私が作ったシロツメクサの花冠。
それはよく、貴女の髪を飾っていた。
私は願う。
その花はずっと貴女に降り注いでくれることを――。





  シロツメクサ





夜神家と北村家の監視カメラを外して、数日たったある日の事。

「竜崎…ちょっと」
「なんだ、ワタリ……何!?」

珍しくワタリが少し困惑した様子で、Lに耳打ちした。
ワタリから告げられたその内容は、Lには予想外だった。表面には出さなかったが、確かに動揺していた。
ある人の意外の訪問に――。

その人を捜査本部にある自分のプライベートルームに通すようにワタリに命じて、Lは「ちょっと出てきます」と言い残して、プライベートルームに向かった。


「ここには来ないように言ったはずですが?」
「……はい…」
「ここにキラがいないとは言い切れないんですよ?解かっているんですか!?」
「……はい…ごめんなさい…」

ベッドと最小限のものしかない殺風景な部屋。
そのベッドにちょこんと座り、声を荒げたLの言葉に一瞬竦みながらも素直に謝る彼女。
Lが声を荒げるなど滅多にしない事で、長年彼の傍にいたワタリも驚くほどだ。
彼女はLと同じ施設で育ったLの幼なじみであり、そしてLの恋人だ。
いつもならワタリと共に色々とLの世話をしてくれるのだが、今回のキラ事件に彼女が付いてくるのをLは許さなかった。
近年稀に見ない凶悪事件――誰がキラかもハッキリしないこの事件に彼女を晒すことはしたくなかった。
何せ相手は顔を見、名前を知るだけで人を殺せるという、そんな見えない犯人が相手なのだ。現に自分の命が大切だということでこの事件から手を引いていった捜査員達は大勢居たのだ。
Lがキラ事件に赴く事に彼女は反対をしなかったし、Lに付いてきてはいけないと言われたときも彼女は素直に頷いた。
しかし、この事件がどんなにやっかいで恐ろしい事件かは彼女もよく解かっているはずなのだ。
だから、どうしても心配だったのだろう。せめて無事かどうかだけでも知りたかったに違いない。

「ごめんなさい……」

彼女は俯き、もう一度小さく謝った。
そんな彼女を見て、Lは息を吐いた。ワタリを見て「少しの間、二人に」と告げて下がらせた。
二人きりの部屋に、少し重苦しい空気が流れる。長い沈黙を破ったのは、彼女だった。

「L…怒ってる?」
「ええ、怒ってます」

彼女の問いかけにLはアッサリと肯定の言葉を口にした。
そしてすかさず彼女を抱きしめた。
ああ、とても久しぶりに感じる彼女の暖かい温もり。どこか懐かしい香りがする。そうだ、幼い頃彼女の髪を飾っていた花はこんな香りだった。確かあの花はシロツメクサ。

「L…怒ってるんじゃないの…?」
「……少し黙って… 」

彼女を抱きしめながら、Lは微笑む。
こんな所まで来た彼女を立場上怒りはしたが、嬉しくもあったのだ。
危険を承知で、自分に会いに来てくれたことが。自分の命が危険に晒されようと、自分をそこまで心配してくれていたのだろう。
彼女の様子から、それは自惚れではないと解かる。
彼女はLの背中に手を回し、呟く。

「L…無事でよかった……!!」

涙声でそう言う彼女に愛しさが止まらない。無事だと知って涙まで浮かべてくれる人が貴女で良かった。思わず抱きしめる腕に力が強くなる。
そっと彼女を離したら、その瞳にはやはり涙が光っていた。
その涙をちゅっと音を立ててキスで拭うと、ふっと笑った。

「泣き虫なのは昔から変わりませんね」
「私が泣くのはLの事でだけよ?」
「…………っ!」

さらりと、さも当たり前と言うように言ったその言葉は、世界の名探偵Lにカウンターを喰らわした。
しかしその言葉は、今まで捜査で忘れていたLの欲情を呼び覚ました。
Lは彼女の肩をぐいっと引き寄せ、激しいキスをした。
角度を変えて何度もキスを繰り返す。彼女の両手はいつの間にかLの肩に置かれている。

「んっ…ふぁっ…、ちょっ、と…Lっ…んん…」

彼女が何か言おうとした事さえ無視してキスを続けた。
背中に手を回し、彼女をベッドに押し倒す。その間も激しいキスはやめない。肩に置かれている手に少し力がこもる。
怯えている彼女舌と自分の舌を絡める。唾液を彼女に注ぎ、それを彼女がこくりと飲み込む。その際に彼女の口から伝った唾液を舌で舐め取った。
唇を離すと、彼女は荒い息を吐きながらLを上目遣いで見つめる。涙で潤んだ瞳が何ともいえない。その瞳だけで煽ってくる。

「ちょっと…何ですか?」

訊きながらもLは行為をやめようとはしない。Lのキスは耳を甘噛みすると可愛い声が上がる。そしてそのキスは首筋に移動した。
キラ事件に赴く前にはその首筋にはキスマークがあったのに。消えてしまったそこに同じくキスマークをつけた。いつもよりもキツく吸って。

「いっ…アッ…やぁ……ぁ…」

そんなLに彼女は肩をぎゅっと掴んで、途切れ途切れに質問をした。

「ちょっと…ここ…捜査、本部…でしょ……?」
「それが何か」
「何かって……その…こんなとこで……?」
「鍵は掛かってます。ここは私のプライベートルームで防音も効いてますから声も出していいですよ。問題ないでしょう」

――やめる気ないんだ……。
彼女は諦めたように、肩に置いた手をLの首に回した。
好きな相手が求めてくるのに、拒む事なんてよっぽどでない限りできない。それは彼女だけでなくLも同じ事だった。首に回された手が合図のように、Lは服を脱ぎ捨て、彼女に覆い被さった。
――またあの香りが鼻をくすぐる。
彼女の身体に印をつけながら、服のボタンを外していく。
上着を脱がせれば、綺麗な白い肌が露になる。そして慣れた仕草で彼女の胸を被っていたものを外した。何も着けていないその上半身を見て、Lの心臓はドクンと跳ね上がった。
Lはもう一度彼女の唇にキスをしながら、胸の柔らかい膨らみに手を通わすとビクンと彼女の身体が揺れた。
そしてそのまま触っている胸の突飛を指で掴む。

「ンッ!んん…んーっ」

キスをされているままなので、声が思う通りに出せなくてもどかしいのだろう。唇を離すと、ビクビクと震える。
突飛を触ったまま、もう一つの突飛をLは口に含み、吸ったり舐めたりを繰り返す。

「はぁ…あ…、やぁっ!あぁ…あっん、はぁ、ンッ…アッ」

頬を赤に染めて声を上げる彼女を見て、可愛くて、くすと笑いを零す。
空いてる手で彼女のスカートのホックを外し、これもまた器用に脱がせていく。
下着1枚になり、先に行為を進めようとした時に、彼女がLの胸に唇を寄せた。そしてそこに赤い印をつけた。

「はぁ…、そこなら…本部の人たちにも見られないでしょう?」

私だってLに自分を刻みたいのにLだけなんてズルイわ、なんて言って少し拗ねた顔を見せた。そんな顔も欲情を煽らせるだけなのに。
そんな彼女の額にちゅっと軽くキスをして、行為を再開した。
彼女の濡れているそこに手を伸ばした。

「やぁ…L……」

怯えた声を出しながらも、彼女の身体はLに慣れているために、もう随分濡れていた。
それを確認して優しく下着を脱がす。
そして彼女の秘部にはまだ挿れず、その周りを触り、愛液に指を濡らす。

「アッ!L……あぁ…あ、ん…ふ、ンッ…」
「大丈夫、怖くないでしょう…?貴女にここまで触れるのは、私しかいないんですから…」
「ふ…はぁ、そう…ね。Lだけだものね…」

額から瞼、頬に最後に唇に軽くキスを落として、彼女だけに見せるであろう、微笑みを見せて。そのLに綺麗な笑顔を返して。
彼女が安心したのを確認して、そこへ指を一本挿れる。

「ンアッ!ああっ、はぁっ…ああっ、…んあっ!…ふぅ、ンンッ、あはっ!」

慣れていた身体は、Lの指をすんなりと受け入れ、二本目の指も痛みは無いらしい。痛みよりも快感のほうが強いらしい。
やはりそこは感じる快感は特別らしく、甲高く可愛らしい声を出す。その声にさえ心臓は早く高鳴る。
もう限界だと、Lは彼女の中から指を抜いた。抜く仕草にも「ふあぁっ」という可愛い声を洩らした。指を濡らしていた愛液をペロッと舐めて、彼女の秘部に自身を宛がった。
さすがにそこではストップをかけた。

「L…ちょ、ちょっと待って…ね、もう少し…」
「もう、待てません……」
「名探偵なのに……?」
「…………」

名探偵だから、なんだというのだ。限界を我慢しろということなのか?いくら世界的な名探偵だからといっても、好きな女の前では所詮はただの男なのだ。我慢できるものとできないものがある。大体、ここでやめられるわけもない。
しかしここまで言われて黙っているわけにもいかない。絶対に彼女から求めさせてみせる。

「貴女は…これ以上我慢できるんですか…?……これでも……?」
「ゃぁんっ!やだ、や、L……っ!」

Lは彼女の秘部に顔を埋めて、そこを舐めた。溢れる愛液をぺろぺろと舐めて、舌をその中に入れた。
彼女は涙を零しながら、頭を振りながらLの頭を弱々しい力で押しやりその行為をやめさせようとしたが、Lはやめる気配はない。
ついに彼女から嗚咽が漏れた。

「ふぇっ…やだ、Lぅ……っ!も、それ…いい、から…、Lっ、早く……」

――落ちた。
彼女に気付かれないように、フッと笑みを零す。

「――了解」

優しく足を開かせて、彼女のそこに自身を宛がい、体重を掛けて一気に突き入れた。

「は、ああぁーーっ!!やああっ、はぁっー、L、Lっ!」

彼女は悲鳴のような声を上げて、その細い背中をそり返しながらLの首に回した腕に力を入れた。涙を堪える事ももうできなさそうで、綺麗な涙を流しながら何度もLを呼んだ。
締め付けられる快感と痛さの中、Lは彼女に問い掛けた。

「……っ、痛いのですか…?」
「ううん、…違、う…。今、私がLの一番…近くにいるのが、嬉しい、の…。今度会えるときまでっ……忘れたくないから……手加減、なんかしないでね」

Lが自分の中にいる快感と苦しさで、言葉は途切れ途切れにそう話した彼女。でもこんな時だからこそ本音が聴ける。もとより彼女はこういう事ではLにはウソなんかつかないのだけど。――いや、つけないと言った方が正しいのか。すぐに見破られてしまうそうだ。
不覚にもLは彼女のその言葉に涙が流れそうになった。

「……ええ、もとよりそのつもりですから」
「いつもよりも…強く…残して、ね…」

Lにとって彼女はどんなものよりも魅力的なのだ。今日はそれに加えてセックスでの色気もある。白いシーツの上に乱れる彼女の長い漆黒の髪が綺麗だ。Lは今度こそ我慢がきかなかった。

「ンッ、はぁ、ああっ、やあ、あ!はっ、ね、え、L…?」
「ん……?どうかしましたか?」
「はぁ、ふ…、もっ…と、奥、来ても…大丈夫、だよ……」
「ええ…、貴女が一番感じるところは……ここでしょう…?」
「いやああぁっ!ひぅっ、はあっ、あ、ンアッ!」

彼女がLをもっとと求めた瞬間、Lは彼女の最奥の場所を突き上げた。
忘れるはずがない。愛してる人が自分で一番感じてくれるポイントを。

「あぁっ、L!あ、やぁっ、そこ、は…はぁ、ンッ!」
「ここ、がいいんでしょう……?」
「はあぁっ、ふあっ、あ、あぁっ!」

もう彼女は言葉を紡ぐことも困難な状態で、Lの問い掛けでもこくこくと頷く事で精一杯だ。
Lはその時、背中に鈍い痛みを感じた。おそらく、彼女がつけたのだろう。
――いっそのこと、消えなければいいのに――。

「ああっ、L、Lっ!わた、しっ…も、ダメッ… 」
「…では、私も貴女と共に……ッ」

彼女の一番感じる最奥を、激しく、強く、突き上げる。
その瞬間、彼女の中が収縮して、彼女の中のL自身を強く締め付けた。

「ああぁっ、Lっ!やあ、あ、ゃ、ンアアアーーッ!!」
「……クッ……」

彼女の締め付けにLも持っていかれ、Lも低い声を出し、彼女の中に全てを放った。
精を出しきった後、Lはゆっくりと引き抜いた。
まだ余韻にポーッとしてる彼女にキスをして、頬に掛かった髪をどけてやった。

ちら、と時計を見ると、この部屋に入ってから、一時間は過ぎている。
……そろそろいい加減戻らなければ。できればまだ彼女の傍から離れていたくない。

「いってきていいよ。私は大丈夫だから」

その声のしたほうを振り向くと、彼女はいつもの綺麗な顔で笑っていた。

「しかし――」
「L。自分がここにいる理由を忘れないで。今回は私の我侭、聞いてくれてありがとう。私は本当に大丈夫だから……いってきて」
「……解かりました。――いきます」

最後に彼女の髪にキスを残して。
やはり彼女の髪からは、懐かしいシロツメクサの香り。
そして、それきり振り向かずに、Lはその部屋を後にした。


それが、彼女の見たLの――愛する人の最期の姿だった。





「これが、キラ事件に関する私が独自に集めた資料よ。それと、こっちがLの残した資料。この事件はLでも無理だったわ。――頼むわよ、二ア」
「もう行くのですか?」
「ええ、Lの、お墓参りしてからね」
「何か状況が変わったら、すぐにお知らせします」
「ありがとう、二ア」


――ここは彼女とLが共に育った施設。
この施設の庭では、幼い頃Lと一緒に遊んだ記憶がある。その時は必ずLはシロツメクサの花冠を作って、彼女の髪を飾った。
ふふ、なつかしいな。

Lのお墓はその街の外れにある。たどり着いて周りを見渡すと、あのころと同じようにシロツメクサが咲いている。今度は彼女が花冠を作って、Lのお墓に添えた。
お墓に手を合わせて、Lに話し掛けた。

「――L。キラ事件はきっと二アが解決してくれるわ。安心して。ねえ、Lは今は幸せ?この花冠が私にLという幸せを運んでくれたように、今度はLに幸せを運んでくれるといいな」

白い、雲一つない故郷の青い空を見上げて。

「ごめんねL。私はまだ、そっちには逝けない。キラが神に裁かれる日までは。でもいつか近い内に必ず――!それまで待ってて」

愛しい人がいる空に、新たな誓いを誓って、彼女は再び歩き始めた――。





END 06.11.12





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