他人から「好き」だと言われた時、「自分のどこが?」と思ったのが正直な感想。
私の魅力とは一体何なのだろうか。
聴いてみたい。確かめてみたい。君の声で。
そんな私の質問を、君は子供っぽいと笑うのかもしれないけれど。
君が見つけた自分
「えぇ? 何、いきなり。どうしたの?」
「…いえ、別に。何となく思っただけですよ」
「んー…」
いきなりの私の質問に、彼女はおどろいたような声を出した。
小さく笑って返事をした私をじっと見つめて、小さくうなった。
「それは…」
ひょいっと私の顔をのぞき込んで。
「柳生君のどこを好きになったかってこと?」
そう言った。
彼女はよくこういった遠回しの言い方を見抜く。
中々言い出せない事などを何気なく察してくれる。
告白をしてきたのは向こうの方からだったけれど、正直彼女が私のどこを好きになってくれたのか解からないのが不安でもあった。
「そういう事だよね」
「ええ…まぁ…そうですね」
私を見つめたまま、自信満々に笑ってそう言う彼女にウソなどつけるはずもなくあっさりと認めた。
彼女が言った事を聴きたいと思っていたのは事実だったから。
「んー…」
屋上の風に吹かれながら、少し強い太陽の光をあびて先程と同じように彼女はうなる。
今度は少し顔をしかめながら。
「そーだなぁ…。
んー、真面目すぎるところとか、少し口うるさいところとか、顔に似合わず頑固なところとか、かなっ」
「それは…短所と言うんじゃないですか?」
「そうでもないよ? 見方を変えれば長所になるじゃない。
良い所なら、テニスがうまいところとかさ」
…私の取りえはテニスだけなんですか?
まぁ…あながちウソだとも言えませんけど。
「まだあるよ」
え…。まだあるんですか? 短所、それとも長所が?
私の顔を見て小さくほほ笑むと、彼女はこう言った。
「素直で純粋なところ」
………。
自分の耳を疑うとは、まさにこの事なのでしょうね。
「素直」?「純粋」?
…それは…。
「それは…僕の事…ですか?」
「そうだよ」
全くなんて不思議な子なのだろう。
自分のどこをどう見てそう判断したのだろうか。
「素直」「純粋」など、そう思ったことなんて一度もないというのに。
彼女は私の横からスッ立ち上がり、フェンス越しに空を見上げる。
そして彼女は突然、何の前触れもなく質問を投げかけてきた。
空を見上げたまま。
「ねぇ、私が何で柳生君を好きになったか解かる?」
「…解かればこんな事を君に聞いたりしませんよ」
「そういったところ」
「は?」
「ウソをつかない…そんなところが好きだよ」
ウソをつかない…。
違いますよ。「つかない」のではなくて、「つけない」んです。君にだけは。
だって君はいつも正直な気持ちを私に伝えてくれる。
なら、私もそれに応えなくてはいけないと思ったから。
「ウソをつかない素直さ。
ウソをつけない純粋さ。
たとえそれが私にだけだとしても、それは私を安心させてくれる」
「安心…ですか?」
「そう」
振り返ってフェンスから離れて、私の前にちょこんと座り、まっすぐに私の目を見つめて。
「あなたの瞳はウソをつかないから、だから安心する。
だから安心して一緒にいられるの」
なんてことを言ってくれるのだろう彼女という人は。
「安心する」だなんて、そんな「いてくれて良かった」みたいな事…。
面と向かって、そんな事を言ってくれるなんて。
そんな事を言ってくれる人は、きっと君しかいない。
「ありがとう」
心から。
君が、私の前にいてくれる事に。
君が、存在していてくれてる事に。
「満足ですか、柳生君?」
「ええ、満足ですよ」
「それは光栄です」
二人、顔を見合わせて、小さく笑う。
多分、自分のことを「好きだ」と自信を持って言える人なんてそうそういないのだろうと思う。
けれど、君がそんな自分を「好き」だと言ってくれるのなら。
少しだけ、自分を好きになろうと、頑張ろうと思う。
君が見つけてくれた自分を。
そう思えるのも、君がいてくれたおかげ。
そんな君が、いつまでも自分の傍で笑っていてくれることを。
心から、願う。
END.04.5.10
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