能力、つまり日本国が持っている能力を超えている。どういうことかというと、自衛隊員は(おそらく自衛隊法で)作戦行動をする時に受ける放射線量の上限が決まっており、それでヘリや消防車が原発に近づける高度や距離が決まる。しかし、現在の放射能レベルでは、ヘリからピンポイントで海水を落下させるほどヘリを近づけることはできない。このことは消防車についても言える。

 現在の自衛隊員に、そうした危険な作戦への参加を募れば、志願するものはたくさんいる。しかし、彼らに、そうした命の危険を伴うような作戦行の命令を下すことは憲法上できない。従って、本日のような作戦は、もっと放射能レベルが低い時点では有効だが、現段階では三百メートル上空からの海水を散布するようなことになり効果を期待できない。つまり、すでにこの作戦は、現在の自衛隊の能力、つまり日本国が持っている能力を超えている、というものでした。

 おそらく、現憲法のもつ「非常識」な側面を強調する含みでの発言ではないかとは思います。しかし、自衛隊というのは軍事力を行使して自国を他国の武力侵略から守るための組織であり、当然のことながら命がけの仕事である(採用の時そうした宣誓をするという)わけですから、上記の発言は私にはいささか奇異に感じられました。

 実際、本日のヘリコプターによる海水散布作戦は、テレビ放映されたのをご覧になった方にはお分かりと思いますが(世界のテレビもNHKの映像を繰り返し放映した)、ホバリングしてピンポイントを狙ったものではなく、通過しながら放水するもので、そのスピードも高度も4回ともまちまちでした。最も高い高度から放水したものはほとんど霧状になり、にわか雨程度の効果しかなかったでしょう。

 推測するに、ホバリングして海水をどっと落とせばその衝撃力はかなりのものになるし、通過しながら落とすことにしたのでしょう。また、高度や放水時間がまちまちだったのも、おそらく、いくつかの放水パターンをシュミレーションしたとしか考えられません。水のかかり具合によっては、水蒸気爆発を起こす危険性もあるし、他の機器に障害を及ぼす恐れもある。見た目にはいかにも”へっぴり腰”に見えましたが、事実は以上のようなことだったのではなかったかと推測します。

 また、自衛隊員に許されている被曝量の基準も今回の非常事態に対応すべく引き上げられたようですので、金田氏が言うほど硬直的なものではないと思います。だが、自衛隊の作戦行動に関する現憲法による制約は、現場指揮官にとっては”異常”なものと感じられているのでしょう。この異常さは、本日の陸自幕僚長や、空自幕僚長の記者会見の中でも現れていましたね。作戦行動の結果”隊員の身体に異常はなかった”とということばかり強調しているように見えました。

 それにしても、米国を始めとする外国政府が日本に滞在する自国民に福島原発から半径80キロ以外への避難、あるいは国外退避を勧告したということは、誠に驚くべきことです。枝野官房長官は、これを”自国民を守るための保守的な考え”として理解を示していましたが(日本国も同様のことがあればそうするという意味)、このことは、諸外国は福島原発の成り行きをそれだけ危機的に見ているということに他なりません。

 冒頭に紹介したプライムニュースでは、昨日のエントリーで言及したアメリカ軍が有する防護服のことや、無人偵察飛行機、さらには無線操縦の放水車のことなども出ていましたが、国内だけでなく外国からも放射能事故に備えた機材やノウハウの提供を受け万全を期すべきだと思います。とはいえ、危険を伴う作業を米軍に頼むわけにはいきませんから、日本人が自らが命をかけて処理するしかありません。きっと、諸外国は日本にそれが出来るかどうかを見ているのでしょう。

 実際には、現在、福島原発で高い放射能に身をさらしながら、手作業で原発の弁の開け閉めなどをしている作業員(五十名程度から百数十名に増えているらしい)がいます。米国では、これらの作業員の犠牲的行動が話題ななっているといいます。また同時に、彼らがダウンしたら一体どうなるのか、これが、彼らの恐怖心をもって見ている破局のシナリオでしょう。

 そんな非常の時に、自衛隊員が上記のような制約の中でしか行動できないとしたら、一体日本とはいうのはどういう国か、ということになります。しかし、現在の日本国政府の落ち着きぶりから見ると、炉心のメルトダウンなんか、例え最悪の場合でも起こるはずがないという確信を持っているに違いありません。

 もちろん、外国人のように逃げるわけにはいかないから、多少放射能を浴びても仕方がないと思っているのか、それとも現実を見るのが怖くて見ぬふりをしているのか、よくわかりません。いずれにしても、外国人は最悪のケースを想定しているわけで、世界で最も安全なはずの国が、世界で最も危険な国になったと言うことで大変なことだと思います。

 かすかに希望が持てるのは、東北電力の電気を供給できるようになったということで、電気系統の故障のない2号機から冷却ポンプを動かす作業に入るらしいことです。こうなれば、もしポンプが故障していればメーカーから持ち込む、配電盤が故障していればそれを取り替えるなどが可能になります。その準備は当然進めていると思いますが、ただ、その作業に当たる人は命がけです。でも、なんとかこれに成功してもらいたい。

 もしそれが成功しなければ、最悪の場合、まさに小松左京の「日本沈没」になりかねません。日本国民の一人として、日本政府の落ち着きぶり(特に枝野官房長官)は、真に事態を総合的に見通した上でのリーダーの落ち着きであってほしい。間違っても、かって山本七平が言ったような「不安の前の和気あいあい」であって欲しくない、そう願っています。(下線部訂正3/18)