君の誕生日。
君が生まれた日。

これからも君に幸せが降り続きますように。





  Happy Happy Birthday





雪がちらほら舞う公園で、私は一人佇んで清純を待っていた。

今日は彼の誕生日で、一緒に祝おうということで、待ち合わせしてるわけで…。
それにしても…遅いっ!
待ち合わせは6時だったはずなのに、腕時計の針はもう7時半を指して、辺りはすでに真っ暗だ。

「…寒っ」

一瞬強い風が吹いて、身を縮めた。
マフラーくらいしてくれば良かったかな。
最近暖かかったから、油断してたかな。

白い息が漏れる。
それを見て「清純」と待ち人の名前を小さく呟く。

「…寒いよ…」

何だか清純がいないっていうだけで、寒さが二倍になってるような気がするよ。
今、清純が私の傍にいたら、こんなに寒さに凍えるはずないもの。

…後5分、待ってみようかな。
ううん、やっぱり10分に…って何考えてるんだか、私。
後何分とか考えても、無駄なのは解ってるくせに。

清純が来るまで、ここを動けない事くらい、解ってるわ。

でも、早く来て。
…待ってるから、私の傍に早く来て。

そんな時だった。
凄い勢いで、オレンジ色の物体が私に向かって来た。
その物体は私の前に来て、「ごめん!」と謝った。

つまり、そのオレンジ色の物体は千石清純、その人。

「ごめん、遅れてっ!本ッ当にごめんね!あ、でもね、忘れてたわけじゃなくて、えっと、その…」
「…」
「太一や南や部員の皆が祝ってくれて、抜けられなくて。…ちゃん?」
「…い」
「え?」

私はありったけの大声で叫んだ。

「遅いって言ったの!1時間40分の遅刻よ、1時間40分の!この寒い中、どれだけ待たせれば気が済むのよ!…どれだけっ…不安にさせれば…」

最後の方は言葉にならなかった。
そうよ、どれだけ不安にさせれば満足なのよ。
清純がいない間、私がどんな気持ちだったか…!

私は思わず下を向いた。
顔を上げたら、溢れて来た涙が零れて泣き顔を見られてしまいそうだからだ。

でもこの涙は。

不安の涙じゃない。
清純がちゃんと来てくれた、安心の涙だ。

黙ってた清純が、いきなり私の頭に触った。

ちゃん、頭に少し雪が積もってる。しかも、こんなに冷たい。
…ごめん、遅れて」

清純がそう言った後、私はすばやく清純の首に手を回して抱きついて、肩に顔をうずめ、一言「もういいよ」と呟いた。

そんな私を清純は抱き締め返した。
そして、小さく呟いた。

「ごめんなさい」
「ふふ、もういいよ」

ごめんなさい、と言った清純が、まるで小さな子供のような、子犬みたいで、思わず笑ってしまった。

「でも、ごめん…」
「…もうごめんはいいよ」
「え?」

抱き締めてた腕にきゅっと力をこめた。

「清純はちゃんとここに来てくれたじゃない。しかもこんなに急いで。それだけでもう充分だよ」
「…うん。じゃあ、ありがとう」

清純は私から身体を離し、大きな手で頭と頬をそっと撫でた。
…あ、暖かい。

「こんなに冷たくなるまで、俺を待っててくれて…ありがとう」
「だって、去年からの約束だもん。今年も一緒にいるって」
「…うん、そうだね」

私はもう一度、清純の胸に飛び込んだ。

ちゃん?」
「ふふ、清純暖かい」
「あ、走ってきたからかな」

いつ間にか涙は乾いていて、私は清純の暖かい体温を感じていた。


「さて、と。いつまでもこんな所にいちゃ風邪ひいちゃうから、場所変えよっか」
「うん、そだね…くしっ」

清純の差し出した手を取ろうとした時、私の口から小さいクシャミが出た。

「大丈夫?そういやちゃん、マフラーもしてないじゃん」
「最近、暖かいから平気かなって…」
「…来週には12月だよ?」

はい、そうですね。
11月の末にマフラー無しで平気だなんて、私の考えが甘かったです…。

「もうちゃんってば…」

くすっと笑いながらそう言って、清純は自分のマフラーを外して私にかけてくれた。
ふわっと優しい暖かさと清純の匂いがした。

「これでよし、と。
…さ、行こ?」

もう一度清純が手を差し出した。
その時、私に向けられた、たまらなく優しい笑顔に一瞬見とれてしまいながら。
その手をしっかりと握り返しながら、笑って言った。

「清純、ハッピーバースデー」


ねぇ、清純。
私ね、前は冬なんて嫌いだったわ。
でもね、今は大好き。だって、清純が生まれてくれた季節だもの。

君が私の傍にいてくれるなら、永遠だって信じてみたい――。





END





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