君が俺の前にいる時は、君は一輪の小さな花になる。

それは俺の前でしか咲かない花。
世界に二つと無い、俺だけが見れる花――。





君が花開くとき





気が付いたのは、いつだったかな。
皆と一緒にいる時と、俺と二人きりでいる時と。君の顔が違って見えると気が付いたのはいつだったか。
何が変わったわけでもないのに、違って見えたその顔に俺は見とれてしまったんだ。
その、一つの花に――。


って俺の前でだけいつもと違う顔するんだよ。知ってた?」

暖かい日差しの中、屋上でそんな話をした。
当のは自覚が無いのか、いきなりの話題にキョトンとして「ええ?そうかなぁ」と首をかしげた。

…無意識に、君は花を咲かせる。
俺の前でだけ、とても綺麗に花開く。俺はその花に魅入られっぱなしだ。

「私、そんなに変な顔してるかなぁ」
「ああ、違うよ。そうじゃなくてね」

笑って「いつも通り可愛いよ」と言うと、顔を少し赤くして下を俯きながら「…どうも」と小さく呟いた。
ほんの少しはにかんで、小さく微笑んだ。

「でも今は…」

よっと、寝かせていた体を上半身だけ起こしてに近づいた。頬にそっと両手を伸ばすと、触り心地の良いの髪が手にかかる。

「顔…よく見せて」
「…サエ?」
「でも今は、すごく綺麗。…綺麗になったよね、

そう言ってすぐに不意打ちの触れるだけの軽いキスをすると、さっきよりもまた顔を赤く染めた。
キスなんてもう何回もしてるのに、いつでもはこういった行動を取ると初々しい反応を見せる。こんなを知ってるのは俺だけだと思うと、思わず優越感を感じてしまう。

「ねえ、私どんな顔してるの?サエと一緒にいる時は違う顔って…どんな顔?」
「ん?そうだな…」

まだ顔が少し赤いに真正面に向き合って。

「『女』の顔してる。『少女』じゃなくて『女』の顔だよ」
「…そうなの?」
「そうだよ」

きっぱりと言い切る。
は「『女』の顔かぁ…」とピンとこない表情を浮かべた。

「他の奴にはその顔、見せないようにね」
「…え?」
「君がもし、他の奴のものになったらそいつにその顔を見せる。俺以外の奴がのその顔見るなんて…我慢ができないよ」

君は俺のもの。
頭では解かっているし君を信じていないわけでもないけど君を何回抱いても、情けないほどそんな不安は尽きない。自分の独占欲は意外に強いらしい。
あとどれだけ君を抱けば不安は消えてくれるのか…。

は…俺以外の誰かのものになんてしたくない…!絶対に」
「…そんな怖い顔しないでよ…」
「え?」
「バカね、サエ。私はね、サエ以外の前で『女』になるつもりはないですよ?私はサエのものって解かってるでしょ?だから安心して」

それが当たり前のようには言い切った。
自分は俺のものだというのが、さも当然のように。
…どうして君はいつも欲しい言葉を言ってくれるのか。
は鮮やかな花のように笑って、俺の頬に一つキスを落とした。
俺の前で笑うたびに綺麗になっていく君。
だけど、たとえテニス部の皆の前でも君はその花を開かない。まるで花が咲く前のつぼみのように。

俺と二人きりになると、君はゆっくりと花開いていく。
日陰に咲いていた花を日向に出したみたいに、豊かに綺麗に開いていく。
――君が俺の前で花開いてくれるのなら、俺は君にとっての太陽になり暖かさを。
君がその花を枯らさないようにするために、俺は君にとっての水になり元気を。

そして君という一輪の花を守るために、俺は全力を君に注ごうと思う。
枯らすことなく、いつまでも綺麗に咲いてくれるように。

願わくば、俺のためだけに――。





END 04.6.24





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