問題を投げかけたら、問題が返ってきた。
Reason
「なぁ柳…女心ってわかるか…?」
部活中。遠くでテキパキと仕事をこなすを見つめながら、隣にいた柳に問いかけた。
柳は不意打ちの質問に一瞬止まる。
「……何だ突然」
「ほら、柳なら、「誰が誰を好きな確率何%」とかわかったりしねー?」
「…いくら俺でも、そんな事は解からん」
「そっか…」
柳でも恋愛方面は専門外か…チッ。
でもさすがにデータマンだけあってか、逆に的を射たこんな質問を飛ばしてきた。
「さんとの関係が思わしくないのか?」
…なんでわかんだよ…
思わしくないわけじゃねーけど、つい昨日気持ちを新たにしたばっかりだけど。
「…がさ、俺のこと好きかどうかまだわかんないって言うんだ。
好きかわかんないのに俺と付き合ってんのって、なんでだろ…」
そう、俺はまだ気にしてる。
好きになってもらえるまで待つって決めたけど、それとは別に、の気持ちが気になった。
は、どんな気持ちで俺といるんだろう。
「……」
ちらと視線を投げかけたが、柳は相変わらず細目のまま何も答えなかった。
なんだよ。仲間が悩んでんだから何か言ってくれよ。
ベンチに座り、ラケットを地面に立ててそれにうなだれるようにもたれかかる。
そしてまた視線をに戻した。
…しっかし、この寒いのによく働くなー…
んー、邪魔だからって2つに髪しばってんの可愛い…
「……――――――から、お前と付き合っているんじゃないか?」
「へ?」
ぼーっとしてたところに話しかけられたから、柳の言葉がよく頭に入ってこなかった。
なに? もしかして今重要なこと言った?
「そういう事だ」
「えっ!? 「そういう事だ」、ってどういう…おい柳っ!」
全然わかんねーよ! 頼むもっかい言ってくれ!
と言う間も与えずに、柳はさっさとコートに入っていってしまった。
空しげに引き止める形に伸びた腕をゆるゆると引っ込める。
「何とか」だから? …何だそれ?
それが、が俺と付き合ってる理由?
ていうか柳お前やっぱりわかってんじゃねーかよ!
ああクソ気になる…
「…何悩んどる?」
頭を抱えてうなっていると、含みのある嫌な声が背後から聴こえた。
…仁王かよ。
返事するのもめんどくさかったので、手のひらをシッシッと振る。
「か」
俺がウザがってるのをわかってるくせに、仁王は一言そう言ってわざわざ俺の隣に腰かけた。
げ…あっち行けよ。
「本当に面白いなお前ら。
付き合ってるのにこっちはまるで片想い。
あっちは…どうなんかね…?」
仁王は腕と足を組んで、笑いながら俺の顔を覗き込んだ。
黙れよ。そのウゼェシッポ引き千切んぞ。
「ね…」
今度はのいる方を向いて仁王は呟いた。
コイツ、ワザと意味ありげな呟き洩らしやがって…
「…何だよ」
「いい女だと思ってな」
ムカッ…
何だ何だ? 俺にケンカ売ってんのか、ああん?
ああそりゃはいい女さ。んなことわかってらい。
ただな、お前には言われたかねぇっ!
なんつーの? が汚れるッ!
「手ェ出してもいいか?」
「したら殺す!」
「クッ…」
マジでムカつくなーコイツ!
俺の反応にいちいち笑いやがって…!
「冗談冗談。怖いねぇ」
「笑えねぇ冗談言うんじゃねーよ」
「フッ…俺は充分笑えたぜ?」
思う存分楽しんだのか、仁王はそう言って立ち上がった。
おうおうとっととどこへでも行っちまえ。
けど仁王は立ったまま動かない。
…何だよ? 無表情でじっと、を目で追ったりして…
「…俺は一年の時のを知ってるが、あんな感じじゃなかったな。
今よりもっと…冷めてた」
「何だそりゃ」
「変わったって事かな。誰かの所為で」
仁王は俺を見下ろしてニヤッと笑い、肩にラケットを担いで空いたコートへ入っていった。
『誰か』って…俺か?
まあそうなんだろうけど、何だその不敵な笑みと微妙に遠回しな言い方は。
絶対にただの感想とか助言じゃないはずだ。
はっきりしなくて気持ち悪ィな…
またを見てみる。
…俺のせいで変わった? あのが?
俺には、付き合う前と全然変わらないように見えるんだけど。
……俺ってもしかして、のこと全然わかってない?
くっそー! 仁王の方が理解してるっぽいのがムカつく!
はっきりしないことだらけでワナワナイライラしていたら、今度は仁王が去っていったのとは反対方向から入れ替わりに、柳生がやってきた。
…コイツ本当に柳生だろうな? また仁王の野郎じゃねーよな? さっきのが柳生でコイツが仁王ってことはねーか?
じとーっと柳生(らしき奴)を凝視する。
くそ、分厚いメガネのせいで表情が読めねぇ。
「? どうかしたんですか丸井君?」
「……お前…柳生か?」
「柳生でなければ誰だと言うんです?」
「……まあいいや。柳生でも仁王でも」
「…仁王君だと思ったんですか」
柳生が呆れたというような溜め息をつく。
しゃーねーだろ。柳生はともかく仁王は神出鬼没だからな。
でもまあ今はそんなこたどうでもいいさ。
俺はのことを考えるのに集中すっから。
えーと、柳が言うには、が俺と付き合ってるのにはちゃんとした理由があるらしくて(そりゃそうだ)、俺はそれがわからない。ヒントらしきものはナシ。
…ダメじゃん。
この際、横にいる柳生にも意見を訊いてみようか…立ってるものは親でも使えって言うしな!
「柳生」
「今度は何ですか?」
「好きかどうかもわからない奴と付き合う女の心理がわかるか?」
「さあ。事情は人それぞれでしょうし…その問いの中の女性というのが不特定なので、ワタシには余計解かりかねますね」
「あーもーっ! だよ!」
何て堅いヤツなんだ! 説明しねーとわかんねーのか、マニュアル人間め!
俺が言う『女』っつったらしかいねーじゃん!
痺れを切らして憤慨した俺を見ながら、柳生は人差し指でメガネをクイッと上げた。
メガネが鋭くキランとか光った気がした。
「…アナタ達は好き合って交際をしているのではないんですか?」
「モチロン俺は好きだぜ!
ただ…の方がさ…」
「なるほど。はっきりしていないと。
それはつまり、交際を始めるには時期尚早だったという事ですね」
「なにィ!?」
「そもそも交際というのはお互いの気持ちを確認しているのを前提とするもので…くどくどくどくど…」
あーあ説教始まっちゃったよ。
ジェントルマンの説教ムダに長ぇんだよなー。
とりあえず右から左に流してよ。
それにしても、「時期尚早」か…
俺達みたいな付き合いって今時珍しくはないだろうけど、やっぱ不健全なのかな…
早すぎた?
でも俺は、あの時が欲しくて。
次の機会にしましょう、なんて、後回しになんかしたくなかった。
すぐに欲しかった。
…それが間違ってたのかな?
は、こんな風に悩んだりするかな? 本当に、どんな気持ちで俺といるんだ?
知りたい。
「…はぁー…」
「何だ? でっかい溜め息ついて」
適当に相槌を打っているうちに柳生の説教は終わっていたようで、横にいる人間がジャッカルに変わっていた。
おお、相棒! こんな時こそお前の出番か?
俺はずいと身を乗り出す。
「ジャッカル、聴いてくれるか!」
「あ、ああ…まあ…」
「よしっ。あのな、お――」
「センパーイ!」
…へぇ、ここでジャマ入っちゃうんだ? せっかくマトモなヤツと話ができると思ったのに?
このムダにうるせェ明るい声は…
「…赤也ァッ!」
「丸井先輩、たまには練習の相手してくださいよー」
「するかっ!」
「いーじゃん!」
あーうるせェぞ赤也。
ジャッカルに話できねーじゃんよ。
「それにさ、先輩がー」
「なヌ!?」
「俺が「誰か練習相手になってくんないっスかねー」って訊いたら、「ブン太がさっきからすごく暇そうにしてるから相手してくれるんじゃない?」って言ったんスよ!」
…、俺のこと見てたんだ…ちょっと、いやかなり嬉しい。
でもヒマそうに見えたんだ…微妙だそれー…地味にヘコむ。
「…ジャッカル持ってけよ」
「俺かよッ!? 俺は物か!? 俺の意思は無視か!?
それよりブン太お前、何か話があったんじゃないのかよ?」
「も、いい…」
いよいよ考えるのに疲れてきた。
だってさあ、は俺を「暇そう」だと思ってるんだぜ?
俺はずっとお前のこと考えてるんだっつうの!
それなのにお前は俺見て「暇そうにしてるなー」としか思わないのかッ!
ベンチの上に足を乗せ、膝を抱えて顔を伏せる。
いわゆるいじけポーズをし、さらに指で『の』の字を書き始めた俺を見て、ジャッカルと赤也は「そっとしておこう」ということで意見が一致したらしく、二人してそそくさとコートへ消えた。
えーえーどうせ俺はヒマですよー。ヒマでヒマで仕方ないですともー。
「…ほう。そんなに暇なら何故練習せんのだ?」
「いっ!?」
顔を上げると目の前には、腕を組んで仁王立ちの真田。
俺「ヒマだ」って声に出して言ってた!?
わー…泣く子も余計に泣き喚きそうな顔してるよー…
「何を思い悩んでいるのかは知らんが、部活中は部活に集中しろ!
まったく…」
「「たるんどる」?」
真田お決まりのセリフを聴かされるのもうんざりだったので俺が先に言うと、真田は片眉をピクリと吊り上げた。
わー…俺、墓穴掘ったかなー…
真田は静かに目を伏せる。
「…解かっているのなら何も言う事はない」
おっ? これはもしかするとお咎めナシか?
なんて淡い期待を抱いていると、真田はくわっ!と目を見開き、
「コートへ入れッ! 俺が相手をしてやろう!」
「ええっ!?」
「そのたるんだ根性を叩き直してやる!」
俺の首根っこを掴み立たせると、ズルズルとコートへ引っ張っていく。
こんなことなら赤也の相手すればよかった…!
ああクソ、そもそも俺がこんなに悩んでるのはのせい……じゃないんだよなぁこれが…
俺が自信ないだけなんだ。マヌケだ。ちくしょう。
何かひとつでもいいから、揺るがない自信が欲しい。
「お…鬼…」
真田に連れられコートに入って数十分。
俺はものの見事にボコボコにされた。
注意力散漫になっていた俺に、真田は容赦なしだよ。
「コンディションが悪いのは己の責任だろう。俺は手加減せん!」とか言ってさ。
真田の鬼!
こんな時こそに慰めてもらいたいぜ…
慰めと言っても、タオルやドリンク差し出してもらうくらいなんだけど。
それでもいいからさあ…!
期待してどこにいるんだと辺りを見回すが、どこにもいない。
もしかして部室の掃除行っちゃった…?
あ、涙で前が見えないや…
「弦一郎に散々やられたようだな」
ちょっとだけ哀れむような顔をした柳が俺に近寄ってくる。
来たか諸悪の根源!
柳がさっきちゃんと聞き返させてくれなかったから俺はずっと悩んでたんだぞ!
だから真田にボコボコにされたんだあ!
俺はかなり責任転嫁をしているのも気にせず、柳にずいずい詰め寄る。
「柳!! さあ言え今言え! お前はさっき俺に何て言ったんだ!」
「おい落ち着け。何の話だ?」
「さっき俺が、が俺と付き合ってんのは何でだろうって言った時、お前何か言っただろ!
「そういう事だ」とかカッコよく捨てゼリフ残してさあ!」
柳は過去をさかのぼるように視線を宙にさまよわせ、「ああ…」と呟いた。
思い出したかこの野郎。
「人の話を聴いていなかったのか」
「そこじゃない! それに俺はお前に聞き返した!」
「解かった解かった……俺はさっき…」
ごくりと固唾を飲んで柳の言葉に集中する。
今度こそ聞き逃すもんか。
「…さんは、お前を好きになりたいからお前と付き合ってるんじゃないか? と言ったんだ」
「…………は?」
ちょっと待て。意味がわからん。
「俺を好きになりたいから」?
それが、が俺と付き合ってる理由?
「どういう意味?」
「そのままの意味だ。
義理や義務じゃなく、さんはただ純粋にお前を好きになろうとして付き合いを続けてるんじゃないかと、そう思ったんだ。
まあ、それが真実ではないかもしれないがな」
『俺を好きになりたいから』?
仁王が言った「一年の頃から変わった」っていうのは、そういう、心境の変化があったから?
もしそれが、それが本当なら、俺は…
…すっげー嬉しい。
「待ってる」って言った甲斐がある。
『待ってる』甲斐があるよ。
「サンキュー、柳」
でももう、理由なんてどうでもいいんだ。
俺が不安だったのは、自分に自信がなくて、好きになってもらえなかったらどうしようとか、そんなくだらないことだったんだ。
俺はまた間違えそうになってた。
俺がやらなきゃいけないのは、カッコいいところをいっぱい見せて、早く好きになってもらうことだろ。
今のこのザマは何だ?
と付き合う前には自信満々だったくせに。
情けない。
いつかに好きになってもらう自分に、自信を持て。俺。
to be cotinued…
********************
中書き
目標は立海メンバー全員書く事、でした(幸村さんはこの頃いたんだかいないんだか解からないのでいませんが)
一応全員に役割を与えてたつもりなのですが、何だかワケの解からない話になってしまいました。
別にこの話飛ばして読んでも構わないぜ、みたいな…(遅)
2004月7月15日
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