君への想い。
忘れていた想い。

だけど、決して消える事のない君への恋情――。




  再会





長く勤めていたイーストを離れ、中央勤務に異動になった。そのとき、ヒューズの仕事を引き継いだという一人の女性に会った。

「ヒューズ准将の仕事を受け継ぎます、と申します。これからよろしくお願いいたします」
「…
「久しぶりね、ロイ」


突然の再会に驚きのまま君の名を呟いた私に、にっこりと微笑んだ。
あの頃のまま、私をファーストネームで呼ぶ声に懐かしさを感じて。

それが君、との二度目の出会いだった。


久しぶりに会った君は美しい大人の女性になっていて、そんな君にもう一度恋をしたと言えば君は笑うだろうか――。



「懐かしいな、士官学校卒業以来か?こんな所で君に会うなんてな」
「ロイの噂は聞いてるわ、焔の錬金術師様」

君はあの頃と変わらぬ鮮やかな笑顔。少し茶目っ気をふくんで笑う中、フッ、と私は自嘲的な笑みを零す。

親友一人守れずに、何が国家錬金術師なのか。
この手は人を殺す事は出来ても、守る事は出来ないのかと自分の非力さが憎い。
浮かぶたった一人の無二の親友の笑顔。文句を言い合いながらもいつも後ろで支えてくれた。
繰り返すただ一つの言葉。『すまない、ヒューズ…』と。


「ロイ?」

急に黙った私を、は心配そうに顔を覗き込み、ポツリと言った。

「傷つけた?…ごめん」
「……っ」

呟いたの泣き出しそうな顔に、あの頃の激しい恋情が蘇った。
自分の気持ちを抑えきれずの腕を引き寄せ、キスをしようとした瞬間に、頬に平手を喰らった。

「何するの?私、こういう冗談は嫌いよ!」
「冗談なんか言わないさ。…君相手にこんな冗談は言えないよ」
「どういう意味?」
「…君を愛してる、ずっと前から」

罪と血で汚れた手で、君に触れられない。
奪って傷つける事しかできないこの手では君に触れることすら叶わない。
…けれど、それでも。

「愛してる、。君を、君だけを…」

抑えきれない想い。
許して欲しい。
君をこの手に抱く事を、どうか…。

「もう、情けない声出さないで。…バカね」

くすっと笑ったあと、君が静かに言った言葉をきっと忘れる事はないだろう。

「貴方にそんな風に言われて、心を奪われない女性はいないわ。もちろん…私もよ」


…君は許してくれるのか?
…君の傍にいてもいいのか?
罪と血だらけの私を愛してくれるのか?
涙を浮かべ「…ありがとう」と呟く。

私には人を愛する資格がないと思っていた。
仕事だ戦争だと大勢の人の命を奪ってきた私が誰かを愛するなんて出来やしない。そんな事は許されないのだと思っていた。
心がどんなに愛を求めていても、手を伸ばしてはいけない。それを自分に対しての戒めとしてきた。

君のことは忘れたと思っていた。いや、そう思いこんでいただけなのかもしれない。
今思えば関係を持った大勢の女性は、どこかしら君に似ている気がいた。
髪の色、顔立ち、声、仕草、笑った顔…。
自分でも気づくことなく、心のどこかで君の面影を求めていたんだろう。


――生まれて初めて心底恋焦がれた君。


の頭を抱き締めて優しく髪を撫でてくれる暖かい手に、私は身を任せた。
そのあたたかさに堪えきれない涙が零れた。
それを感じ取ったのか、は「…泣かないでよ。本当にロイは変なとこで甘えたなんだから」と呆れながらも優しく囁いた。
君のあたたかさと優しさが心に染みて流した涙。こんな涙ならたまに泣くのも悪くないかもしれない。
そして、私の涙を受け止めてくれる女性が君で良かった…。

恐れなのか、極度の安心からなのか、気が付いたら私の手は小刻みに震えていて、その時はそんな情けなく震えている手で君を抱きしめは出来なかったけれど。


信じたい、もう一度だけ。
まだ人を愛し愛される資格があるんだと。

君を、愛する資格があるんだと――。





END 04.11.18





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