8.海の電力エネルギー

 海を利用して生成される再生可能エネルギーは、洋上風力発電、洋上太陽光発電、波力発電、海洋温度差発電と多様であり、温室効果ガスの排出量削減に有効です。

(A)洋上風力発電
 洋上では陸上に比べてより大きな風力が得られるため、洋上に風力発電所を創設した場合には大きな電力エネルギーが得られると考えられています*48。出力は風速の3乗に比例し、風速2倍で出力8倍になります*49。また、居住地域から離れているため、騒音公害・低周波公害のおそれも低くなります。
Kamisu  2010年6月に茨城県神栖市鹿島港護岸の洋上風力発電所が運転開始されました。40〜50m沖に着床型で定格出力2,000kWの大型風車7基が配置され、合計14,000kWの電力を発電します(図11参照*50,51。さらに、護岸から沖合500m〜4,000mに着床式の大型風車100基による、50万〜100kWの発電が計画されています。沖合では通常浮体式が使用されますが、この海域では水深15m程度なので着床式も可能とのことです*50。また、福島県沖に浮体式の大型風車60〜120基で30万kWの発電が政府支援、産学連携で計画されています*52
茨城県神栖市。鹿島港南海浜地区の護岸に7基の風車が立っています。青い海を背景に、白い風車が一列に並ぶその眺めは壮観です。しかし景色に近づいて行くとさらに目を見張ることになります。風車は護岸の先、海上に立っていました。
図11 「日本初の本格的洋上風力発電所」
出典:経済産業省資源エネルギー庁ウェブページより*50
 風力発電は、発電出力が一定でないので、大容量蓄電技術の発展が求められます。また、長距離の場合は高圧直流送電がロスが少なく有利とされており*53、直流送電技術の発展が望まれます。蓄電技術は、電気自動車向け充電スタンド用の蓄電システム等が開発されており、今後大型化が進むと思われます。直流送電は、欧州のバルト海や地中海等で実施されています*53


(B)洋上太陽光発電
Ougishima  太陽光発電は、半導体のpn接合部に光照射して電子を励起するもので、@原料のシリコンが無限にある、A半導体部分(単結晶シリコン、多結晶シリコン等)の寿命は半永久的である、B機械部分が少ないのでメンテナンスが容易という利点があり、再生可能エネルギーとして大いに期待されます。アモルファスシリコン系太陽電池では、吸収できる波長を変えた層を積層して使用波長帯を広くして光電変換効率を上げています。
 川崎市と東京電力株式会社の共同事業により、羽田空港に隣接する川崎市臨海部の埋立地にメガソーラー発電所の建設が進められ、浮島太陽光発電所が2011年8月に、扇島太陽光発電所が同12月に運転開始されました。浮島では、敷地約11haで約38,000枚の太陽電池モジュールを並べて最大7,000kWの電力を、扇島では、敷地約23haで64,000枚を並べて最大13,000kWの電力を発電するとのことです(図12参照*54

図12「扇島太陽光発電所外観」
出典:東京電力株式会社ウェブページ、プレスリリース2011年より*54


 このようなメガソーラを、浮体(フロート)を使用して洋上に浮かべると、雲以外に太陽光を遮るものがない、大面積を使用できる、耕地を潰さないという利点があります。また、洋上メガソーラの開発には、発電出力が一定でないこと、太陽光発電は直流を発電するので蓄電技術、直流送電技術と相性が良いことから、蓄電技術、直流送電技術の発展が強く求められます。また、メガフロート技術、塩害防止技術も求められますが、メガフロート技術は洋上滑走路を目的に造船所で大型の浮体ブロックを生産し、海洋上で接合する技術が開発されました*55。塩害防止には、絶縁性プラスチックのコートを使用できます。

(C)波力発電
Kaimei  波力発電は波のエネルギーを利用した発電方法です。空気室内での波の上下振動で空気の流れを起こし、空気室の上部に設けた空気タービンを回転させ、空気タービンに連結した発電機を回転して発電します。空気タービンには往復気流中で回転するウェルズタービンが使用されます*56
 波エネルギーは波高の2乗に比例し、周波数に比例します。日本には海岸線が多く、総延長5,200kmで、3,600万kWの波エネルギーが存在するとのことです(高橋重雄より*58)(取り出せるエネルギーは別ですが)*57
Kaimei-sita
 山形県酒田港北防波堤のケーソン(60kW)、福島県原町市火力発電所南防波堤のケーソン(130kW)、山形県鶴岡市由良沖合の浮体構造物「海明」(図13参照*59)、三重県南伊勢町五ヶ所湾沖の浮体構造物「マイティーホエール」(120kW)等で実験が進められました*57

図13 「浮体式波力発電」 copyright JAMSTEC
出典:独立行政法人海洋研究開発機構(波力発電装置「海明」の研究に関する総合報告)(1981年)ほかより*57


(D)海洋温度差発電OTEC
OTEC  海洋の表層温海水と深層冷海水の温度差を利用した発電方法です*60。蒸発器のパイプの内側に約28℃の温海水を送ります。そして、アンモニアタンクから、アンモニアポンプで蒸発器のパイプの外側に約12℃のアンモニア液を送ります。すると、アンモニア蒸気が発生します。アンモニア蒸気でタービンを回転させると、タービンに連結された発電機が回転して、電気が発生します。タービンを出たアンモニア蒸気を凝縮器のパイプの外側に送り、深層からくみ上げた約4℃の冷海水をパイプの内側に通します。すると、アンモニア蒸気が凝縮され、アンモニア液に戻ります。そして、このアンモニア液を再び蒸発器に送ります。この循環を繰り返すことで、温海水と冷海水のみで発電し続けることができます(図14参照*60

図14 「海洋温度差発電(OTEC)の原理」
出典:NPO法人海洋温度差発電推進機構(OPOTEC)ウェブページより*60


 海洋温度差発電は海水のみで発電でき、CO(二酸化炭素)もNOX(窒素酸化物)も発生しません。これまでの研究で、日本の経済水域内では、約1億kWの海洋温度差発電が可能とのことです。ウエハラサイクル(作動流体にアンモニアと水の混合液を用いる)では、チタン製板状プレートのプレート式熱交換器を用い、量産すれば10円/kWh〜20円/kWh程度の原価で発電可能とのことです*61

(E)メタンハイドレート利用の火力発電
 再生可能エネルギーではありませんが、日本の排他的経済水域に大量のメタンハイドレートが埋蔵されています。メタンガスを利用した火力発電は、石油よりもCO排出量が少なく、安定した出力が得られるので、再生可能エネルギーを利用する発電を補うものとして期待されます。
 なお、2012年2月からの渥美湾沖のメタンハイドレートの海洋産出試験に、深海での掘削が可能で、船上研究設備を有する地球深部探査船「ちきゅう」*62が活躍しています。ドリルパイプ内で泥水を循環させるライザー掘削工法を用いて、水深2,500mの深海で掘削が可能です*63

参考資料
*48 「洋上風力発電」、「フリー百科事典 ウィキペディア(Wikipedia)日本語版」ウェブページ、[2011年6月15日(水)17:01更新]、
URL:http://ja.wikipedia.org/
*49 「地球にやさしく高効率! 風の力がエネルギーを生み出す」、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、「よくわかる!技術解説」、[2010年1月20日発行(第二版)]
*50 「日本初の本格的洋上風力発電所 株式会社ウィンド・パワー・いばらき」、経済産業省資源エネルギー庁、再生可能エネルギー導入事例ウェブページ、[2011年8月12日掲載]、[2011年10月30日検索]、
URL:http://www.enecho.meti.go.jp/saiene/dounyu/201108kamisu.html
(本文中の*50の部分は経済産業省資源エネルギー庁公表資料を参考に作成)
*51 「ウインド・パワーかみす洋上風力発電所」、株式会社小松崎都市開発 株式会社ウィンド・パワー・いばらき 株式会社ウィンド・パワー 株式会社ウィンド・パワー・エナジーウェブページ、[2011年10月30日検索]、
URL:http://www.komatsuzaki.co.jp/windpower/kamisu.php
*52 「福島沖に洋上風力発電所計画 政府、復興支援の目玉に」、SankeiBizウェブページ、[2011年9月13日05:00配信]、[2011年10月30日検索]、
URL:http://www.sankeibiz.jp/macro/news/110913/mca1109130502006-nl.htm
*53 「直流送電」、「フリー百科事典 ウィキペディア(Wikipedia)日本語版」ウェブページ、[2011年10月11日(火)23:44更新]、
URL:http://ja.wikipedia.org/
*54 「「扇島太陽光発電所」の運転開始について 〜川崎市臨海部における国内最大級のメガソーラーの完成〜」、川崎市 東京電力株式会社、東京電力株式会社ウェブページ、TEPCOニュース、プレスリリース2011年、[2011年12月19日報道]、
URL:http://www.tepco.co.jp/cc/press/11121902-j.html
*55 「メガフロート」、「フリー百科事典 ウィキペディア(Wikipedia)日本語版」ウェブページ、[2011年10月25日(火)03:16更新]、
URL:http://ja.wikipedia.org/
*56 「波力発電」、「フリー百科事典 ウィキペディア(Wikipedia)日本語版」ウェブページ、[2011年9月3日(土)06:54更新]、
URL:http://ja.wikipedia.org/
*57 廣瀬学、「波力発電の現状」、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)ウェブページ、[2012年1月20日検索]、
URL:http://www.glocom.ac.jp/column/1991/07/post_15.html
*58 高橋重雄、「日本周辺における波パワーの特性と波力発電」、港湾技研資料、No.654(1989年)
*59 「波力発電装置「海明」の研究に関する総合報告」、海洋科学技術センター(現独立行政法人海洋研究開発機構)、(1981年)ほか
*60 「海洋温度差発電(OTEC)の原理」、NPO法人海洋温度差発電推進機構(OPOTEC)ウェブページ、[2011年11月5日検索]、
URL:http://www.opotec.jp/japanese/about_otec/02.html
*61 「ウエハラサイクル」、NPO法人海洋温度差発電推進機構(OPOTEC)ウェブページ、[2011年11月5日検索]、
URL:http://www.opotec.jp/japanese/about_otec/03.html
*62 「地球深部探査船「ちきゅう」」、JAMSTEC(独立行政法人海洋研究開発機構)ウェブページ、[2012年3月5日検索]、
URL:http://www.jamstec.go.jp/j/about/equipment/ships/chikyu.html
(Top Page)http://www.jamstec.go.jp/
*63 「地球深部まで掘る」、JAMSTEC(独立行政法人海洋研究開発機構地球深部探査センター)ウェブページ、ちきゅうの科学技術、[2012年3月8日検索]、
URL:http://www.jamstec.go.jp/chikyu/jp/Science/drilling.html
(Top Page)http://www.jamstec.go.jp/

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