「ねぇ、誕生日プレゼント何が欲しい?」


 金曜日の帰り道、がそう訊いてきた。

 人にプレゼント選ぶの苦手だからって言いながらは苦笑い。
 俺はなにもいらないよって微笑う。

 は、少し困ったような表情をした。
 かたちに残るものをあげたいんだよって言って、ひとりで悩みだす。

 なにもいらないのに。
 だって俺は、がいればそれだけでいいんだよ?

 それって充分ゼイタクなんじゃないのかな。





  You're my thing





 誕生日当日、を家に招いてささやかな誕生会。
 はケーキを作ってきてくれた。
 真っ白くホイップクリームに覆われた、おっきくてまあるいおいしそうなケーキ。
 まんなかに「Happy Birthday Jiroh!!」ってホワイトチョコで書かれたブラックチョコの板があって、それを見た瞬間、うれしくてうれしくて俺はに抱きついた。


ありがとう! だいすきっ!」

「どういたしまして」


 は優しく微笑い、ケーキをきれいに切り分けてくれる。
 俺はそのきれいな断面にあるイチゴを見て、食べるのがもったいないなってちょっと思いながら、フォークに刺してぱくっとひとくち。


「おいCっ!」


 甘くてすっげーおいしくて、もうひとくちもうひとくちとケーキを口に運ぶ。
 フォークをくわえながらを見たら、うれしそうに照れ笑いを浮かべてて。
 すっげーかわいいと思った。


「ね、も食べようよ」

「あ、うん」

「俺が食べさせてあげる!
 はい、あーん」


 フォークに刺したケーキをの口元に差し出す。
 は戸惑ってたけど、やがて覚悟を決めたように口を開け、ゆっくりとケーキを口に入れていく。
 なんか、表情とかがえっちくてドキッとした。
 イケナイ気分だ。


「…これさあ、私が食べさせてもらうのっておかしくない?」


 ケーキを飲み込んでが言った。
 確かに。今日は俺の誕生日なんだもんね。


「じゃあ俺にあーんして?」

「そういう意味で言ったんじゃないんだけど…まあいっか。
 …はい、あーん」


 俺のフォークを取って、今度はがケーキを差し出してくれる。
 俺はぱくっとケーキに食いつくと、するっとフォークを抜いて離れていこうとするの手を、がしっと掴んだ。


「おすそわけ」


 口にケーキをふくんだままにキスをして、舌で割り開いたの口の中に、クリームいっぱいのケーキ半分を押し込む。


「ふぁっ…んぅ…」


 チュ…と音を立てて唇を離すと、はぎゅっと目をつむってもぐもぐごっくんしながら、真っ赤になっていた。
 俺が頬を撫でたら、まつげがふるっと震えて、ゆっくりと潤んだ瞳が現われる。


「びっくりした?」

「…しましたとも…」

「でも、ふつうに食べるよりずっと甘かったでしょ?」

「逆に、味がわからなくなった気も…」

「じゃもっかいする?」

「いやいやいや!」


 真っ赤になってあわてるがかわいくて、俺はもう一度、今度はふつうのキスをした。

 まだ、甘い。ずっと甘いよ。
 ケーキより甘くて、やわらかい。


「…ね、慈郎」

「ん?」

「本当にプレゼント、いらなかったの?」


 ずっと考えてたんだよっては言って、少し申し訳なさそうな顔をした。
 俺はの頭を優しく撫でる。

 そのきもちだけで充分なんだけどな。
 だって今日まで、俺に何を贈ったらいいんだろうっていろいろ考えてくれてたんでしょ?
 答えが見つからなくても、一生懸命考えてくれたってことがすっげーうれしい。


「…俺の欲しいもの、はね?」

「うん」



「え?」

が欲しいな」


 俺の言葉に絶句して、はまた赤くなる。

 だって本当に欲しいんだ。
 の身体も心も、ぜんぶぜんぶ。
 俺だけのものにしたい。誰にもやらない。
 それがただの独占欲だって、わかってるけど。

 は困ったように笑った。


「…慈郎。私はもう、あげられないよ」

「えっ!? どうしてっ!?」


 悲しくなった。
 もう俺のこといやになったの?

 そう思ったのもつかの間で。
 は赤い顔をうつむけて、ぽつりと呟いた。


「私はもう…慈郎のものだから…あげられないでしょ…?」

「っ…」


 俺の顔も、今一瞬にして真っ赤になったと思う。

 マジやばい。かわいい。
 欲しい、欲しい。ほしい!

 俺はをその場に押し倒して、唇を強く吸った。


「っ、じろ…」

「……違うよ」


 もうあげられないなんてこと、ない。


はいつも、俺にいろんなものをくれてるよ」


 楽しさとか、喜びとか、優しさとか、愛しさとか…時には甘い胸の痛みなんかも。
 いっぱい、いっぱいくれてるよ。
 それに際限なんか、ないんだ。


「俺は今、が欲しい」


 今のが欲しい。
 今ここにある、のすべてが欲しい。
 俺が生まれた今日というこの日に。

 それは何よりのゼイタクでしょ?
 今のこの瞬間は、もう二度と得られないものなんだから。


「…俺のぜんぶも、のものだから」

「…うん」


 は泣きそうな顔で、物々交換みたいだねって笑って。
 キスして。
 交じり合って。


 俺たちは、互いに想いをそそぎ合う。



 きみは俺のもの。





END





********************

あとがき
 慈郎誕生日おめでとうっvv
 …尻切れ御免。
 でも迷惑なほど愛は込めまくったつもりです…
 慈郎愛v


 2004年5月1日


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