貴女を求める欲は、きりが無くて。





  Stop the love





「今はそんな暇ないの。だから駄目!」
「…………」

そんな彼女の声がピシャリとLの伸ばす腕を止めた。
躊躇いも無くそんなことを言うつれない彼女をLはじっと無言で見つめた。彼女はそんなLの視線もさらりとかわした。
今は特に担当してる事件も無く、しばらくは恋人との甘い時間を過ごせるはず…だった。
しかしだ。そう簡単にはいかなかった。
その休日が訪れる前に担当していた事件が中々やっかいなものだった。警察お手上げのその事件もLの協力の下に捜査し、何とか解決した。事件が解決したからといって、それで終わりというわけではない。
その事件をまとめた資料作成やら事後処理やら、やることは山ほどあるのだ。そのような事務的な仕事は、Lの助手である彼女の仕事なのだ。

だが、その事件の間、禁欲を強いられていたLはそろそろ限界だった。
事件が終わった後の彼女の仕事を考えて、ほんの一日彼女を求めるのがいつものパターンなのに。今回はやることが多すぎてその一日すらも余裕が無いというのだ。
事件が解決するまでとはまた別の戦いが、今Lを襲っている。

「……終わったら構ってあげるから。今は邪魔しないで」

彼女の止める言葉を無視して、手を再度伸ばしたら、今度はその手をピシッと叩かれた。
そして彼女の口からはまたお断りの言葉。キッとLを睨み、心なしか、少し言葉に刺があるような…。彼女はLに背中を向けてパソコンとお見合い中。
これ以上何かすれば、本気で怒らせ機嫌をそこねてしまうだろう、とLは長い経験から知っていた。
仕方がないと、ふうと溜め息をつく。もう少しの辛抱だ。
ソファにいつものように体育座りをして、砂糖たっぷりのコーヒーをすすりながら、彼女がパソコンを打つ音に耳を傾ける。
心地良いその音に、目を閉じる。そうすると急激に睡魔が襲ってきて、抗うことも出来ずにLは眠りに身を任せた。


――Lが眠りから覚醒したとき。
窓に目を向けると、外はすでに漆黒に包まれていた。
随分長い間眠っていたのだろうか、時計はすでに真夜中の三時を指していた。
ふと、彼女の方に目をやると、彼女は机に伏せて小さい寝息を立てていた。
彼女の顔を覗き込むと、少々疲れが見て取れる。起こすのも可哀想だし、近くにあった毛布を起こさぬようにそっと掛けてやった。
……今はまだ我慢しよう。今、貴女を抱いてしまったら、きっと貴女の身体に負担をかけてしまうだろうから。
今は、ゆっくりと休んで…。


それから二日経っても、彼女の仕事が終わる事は無かった。

「これでも食べて待ってて」
「…………」
「…もう少しで終わるから」

懲りずにまた彼女に手を出そうとしたLを、今度は彼女は手段を変えてLを止めた。いつの間にかワタリにでも買って来てもらったのか、ケーキの入った箱をLに渡した。いくら好物を出されても納得がいかず、またジッと彼女を恨めしそうに眺める。
そんなやりとりもいつもよりも長く続いて、彼女もさすがに可哀相に思ってきたのか、少し申し訳なさそうな顔で微笑んだ。

「……解かりました。これで我慢しますよ」
「…え…?」

きょとんとした彼女をケーキの箱を持った逆の手で引き寄せ、彼女の首筋をきつく吸い、その白い首筋に赤い後を残した。
頑張ってくださいね、と短い言葉を残して彼女の部屋を後にした。いっそキスの一つでもすれば良かったと少し後悔した。しかしそうすれば、きっと我慢できなかっただろう。
ケーキの入った箱を開けると甘い匂いが鼻をくすぐる。口に運ぶと、甘さが口の中に広がる。
……でも違う。今Lが求めている甘さとは違う。Lだけが知っている、あの人の甘さが欲しくてたまらない。


「……L?…L、起きて」
「…………」

自分を呼ぶ優しい声に、うっすらと目を開く。そこには小さく微笑む彼女の姿があった。
自然に手が伸びて、彼女の顔を引き寄せてキスを交わす。

「……?」

…ん?とLは首を傾げた。
唇を離しても、Lを咎める彼女の言葉は無かったのだ。
咎めるどころか微笑んで、少し照れくさそうにLに耳打ちをした。

「もう終わったから……いいよ」

少しやつれた彼女の頬を触れた。

「もう一日くらいは…多分我慢できますよ?少し眠ったほうが…」
「いいの。大丈夫」
「しかし…」
「我慢してたのはね、Lだけじゃないんだよ。だから頑張って終わらしたのに」

Lの言葉を遮って、あんなトコにキスなんてされたらたまらないよ、と首筋を押さえて拗ねたように呟いた。
そんな彼女の可愛い態度に、Lが耐えられるはずもなかった。
彼女を抱きすくめ、薄くなったキスマークをもう一度付け直す。そのまま彼女の肩に顔を埋めた。

「…L?どうしたの?」
「甘さが足りなくて、もう少しで禁断症状が出るところでした」
「ケーキ、あげたでしょ?」
「違いますよ」

身体をほんの少し離して彼女の頬を両手で包み、キスをして、彼女の唇を吸って舐めた。
ああ、たまらない。

「貴女以上美味くて甘いものは、私は知りませんよ…」

微笑んでそう言うと、彼女の顔がさっと紅に染まった。そしてくすっと彼女も微笑む。

「禁断症状出る前でよかったね。…たくさん召し上がれ」

そんな事を言って、Lの首に腕を回した。
口説き文句なのか誘い文句なのか、はっきりしないその彼女の言葉に、Lはたまにこういった風な不意打ちを喰らう。腕を回されているので顔は見られていないが、Lの顔もまた紅に染まっていた。
頂きます、という行為を始めるにしては不釣合いな言葉を言ってから、Lは彼女に覆い被さった。
Lにとって必要不可欠な甘いものを摂取するために。


その欲求は、底が知れない。
命果てるときまで、永遠に尽きる事はない。





END 06.12.6





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