「この世には確かなものなんて何もない」ってよく言うよな。
 だけどそんなこと一体誰が決めたんだよ。
 現に天変地異が起きようと俺の中には絶対に変わらない確かな想いがある。
 単なる俺の“カン”だけどね。
 俺のカンはあいにくはずれたことがない――。





  intuition





 自分でいうのも何だけど、俺って結構モテる。
 女子から告白されることもそこそこに多かったりする。
 持ち前の明るさや人なつっこい性格、王者といわれる立海大テニス部のレギュラーで。
 友達だって沢山いるし、人間関係だってうまくやってきた。

 そんな中、好きな奴ができた。
 テニス部のマネージャーの、

 別に何がっていうわけじゃないし、一目ボレとかいうやつでもない。

 1年の頃に部活の部員とマネージャーとして知り合って。
 んで2年になって同じクラスになって今まで知らなかった色々な場面でのを見て、知って。
 そしたらいつの間にか好きになっていたんだ。

 「いつから」なんてそんな事覚えてない。
 気がついたらすでにこの気持ちになっていたから。

 一言部活で声を交わしたり、クラスメイトとして話をしても嫌われている感じがしなかったから。
 だから告白したんだ。

 「好きだぜ」って言ったら、「うん、知ってる」って一言そう言った。
 「私も同じ気持ちだから」って笑って言ってくれたんだ。

 それって両想いってことになるよな。
 そうなったら普通は付き合うもんだろ?
 流れからしたらそれが当たり前だと思うだろ?

 けれど次のの言葉に俺は一瞬理解することができなかった。

「でも私、ブン太と付き合う気はないから」

 …なんて言ったんだぜ!?
 告白して、両想いなのに「付き合う気はない」なんて訳解かんねぇ…!

 その時にその訳を聞いても、何も言わないで小さく笑っただけだった。
 何かに…少しおびえたように。

 が俺を好きなのは多分本当。ずいぶんとあっさり言ったけれど。
 はああいう事を冗談で言うような奴じゃない。

 でも、それならなぜあんな事を言ったのか解からない。
 それにあんな事言われたからって訳の解からないままあきらめる事はできない。

 別に好きだからといっても付き合う事が全てなんて思っちゃいないけれど。
 でも、そうせめて理由が今は知りたいんだ。
 あの言葉の理由とあの不思議などこかおびえたような笑顔の訳を。

 と、意気込んでみたもののいざとなると聞けない。
 今度は拒絶されたらどうしようとか考えると…怖いじゃんか。

 「付き合わなくても両想いならいいじゃん」とか思えるほど単純じゃない。
 だってそう思って安心してたら他のヤツのもんになっちまう可能性なんて大アリじゃねーか。
 が俺以外のヤツのもんになるなんてどう考えてもたえられそうにないっつーの。

 そうだ、このままじゃ事は何も進まない。
 当たって砕けたくはないけれど、怖くても一歩踏み出さなくちゃいけない。

 あいつが一体何に対しておびえているのかなんて解からない。
 けれど、できればあいつを支えていくのは俺でありたいと思っているんだ。




「お前、部活終わってからヒマある?」
 休憩時間ににコソッと話しかけた。
「…別に予定はないけど。何、どうかしたの?」
「話があるんだよ。
 部活終わったら残れよ。いいな?」
「え? ちょっとブン太?」

 半ば少し強引にを誘って、何かを言われる前にその場を離れた。


「…で? 話って何?」
 部活が終わって少し経った頃、部室には俺との二人。
 …二人きりになるとさらに緊張が増す。
 だからといって誰かがいる状態でこんな事聞けやしねーしな。

 俺が話し出すのをジッと待っている
 勇気を出して小さい声で話し出す。

「この前さ…何であんな事言ったのか聞きたいん…です、けど」
「あんな事って?」
「…付き合う気がないってやつ」
「………」

 下にうつむいてとても小さい声でポツリと一言こう言った。

「話したくない」
「…なんで?」
「なんででも。言いたくない事くらい私にだってあるよ」

 下にうつむいたままでそう言った。
 …だから、そんな理由じゃあきらめられないんだよ。

「…帰ってもいい?
 私には何も話す事なんてないから」

 は部室を出ようとドアノブに手をかけるけど。
 すぐにカギがかかっている事に気づいたらしく俺の方を見る。

「カギ…貸して」
「やだね。渡さない。
 …理由、話してくれるまで帰さない」
「どうしてそこまでして聞きたいの?」
「あんな事言われてハイそうですかって納得できると思ってんのかよ。
 理由も言わないし…それにそんな簡単にあきらめられるワケないだろ」


 どれくらいの時間が経ったのか。
 実際、そんなに長い時間は経ってはいないのだろうけど、沈黙が続くにしては充分な時間は経っただろう。
 はあれから何も話さず、ずっと下に顔を向けたままだ。
 けど悪いね。
 俺だってここまできて折れるワケにはいかない。

「……私ね、確かなものなんて欲しくないの」
 沈黙はのそんな言葉で破られた。
 どうやら俺の粘り勝ちらしい。

「よく言うじゃない。この世に確かなものなんてないって。
 …だから嫌なの」
「…………」

 あのさ、俺って頭悪い方じゃないと思うんだけど…が何を言いたいのかイマイチ…というか全然解かんない…。

「確かなものには必ず終わりがくる。
 私はね、それが怖いの。だから付き合う気はないの」
「……?」

 よく見るとは小さくふるえている。
 それでもちゃんと理由を話してくれている。
 相変わらず、俺を見てはくれないけれど。

「…ブン太と…恋人とかそういった確かな関係になりたくないの。
 男と女の関係なんて一番壊れやすいもので…前のようには戻れなくなる。
 確かなものに終わりがきたら、二度と戻れない…」

 …ふーん…なるほどね、そういう事か。
 あの時の少しおびえた笑顔の理由が解かった。
 俺とそういう関係になって、終わる事が怖い。つまり俺と離れる事が怖いんだと。
 そういう事だろ?

「だから付き合わない。
 私は確かなものなんて求めてない」

 ピシャリと強い声でそう言った。
 でもそれって、何か…。
 言っている事は理解できるけど…好きな奴にも何も求めず、求められずって…。

 …そっちの方が…怖くならないか?

 好きなんだろ?
 なら、傍にいたいと思うだろ?
 目の前に好きな奴がいるんなら相手に触れたいと、触れて欲しいとそう思うのが当たり前で。

 それらすべてを望まない。
 好きな奴の瞳に映らない。

 そんな怖い事って…ない…。


「…私、ブン太の事好きだけどこのままでいい。このままがいいの。
 曖昧なままでいいよ」

 さっきまでとは違い、弱々しい声でそう言った。
 最初からあきらめていたような小さな笑いをもらした。

 だけど。それじゃダメなんだ。
 それじゃ何も変わらない…怖くても逃げてばかりいちゃいけないんだ。

 今だふるえているを少し強い力で抱きしめる。
 今度は俺が話し始める。

のそんな考え、今俺が否定してやるよ。
 俺のお前への想いは絶対に変わらない」
「…っそんな事断言できないじゃない!
 人の気持ちなんていつ変わるか解かんないのに、信じる事なんてできないよ!」

 抱きしめられたままそう叫びだす。
 それでも俺の腕をほどこうとする行動はみられない。

「それでも信じなきゃ何も始まらないぜ。
 とりあえず、俺を信じてみろよ。証明してやるからよ」
「…何を?」
「俺はから離れない。俺の確かな気持ちは変わらない。
 それを一生かけて証明してみせる」
「…一生…?」

 そう、一生だ!
 言っただろ、俺はから離れないってさ。
 「いつまで」とかじゃなくて、俺の命ある限り傍にいる。

「…随分、自信があるみたいだけどその根拠はどこから?」
「あ? ねーよそんなもん。だってカンだもんよ」
「…ぷっ…。あは、あはは…っ」
「なっ…何だよ、俺マジに言ってんだぜっ!
 俺のカンを見くびるなよっ!」

 まったく笑い事じゃねーよ!
 あいにくだけど俺のカンははずれた事ないんだぜ(えっへん☆)

 しばらく笑っていたがポツリと言った。

「…一度だけ…ブン太の事、信じてあげるよ」
 確かにそう言った。

 ああ、信じてろよ。俺は死んでもお前を裏切るようなマネはしない。
 俺を好きになったなら、損もタイクツもさせない。

 今、確かなものが見えなくて怖いと言うのなら、これから俺達の間に確かな「何か」を作り上げていけばいいんだ。

 「この世には確かなものなんて何もない」ってよく言うけれど、そんなの俺は信じない。
 ったく誰だよ、そんな無責任な事言いやがったのは。
 何が確かで何がそうじゃないかなんて人それぞれ違うもんじゃないのかよ。

 この世には信じられる「確か」なものがあるって俺達が証明してやる。
 これにもまったく根拠なんてないけれど。
 でも、おあいにく様。

 俺のカンははずれた事なんて一度もないんだよ。





END.04.4.2





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