ハッキリ言って苦手だった。…丸井ブン太という人間は。
 何を考えているのか分からないし、お気楽のくせに、テニスの才能は超一品。
 こんな奴とは何があっても、テニス部のマネージャーとレギュラー、それ以上の関係にはならないと思っていた。
 思って、いたのに…。
 「気がついたら」…ってコト、ホントにあるなんて…私は身を持って知った…。





  ある日の出来事。





 時は5月の下旬。よく晴れた日。
 雲一つない晴天ってこういう日を言うんだろうなぁ…。
 もう少しで昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴ろうとしているのに、ウトウトしかけている私の頭にジャッカルの声が響いた。
「いたいた、ちょっとー!!」
 クラスにいた生徒が一気に私の方に視線を向ける。
 ……もう、ハズいってば…。
「…何? そんな大声で呼ばないでよ。恥ずかしいじゃない」
 顔をしかめながらそういう私にも、悪びれもしない彼。
「悪ィ、悪ィ」
「…で? 何か用?」
「いや、こっちにブン太…は来てねぇみたいだな。
 あいつ、どこ行ったか知らねぇか?
 、あいつの彼女だし」
 もうすぐ予鈴が鳴るってのに、とグチをこぼすジャッカル。
 彼女だから何だと言うのか。
「さぁ…どこに行ったかはちょっと分かんないや」
 ……なんてね。
「そっか、悪ィな。じゃ、また部活でな」
 ジャッカルが教室に帰るのを見届けて、私は自分の教室を抜け出し、ある場所へ向かった。



 ガチャ。
(……うわ…)
 教室よりも、太陽が近く感じて、まぶしくて目を細める。
 そう、ここは屋上。
 最近、ブン太が昼寝をする時にはここによく来るらしい。
 私が何故この場所を知っているのか。
 前に一度「ここで一緒に昼寝しよう」と誘われたからだ。もちろん、その時は断ったけれど。
(さて、ブン太は……と)
 辺りをキョロキョロと見回す。
 ちょうど日陰になっているいい位置で気持ち良さそうに夢の中にいる彼を発見!
 ブン太の横にひざをついて、揺り起こす。
「起きて、ブン太。もう予鈴鳴っちゃうよ。ジャッカルもさがしてたよ」
 そう言うと、ブン太は「……んぅー」と身体を丸くする。
 起きる気0。そして予鈴が鳴り響く。
「もー。早く起きてってばー」
「…じゃあ〜がおはようのキスしてくれたら、起きる」
 「できないだろ?」なんていう笑みを浮かべながら私を見上げる。
 ふーん。そーう。そうきたか…。
 見てろよ、丸井ブン太!
「……分かった」
「え?」
 そう言って、ちゅ、とブン太にキスをした。
 予想外の事だったのか、ブン太が目を丸くする。
 ふふふ。どうだ、ザマーミロ! 私はそんなに甘い女ではないんだよ!
「さ、起きて! キスしたら起きるって言ったでしょ?」
 私は立ち上がり、ドアへと向かう。
 と、いきなり、後ろからブン太に抱きすくめられた。
「…ちょっと! はなして!!」
「えー。も一緒に昼寝しよーぜ」
「……うそつき…」
 だけど、多分、分かってた。ここに来た時から午後の授業をサボる事くらい。
 ここに来た時点で、私の負け。
「こーんなにいい天気なんだしさ。たまにはいいじゃん」
 そう満面の笑顔で私に向かい合い、さっきよりもほんのちょっと深いキスをする。
 唇を離した後、「ね?」と聞いてくる。
 前言撤回。
 …そうとう甘くなったもんだ、私も。
「……今日、だけだからね…」

 そしてふと思う。
 こんな瞬間があるのなら、「気がついたら」ってやつも悪くないもんだなと…。





END





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