「俺、先輩のこと好きなんすけど」

何とも可愛気のない告白。
だけど、一世一代決心でした人生初の告白。
駄目元できっと断られるだろうと思っていたけど、先輩から返ってきた答えは、何とも意外な答えで。

「…少し、考えさせて」

……だった。





僕と彼女の告白





自他共に認める天の邪鬼な財前が素直な気持ちを口にしたのは、一つ年上のマネージャーの、への告白だった。
先輩後輩の関係を少しでも変えたくて、気持ちが伝わるように言葉で気持ちを表した。
その気持ちが伝わったのか、それとも少しは期待をしていいのか、「少し考えさせて」の答えに財前は頷いた。

その告白から一週間が経った。
しかし、何かが変わったという訳ではなかった。接する態度も向けられる表情も今までと何の変わりもない。
自分がした告白は無かった事にされたのか、それともやはり信じてもらえなかったのか。
ハッキリした答えも貰えず何も変わらない事に、財前は不満に思っていた。

ー!」

金太郎の元気な声がコート内に響いて、顔を向けるといつものように金太郎がに後ろから抱きついているのが見えた。
は驚きながらも、笑いながら金太郎を受け止めた。
それすらもいつものことなのだ。
なのに……凄く苛つく……。

財前の視線に気づいたのか、が笑って財前に小さく手を振った。
財前はそんなを一瞬睨みフイッと顔を逸らして、練習に戻っていった。

―…ああ、凄くイライラする。ムカムカして気分が悪い。

あの告白を無かったことになんてさせない。
受け止めてくれようと、断られようと、答えを待つことなんてもう我慢できない。
今日、決着を着けよう。


「―俺、いつまで待てばええんですか?」

部活が終わった後、二人きりになった部室で問いかけた。
部員達はほとんど帰って残っているのはと財前、それと今は部室にはいないが部長会議に出ている白石だけだった。

「一週間待ちました。まだ答え、でないんすか?」
「そ、れはっ……えっと…………」

下に俯いて表情は見えないが、恐らく困った顔をしているのだろう。
そう思った財前は、はあっと息を付いた。

「―解りました。もうええですわ」
「……え……」

その言葉にはハッと顔を上げた。
その顔は、財前の予想していた表情とは少し違ったものの、困惑したような顔をしていた。

「断るんなら、ハッキリ言うて下さい。そっちの方が楽やし、スッキリするんで。―諦めもつく」
「ちょ……待ってっ……」

その制止の言葉も聞かず、財前は続ける。

「俺はアンタにそないな顔をさせたかった訳やないんです。ただ―…」

ただ、伝えたかった。知っていて欲しかった。それで少しでも見てくれるなら嬉しかった。
ガラにもなく、そんな事を本気で思った。

「……何でもないです。お疲れっした」

そう言ってドアに向かう財前に、さっきよりも強く制止の声が掛かった。

「…〜ちょっと待ってってば!」

帰ろうとする財前の前にが立ちはだかった。再び顔は俯いて。

「話…聴いてほしい…」
「……話なんかないっすわ。そこ、退いて下さい」
「嫌だ!」
「はぁっ?」

は顔を上げてキッと財前を睨み付けた。
顔を真っ赤にして、瞳は少し潤んで、ほんの少し不機嫌そうにして。
いきなり財前の胸ぐらを掴んで、自分の方にぐいっと引き寄せた。
その瞬間―……。

ガツンッ!

そんな音がしたと共に、歯にもの凄い衝撃が走った。
あまりの痛さに思わずしゃがみ込んで、悶絶する。
それはも同じらしく、チラッと見えたも俯いて歯を抑えていたので、恐らく自分と同じ状態だろうと思った。

そんな状況で今あったことを頭の中で整理する。
当たったのは歯だったけど―…何か暖かいものが唇に触れたのも確かだった。

今、この部室には、財前との二人。
引き寄せられた目の前にあったのは、の顔。
つまり、当たった暖かいものは―…の唇という事になる。

―…え?マジで…?つーか…何でや…?

財前らしくもなく、しゃがみ込んだまま今あったことに混乱していた。
そんな財前に、上からの声が掛かった。

「財前君……」
「はい……?」

顔を上げると、耳まで真っ赤にして、涙が今にも零れそうな瞳をして。

「〜〜っこれがっ!私の答えだからっ!」

そう言って、は部室から走って出て行った。

「今のが……答え……?」

財前も鈍くはない。混乱していても、の気持ちは理解できた。
財前みたいに言葉ではなく、は行動でその気持ちを示した。
しばし呆然としていると、ドアの方からよく知った声が聞こえた。

「早う追いかけたほうがええで?あいつ結構足速いで」
「白石部長…?」
「戸締まりは俺がしといたるから、はよ行き」
「…………っ」

白石の言葉に不本意ながらも背中を押され、財前はを追いかけた。
その財前の後ろ姿を見ながら、白石はどこか嬉しそうに笑った。

「…ほんま、世話のかかる後輩やな」


「先輩…っ、ちょお待って…!」
「きゃ……」

走り去って行ったを見つけて、腕を掴んでを捕まえた。
財前の方を振り向いたは、先程の涙が耐えきれなかったのか、小さな雫が零れていた。

「先輩って…意外と足…速いんすね」
「…どうも…」

乱れた息を整えて、未だ涙が乾いていないに問いかけた。

「さっきのアレ…信じますよ…?」
「私は…冗談であんな事しない…っ!」
「解りました」

腕を掴んでいない反対の手をの頬へと伸ばし、涙を拭う。

「…先輩、ちょお上向いて」
「なに……んっ」

頬に手を添えたまま、財前はの唇に自分のそれを重ねた。
多分、歯がぶつかってしまうキスよりもマシにできただろう。
ただ数秒触れるだけの子供っぽいキスだったが、今の自分にはこれが精一杯だった。

一瞬、唇が離れてからもう一度、子供っぽいキスをした。


次の日も別段、特に変わらない二人が居た。
しかし、お互いに向ける表情が少し柔らかくなってはいたが、それもよく見なければ解らない程度だ。

が一週間、態度が何も変わらなかったのは、告白の返事をしようにも恥ずかしくて、中々タイミングが掴めずに一週間過ぎてしまったらしい。
皆の前で冷静を保つのがやっとで、内心かなり動揺していたんだとか。

その理由を聞いたとき、思わず脱力してしまった。
でもまぁ、結果オーライという事だ。


財前は言葉で。
は行動で。

思いの伝え方は違っても、思いが繋がった事には素直に喜ぼうと思う財前だった。





END,10.12.17





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