6.海洋調査船

 海洋調査船は、海洋に関するいろんなこと(水温、海水の流れ、海水の含有成分、海底地形、深海生物、海底資源など)や、地球内部のダイナミックな地殻変動、深海の生態系及び生命の起源などを調査します*38
 海は水深により、表層(0〜200m)、中深層(200m〜1km)、漸深層(1〜4km)、深海層(4km〜)、超深海層(海溝のように深くえぐれた箇所)に分けられます。海の平均水深は3.7kmで、80%が深海に属します*11。マリアナ海溝のチャレンジャー海淵が最深10,911m(日本の海洋調査船「かいこう」が確認した値です)であり、多くの海溝が太平洋の周囲に沿って連なっています。そして、海嶺又は海溝に沿って海底熱水鉱床が点在しています(図6、図7参照)。
 有人深海潜水艇については、1960年アメリカのトリエステ号がマリアナ海溝で記録した10,916m(「トリエステ号」発表の値、計器の測定精度の差により、上記10,911mより大きくなったようです)が世界記録です。しかし、気球のような形をしていて、気球のガスが入る所に浮力材としてガソリンをいれるもので、上下方向に移動できますが、深海を自由に動き回ることはできませんでした*39
 現在運用されている有人潜水艇では、1990年から運用されている日本の「しんかい6500」(水深6,500m級)が最も深く潜れる潜水艇です*39。しかし、中国の「蛟竜」が7,000mの潜水を目指しています。
 しんかい6500
 通常動力型潜水艦の動力として一般的にはディーゼルエンジンが使用されてきましたが、定期的な吸気と充電を必要とし、水中行動力に劣っていました。このため、外気を必要とせず、常時潜航状態で駆動可能な推進機関が求められ、スターリングエンジンや燃料電池等が使用されるようになりました*40。スターリングエンジンは、シリンダー内のガスを外部から加熱・冷却して仕事を得る機関であり、高い効率で運動エネルギーを熱エネルギーに変換できるといわれています*41。ところで、原子力潜水艦は外気を必要とせず、常時潜航状態で駆動可能な推進機関を有していますが、もし攻撃を受けて破壊され又は沈没したらどうなるのでしょうか。
   
7時00分作業開始 
8時30分着水作業(含:内水) 
9時00分潜航開始毎分40mで降下できますので、最深6500mに潜航する際には約2時間30分かかります。
11時30分海底到着、調査開始潜航時間を8時間と定めており、日中に潜航開始から海面浮上までを行なうことにしていますので、下降・上昇時間を差引いた残りが海底での調査時間となります。したがって、水深が浅いと調査時間が長くとれます。
14時30分離底(上昇開始)下降と同じ速度で上昇しますので、同じく約2時間30分かかります。
17時00分海面浮上、揚収作業夜間は、翌日の調査に備えて電池の充電を行ないます。


 探査には音響探査法や電磁探査法が使用されています。電磁探査法は、深海海底で曳航されている2つの送信電極間に人工の交流電流を流し、海底に発生する電場・磁場信号を離れた場所で受信します。例えば、メタンハイドレートは高比抵抗であり、海底下の比抵抗により信号が変化するので、 これを測定すれば海底下の比抵抗構造、すなわちメタンハイドレート層の様子が解ります*42

図9「しんかい6500」海底調査の1日 copyright:JAMSTEC
出典:独立行政法人海洋研究開発機構ウェブページより*38

かいこう7000U
 日本は次の海洋調査船と探査機を有します*43
(a)有人潜水調査船「しんかい6500」図9参照*38:1990年完成、最大潜航深度6,500m、乗員3名、水圧680気圧に耐えるため、73.5mm厚の球形チタン合金で耐圧殻を居住空間(計器も入る)としています。6,500m潜るのに2.5時間、浮上に5.5時間、トータル8時間で潜水・調査します。ハイビジョンカメラ、デジタルカメラ、マニピュレータ、サンプルバスケット等の調査観測機器を装備しています。
(b)無人探査機「かいこう7000U」図10参照*44:2004年「かいこう」(1995年完成10,000m級)の後継機として完成、最大潜航深度7,000m、母船「かいれい」から、ランチャーを降ろし(最大潜航深度11,000m)、そこからさらにビークルを降ろして(最大潜航深度7,000m、調査観測機器を装備する)調査します。母船−ランチャー−ビークル間は光・電力復号ケーブルで接続されます。光は通信用です。前方障害物探査ソナー、ハイビジョンカメラ、スチルカメラ、マニピュレータ等の調査観測機器を装備しています。無人探査機は有人潜水船では困難な深海域を調査できます。
図10 「かいこう7000U」 copyright:JAMSTEC
出典:独立行政法人海洋研究開発機構ウェブページより*44



(c)有人潜水調査船「しんかい2000」:(1981年完成、2002年活動休止、最大潜航深度2,000m。
(d)無人探査機「ハイパードルフィン」:(1999年完成)、最大潜航深度3,000m。
 日本の探査船はかなり古くなっています。もっと海洋開発に力を入れてほしいものです。海洋調査船や探査機は国の技術力を示すバロメータになる可能性を秘めています。

 参考資料
*38 「有人潜水調査船「しんかい6500」」、JAMSTEC(独立行政法人海洋研究開発機構)ウェブページ、[2011年8月14日検索]、
URL:http://www.jamstec.go.jp/j/about/equipment/ships/shinkai6500.html
(Top Page)http://www.jamstec.go.jp/
*39 「深海潜水艇」、Captain Fleetウェブページ、写真・記事、資料館、[2011年1月11日更新]、[2011年9月8日検索]、
URL:http://wwwl.cts.ne.jp/~fleet7/Museum/Muse119.html
*40 「通常動力型潜水艦」、「フリー百科事典 ウィキペディア(Wikipedia)日本語版」ウェブページ、[2011年1月3日(月)12:39更新]、
URL:http://ja.wikipedia.org/
*41 「スターリングエンジン」、「フリー百科事典 ウィキペディア(Wikipedia)日本語版」ウェブページ、[2011年9月30日(金)08:56更新]、
URL:http://ja.wikipedia.org/
*42 後藤忠徳、「電磁波による海底資源の新しい探査法の開発」、独立行政法人科学技術振興機構(JST) SciencePortal Chinaウェブページ、注目記事、特集:探査技術、[2009年10月9日掲載]、Courtesy of JST[2011年9月8日検索]、
URL:http://www.spc.jst.go.jp/hottopics/0911inquiry/r0911_goto.html
*43 「研究船・探査機」、JAMSTEC(独立行政法人海洋研究開発機構)ウェブページ、[2011年8月14日検索]、
URL:http://www.jamstec.go.jp/j/about/equipment/ships/index.html
(Top Page)http://www.jamstec.go.jp/
*44 「7000m級無人探査機「かいこう7000U」」、JAMSTEC(独立行政法人海洋研究開発機構)ウェブページ、[2011年8月14日検索]、
URL:http://www.jamstec.go.jp/j/about/equipment/ships/kaiko7000.html
(Top Page)http://www.jamstec.go.jp/

トップページ