2.生態系の再生

 海の生態系の再生は、海の生物の観察・研究から開始されます。そのためには、様々な生物のビデオ画像を撮影し、時間的経過を辿ることから、どんな魚がどこで産卵し、どこで産まれ、稚魚から大人の魚になるまでにどこでどのように育ってゆくのかを観察し、その魚が繁殖するのに適した環境を調査・研究するのです。
 また、海の生物は1,000万種以上、つまり陸上の生物約100万種の10倍以上といわれています*8が、深海には未知の生物もいるので、さらに膨大な数になります。これら各種海洋生物のデータを、例えば海洋開発センター(仮名 )のデータベースできちんと管理していくのです。
kairyu
 大陸棚や寒流と暖流が出会う潮目は豊かな漁場を作ります。日本の近海では、黒潮(暖流)と親潮(寒流)が交わり合う北西太平洋海域(三陸沖、常磐沖)が、北東大西洋海域、北西大西洋海域と共に、世界3大漁場に数えられています*9。さらに日本海も対馬海流(暖流)とリマン海流(寒流)が交わる豊かな漁場になっています(図3参照*5
 近海、例えば、伊豆諸島周辺海域には、カツオ、ムロアジ類、トビウオ類等の回遊性魚類、タカベ、イサキ等の岩礁性魚類、ムツ、キンメダイ等の深海性魚類、サザエ、イセエビ、イカ類等がいます*10。遠洋には、マグロ、カツオ、イカ等がいて、底引き網、延縄、一本釣、集魚灯を用いた釣等で漁獲されます。
 
日本の近海は魚のすみかとなる大陸棚が発達し、しかも、暖流と寒流がぶつかりあって潮目を作り、魚のエサとなるプランクトンが大量に発生するため、魚の種類が豊富で様々な漁業が発達、1991年まで世界一の漁獲量(FAO Fishstatデータ)を誇っていました。
図3「日本近海漁場」
出典:大日本水産会ウェブページより*5


sinkai
 海は、水深により表層(0〜200m)、中深層(200m〜1km)、漸深層(1〜4km)、深海層(4km〜)、超深海層(海溝のように深くえぐれた箇所)に分けられます(図4参照*11。中深層には、ムネエソ、ワニトカゲギス、ハダカイワシ等の遊泳性深海魚、漸深層には、チョウチンアンコウ、クジラウオ等の遊泳性深海魚がいます。深海層には、ソコダラのような底生漁がいます(図5A、B参照*12,13
 深海、すなわち、中深層より深い海域に住む魚類を「深海魚」といいます。深海では太陽光が極めて弱いので、大きな目玉を持つ魚がいる一方、さらに深い暗黒の世界では、落ち窪んだ小さな眼を持つ魚がいます。また、深海では、水圧が高いので、通常のガス交換する(気体を出し入れする)浮き袋は不適当であり、浮き袋の壁を頑丈なグアニン結晶で覆うもの、浮き袋の中が脂肪のもの等がいます*12。また、骨、筋肉等の高密度組織の量が減少しており、代わりに体に低比重の脂肪分や水分が多く含まれています*12(出典*14より)
 近年は養殖が盛んになり、養殖が日本漁業の約20%を占めます*15。ブリ(ハマチ)、マダイ、ヒラメ、クルマエビ等が養殖され*15,16、2002年には近畿大学水産研究所でクロマグロが完全養殖可能になったことが発表されました*17
 これら各種海洋生物について、卵から大人になるまでの一生を調査・研究し、生殖に良い環境を調べた研究成果を参考にして、良い環境を維持し、拡げていくのです。つまり、可能な範囲で、藻場・漁礁などによる環境作りを進め、計画的漁獲量を守ることにより、海の生態系を保護・再生するのです。
 
海の垂直区分
表層(epipelagic)
中深層(mesopelagic)
漸深層 (bathypelagic)
深海層(abyssopelagic)
超深海層(hadal zone, hadopelagic)

図4「海の垂直区分」
出典:フリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」より*11


hadakaiwashi
 ハダカイワシの仲間。ハダカイワシ類の多くは、夜間に餌を求めて浅海に浮上する日周鉛直移動をする。
kujirauo
 クジラウオ科の一種(Cetomimidae sp.)。鮮やかな紅色の体色、発達した側線と小さな眼が本科の特徴。
togarimuneeso
 トガリムネエソ Argyropelecus aculeatus(ムネエソ科)。上向きの管状眼と、著しく側扁した平べったい体をもつ。
sokodra
 ソコダラ科の一種(Macrouridae sp.)。ソコダラ類は消化管と繋がった発光器をもつ。
wanitokagegisu
 ホウライエソChauliodus sloani(ワニトカゲギス科)の標本展示(新江ノ島水族館)。本科魚類は中深層遊泳性の捕食者として重要な存在である。
ryugunotsukai
 リュウグウノツカイRegalecus glesne(リュウグウノツカイ科)。硬骨魚類として最大の体長をもち、シーサーペントや人魚伝説の元になったと考えられている。
図5A「深海漁」
出典:フリー百科事典(Wikipedia)より*12

 chochinankou

 水槽内のチョウチンアンコウ。
ankou-kokkaku
 1887年に描かれたチョウチンアンコウの骨格図。
 
図5B「水槽内のチョウチンアンコウとチョウチンアンコウの骨格図」
出典:フリー百科事典「ウィキペデア(Wikipedia)」より*13


 参考資料
*8 杉浦昭典、塚本勝巳監修、「海に住む生物の種類」、公益財団法人日本海事広報協会、海と船なるほど豆事典ウェブページ、[2011年11月14日検索]、
URL:http://www.kaijipr.or.jp/mamejiten/seibutsu/seibutsu_1.html
(Top Page)http://www.kaijipr.or.jp/
*9 「自然環境によって形成されてきた漁業・漁村と食文化」、平成22年度水産白書、第2節「我が国の魚食文化を支えてきた漁業・漁村」、p17
*10 「伊豆諸島の魚」、財団法人水産物市場改善協会ウェブページ、おさかな情報 No.4 1998年10月号、[2011年8月3日検索]、
URL:http://shimura.moo.jp/osakana1/jyouhou4.htm
*11 「深海」、「フリー百科事典 ウィキペディア(Wikipedia)日本語版」ウェブページ、[2011年7月21日(木)11:02更新]、
URL:http://ja.wikipedia.org/
*12 「深海魚」、「フリー百科事典 ウィキペディア(Wikipedia)日本語版」ウェブページ、[2011年9月7日(水)08:05更新]、
URL:http://ja.wikipedia.org/
*13 「チョウチンアンコウ」、「フリー百科事典 ウィキペディア(Wikipedia)日本語版」ウェブページ、[2011年3月24日(木)00:32更新]、
URL:http://ja.wikipedia.org/
*14 Denton EJ and Marshall NB、(1958)、“The buoyancy of bathypelagic fishes without a gas-filled swimbladder”. J Marine Biol Assoc UK 37: 753-767
*15 「食卓を支える養殖業」、社団法人全国海水養魚協会、食卓を支える養殖業ウェブページ[出典:農林水産省(統計年報、食糧需給表)、財務省(貿易統計)]、[2011年12月24日検索]、
URL:http://www.yoshoku.or.jp/02howto/gurafu/index.htm
*16 「私たちが海で養殖している魚たち」、社団法人全国海水養魚協会、ウォールドくんのお魚大百科ウェブページ、養殖魚を知る!、[2011年12月24日検索]、
URL:http://www.yoshoku.or.jp/02howto/syurui/index.htm
*17 「水産研究所 世界初 クロマグロ完全養殖に成功 前人未到の成果を発表 32年の歳月 産卵に歓喜」、近畿大学大学新聞(WEB版)ウェブページ、第435号、[2002年8月1日発行]、[2011年12月24日検索]、
http://www.ecp.kindai.ac.jp/press/435/learning/maguro.htm

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