泣かないと決めた。
あの人の前では、もう泣かないと。
あんな顔を見たくない。あんな顔をさせてはいけない。
だから決めた。
あの人の前では、絶対泣くものかと――!

それは私のたった1つの「誓い」だ。



幼い頃の思い出といえば、泣いてる私を乱暴でも優しい言葉をかけてくれ、慰めてくれた幼なじみの困った顔――…それぐらいだ。





  貴公子に捧げる泣き顔と涙





ピピピピピ…。

けたたましい目覚し時計の音で目が覚める。
長い夏休みが終わり、今日から新学期。また頭の痛い一日が始まる。

家を出たところで、ある人物に声を掛けられた。
頭の痛い、原因に。

「よぉ。今日も一人で淋しく登校か、アーン?」
「…おはよう、跡部君。それと余計なお世話よ」

幼なじみの、跡部景吾――。
家が隣同士、おまけに親が学生時代から仲がいいという、縁を切っても切れそうに無い関係だ。
大体、親がずっと仕事で家にいないから、跡部家に時たま世話になる。
ああ、最悪――。

それでもやっぱり幼なじみなわけだから、たまに気を許す事もある、が。
私にはその一瞬の気の緩みは許されない――。
それは「誓い」を破る鍵になるからだ。

「何だよ、『跡部君』って。朝っぱらから気色悪ィな…」
「あのね、人前で『景吾』なんて呼んだら、女子の嫉妬の嵐が私に吹き荒れるのよ!だから、景吾も私の事名前で呼ばないでよ!毎日毎日ファンクラブの人達の誤解を解く私の身にもなってよね…」

そしてそんなアンタを好きな私の身にもなって。
ああ、なんて前途多難な恋なのか…。

そうなのだ。
私と景吾が幼なじみだという事は有名な話で、その所為でいらぬ誤解を受ける事がある。主に、「付き合ってる」だの「特別な関係」だの、酷い時には「親同士が決めた婚約者」だとか…いい加減にしろっちゅーのよ!
ファンクラブの人達は毎日懲りずに私に詰め寄ってくる。私はそれを毎日同じ事を言って誤解を解く。
それが私の頭の痛い原因なんだ…。

「そんなの言わせとけばいいじゃねぇか。相手にするから余計に突っかかってくんだろ」
「……」

ケロッと景吾は言ってのけた。
…解かってない!あんたは何も解かってないのよ、このおバカ!
何も言わなかったら言わなかったでめんどくさいのよ!

『大体景吾がいかにも仲良さげにするからいけないのよ!あんたが原因なの!』

…なーんて今ここで大声で言ってやりたい。
でもこんな天気のいい朝にこんなこと大声でいったら、ご近所に迷惑がかかる。

「とりあえず、学校では部活以外では話し掛けてこないでよ!」

そう言ってさっさと先に歩く。
どうして易々とテニス部のマネージャーになんてなってしまったんだろう。
私の知らないうちに勝手に入部届出されてたなんて…不覚だ!


でもこんな時に、ふと思う。
いつから景吾はこんなにも遠い存在になったんだろう、と。
子供の頃は、隣に景吾がいるのが当たり前だったから、何だか違和感が消えない。

そう、子供の頃はいつも一緒だった。
親が仕事で家にいない事から跡部家に預けられることは、少なくもなかったから。
…私が泣いてるときは必ず傍にいてくれた。
私が泣き止むのを待って、その後に不器用な乱暴な言葉で慰めてくれる。

私は幼い頃は、非常に泣き虫な子供だった。
泣かない日はないと言うくらいに、ちょっとした事でもよく泣いていた。

近所の男の子にいじめれられては泣き、親が仕事で家を空けるたびに泣き…。
その度に景吾は必ず傍にいてくれたんだっけ。
いじめられてたら助けてくれて、親が仕事でいなくなる時にケンカして家を飛び出して公園で一人で泣いてたときも。
一番最初に探し出してくれたのも、景吾だった。


今は何とか景吾のファンクラブの人達に対抗(?)出来るくらいは強くなったつもりだけど、泣き虫なのは変わっていない…と思う。

いつも傍にいた人がいない…好きだからこそ、それだけで泣きそうになる。
傍にいた人が、今はとても遠い…。

「…、!聞いてんのか!」
「…え、何を?大声出さないでよ」
「ほぉ〜、いい度胸だな…ってお前、なに泣きそうな顔してんだよ」
「…っしてないよっ!変な事言わないでっ」

私、今そんな顔してた…?
だめ、だめだ!景吾の前で気を緩めてはいけない!
気を許したら、きっと泣いてしまう。
景吾の前では泣いてはいけない!この「誓い」は絶対に守らなければ。


私が泣いているときは、景吾はいつも困った顔をする。

ああ、現実が痛い。
いつか離れていくのは当たり前で、いつまでも「幼なじみ」でいられるわけがないのに。どうして子供の頃は、いつまでも一緒だなんて疑いもなく思えていたんだろう…。
景吾と世界が違う事は、大人になっていくにつれて突きつけられた現実。

態度がでかくて、我侭で自信家で俺様な景吾。
だけど、一度決めた事は必ずやり遂げるし、景吾の言う事はいつも正しい。
頭もいいし、テニスは全国区の中でもトップクラスで、家族にも恵まれて…。
文句のつけようもないくらい、綺麗で本物で完璧で景吾に魅入られない者はいない。

例え幼なじみでも、私とは世界が違うのは解かってたつもりだったのに。

『天は二物を与えない』なんて嘘っぱちだわ。景吾がいい例よ。

皆に愛されていて、中には景吾を神のように崇拝している人だっているくらいだ。
私は神になんて愛されてなくてもいい。
私が愛されたいと思うのは、ただ一人だけだから。

でも景吾は正に、神に愛された男なんだ――。

好きな人に、そんな人に、私が泣いた所為で困った顔をさせたくない。


「何でアンタが跡部様と登校してる訳!?」
途中で会ったからだっつーの!(本日5回目の回答)
「幼なじみだからっていい気になってんじゃないわよ!」
なってません!(本日7回目の回答)
つか、むしろ私は迷惑してんだっつーの!

ああ!っもー、うるっっさいなぁ!
私に突っかかるヒマがあるなら、さっさと景吾の所に行きなさいよ!

教室に入るなり、私は机にカバンをバンッと叩きつけるように置いた。
その音にビックリしたのか、隣の席のジローがビクッと起きた。

「…今日もお疲れ様。…荒れてるね」
「荒れたくもなるわよ。新学期早々こんなんじゃ」
「頑張って。俺はの味方だからさ!ファイト!ファイトだよ、!」

ジローがふにゃっと微笑んでそう言った。
あ〜、ジローのこの顔見ると癒される!

「ありがとー、ジロー」
笑ってジローのふわふわ頭を優しく撫でると、ジローはへへっと笑う。

ジローと宍戸亮は小等部から一緒という事で、事情は解かっているからありがたい。
あの亮ちゃんだって「お前大丈夫かよ」なんてたまに心配までしてくれる。
…でも大丈夫くない…。いくら私でもそろそろキレそうだわ…。

…無理しないでね?」
「ジロー…」

ジローが心配そうにそう言ってくれた。きっと心底心配してくれてるんだろうな。
ああっ、あったかいっっ!なんていい子なの!
ジローの優しさが、今は身に染みる…。


始業式の当日でも、放課後には部活がしっかりとあり、「オラァてめーら!何もたもたしてやがんだ!!」そんな景吾の怒鳴り声がコート内に響き渡る。

そんな中、忍足君が横からひょこっと顔を出した。

「どうしたんや、跡部の奴。ピリピリしよって。ちゃん、何か知らんの?」
「さぁ、知らない。でも何か荒れてるねぇ」
「荒れとる…か。ほんま、跡部の事よぉ解かっとるんやな」
「…別に、あの人が荒れるなんて日常茶飯事だし」

あきれたように小さく笑うと、「まぁ、それもそうやな」と忍足君は諦めたように笑った。

「忍足ィ、何サボってやがる!コートに入れ!お前は俺の練習相手になれ!!」
「はぁっ?マジかいな…。なんで俺やねん…」
「うるせぇ!さっさとしやがれ!」
「…いってらっしゃい」

溜め息+気の乗らない足取りでコートへ行く忍足君を見送った。
…ああ、可哀想に…。


今日から始まった新学期。
また同じ毎日が繰り返す…そんな日々を当たり前に過ごしていくんだろうと、思っていたのに。







「ヤダな、何だか雨でも降りそう。最近天気は良かったのに…」

その日は朝から雨雲が空を覆っていた。
まるで、雨どころか嵐にでもなりそうな感じの――…。

何だか良くないことでも起こりそうな空の色…。



朝練は予定通り行われたけど。
開始して20分くらいした時に予感は的中した。

「あれ、雨…?」

ポツポツと降りだしてきた雨は、降りが早くて朝練は早々に終了した。
雨は放課後まで容赦なく降り続けた。

(…止まないなぁ)
なんて外を見ながらボンヤリ思っていたら、ジローがいきなり「止まないね、雨」と話し掛けてきた。

「うん、そうだね。ジローはまだ帰らないの?」
「寝てたらこんな時間になっちゃった。じゃあさ、久しぶりに一緒に帰ろ?」
「あ、うん、そうだね。部活もないだろうしね、久しぶりに…」

「悪いけど」

突然割り込んできた声のほうに二人同時に顔を向けたら、そこには跡部様ファンクラブ代表が5、6人揃っていた。うんざりする顔ぶれ。
(…げっ。何よ、放課後くらいはそっとしといてほしいわ。何の用よ…)

「その人には今から私達が用があるの。さん、ちょっと来てもらえる?」
「…〜…俺もついて行こっか?」

ジローがファンクラブの人達に聴こえないように言って、心配そうに私のほうを見る。

「…大丈夫だよ、ジロー。ごめんね、先帰ってていいから。
じゃ、ちょっと行ってくるね」
…」

まだ心配そうな顔を浮かべるジローに笑って手を振る。
今、下手に断ったら何言われるか解かったもんじゃない。
私は大人しくファンクラブの人達の後をついて行った。


「あの…どこまで行くんですか?」
「大丈夫よ、もう着いたから」

私たちがいた教室からまったく反対方向の音楽室に着いた。
大きなグランドピアノがある誰もいない薄暗い音楽室。
後ろでドアを閉める音が聞こえた。

「こんな所に連れて来て、私に一体何の用…きゃっ!」

振り返った瞬間、胸倉を掴まれて「あんたムカつくのよ」と低い声で言われ、ドンッと思い切り押された。
バランスを崩した私は、床にしりもちをついてしまった。
(…いった〜い)

「いきなり何…?」
「何?じゃないわよ、あんたこそ何なのよ。私達がいくら言っても幼なじみだからって跡部様とベタベタしてさ、ムカつくんだよ!」

…何ですか、これってまさか巷で騒がれている「リンチ」ってやつですかっ!?
もしかしなくても私…ピンチですか!?
やばい…怖いかも…。

「大声で叫んでも無駄だから。こんな日に音楽室に来る物好きなんていないしね」
「……っ!」

部活もない、雨の日の放課後…確かに生徒の数は少ない…。
私一人でどうにかしなきゃ。でも…どうしたらいいの?どうしたらっ…?
怖い…怖いよ景吾っ…!
ああ、涙が浮かんできそう。泣き虫ってこういう時に困るから嫌よ。
泣きたくないときでも涙が浮かんでくるんだもの。

「アンタ、何も解かってないようだから忠告してあげるわ」

再び胸倉を掴まれて。

「アンタと跡部様じゃ生きる世界も何もかもが違いすぎるのよ。跡部様はアンタを必要としてないわ」
「……っ!」

『そんな事解かってる』と、声にはできなかった。
頭ではそんなこと嫌ってくらい解かってることだったのに、他人から言われると改めて実感してしまう。

「跡部様は絶対にアンタのものにはならない。アンタじゃ跡部様の支えにはならない」
「………」

だから解かってるわ、そんなの!
ずっと景吾の近くにいたんだから、そんなのはあなた達より私のほうがよく解かってる!

「…何とか言ったらどうなのよ」
「……」
「何とか言いなさいよ!」
「……ッ」

その時、バシッと鈍い音がして、私の頬に鋭い痛みが走った。
いわゆる平手をくらったワケで。
口の中に、鉄の味を感じる。
口の中…切っちゃったかな…。

「あら、やだこの子、泣きそうな顔してるわ」
「あんなに強く叩いたからじゃない?あーあ、かわいそー」

くすくすと笑う声が聴こえる。
悔しいと思った。こんな人達に、何も言い返せない自分が。
言われた事は、本当の事だけど…心の奥で景吾が助けに来てくれることを期待してる自分が情けない…。

「ねぇ、解かった?アンタと跡部様じゃ世界が…」
「解かってるわよ!そんなこと!!」

もう聴きたくない。もうやめてほしい。
そんな思いで、私は叫んだ。

「ずっと前から解かってんのよ、そんなこと!今更あなた達に言われなくても解かってる!何回そう言えば気が済むのよ!」
「何よ、その言い草!」

今度は額に痛みが走る。
どうやらシャーペンが私の額に直撃したらしい。

「忠告してやってんのよ!それを…」
「いちいち忠告なんてしてくれなくて結構よ!解かってるって言ってるじゃない!」

どうせ、近い将来、私と景吾は離れ離れになる。
あんなにも多才な人物を回りは放っておかないだろうから。
あと数年で、本当に景吾は私の手の届かない所へ行ってしまうんだろう。
せめて、それまでは傍にいたい…。

堪えきれない、涙が頬を伝う。
床に1つ、涙の跡がつく。

景吾に涙を見せないようにしてからは、いつも一人で泣いてきた。
人前で泣く事自体、とても久しぶりだ。

「何よ、泣いてんじゃないわよ!」
「うるさいな!私だって泣きたくて泣いてるんじゃないの!」
「このっ…」

手を振り上げられて、反射的に目をつむった瞬間。
ガラッとドアが開く音がした。
私も含めての全員が、ドアのほうに振り返った。

…え?なんで…どうして…?
どうして貴方がここにいるの?
ジローだって私がここにいることは知らないはずなのに。

今、一番会いたい人。
今、一番会いたくない人。

その人がここに来たことで、「誓い」はやぶられた。

つまり、ここに来たのは、跡部景吾――その人で。

息を切らしながら、何だかいつもより切羽つまった顔で、私を見た瞬間には少し安堵したような感じで。

「あ、跡部様…」
「……」

思いがけない人がここにきたことで、ファンクラブの連中は混乱してるし、私は驚きで何も言えない。
肝心の人の景吾は、安堵した顔からはガラリと変わって、私を睨みつけている。
…コワッ…。

ハッと気づいて、私は慌てて顔を下に向ける。
あまりの驚きで、今自分が泣いてる事を忘れていた。ゴシゴシと涙を拭いたけど、一度溢れた涙は簡単に止まりそうにない。

景吾はスタスタと私のほうに歩いてきた。
そして膝を折って、私に視線を合わせた。
「…、何で泣いてんだ?」
「……」
「……テメェらか…?」

景吾は私から視線を外して、後ろにいる連中を睨みつけた。
バツが悪そうな顔をする連中。

「テメェら…こいつに何をした…。答えろ」
「わ、私たちは何も…」
「俺に嘘が通じると思ってんのか?俺は答えろっつってんだよ!」

ビクッと身体を強張らせた彼女達。
景吾の迫力に嘘なんかつけないのか、嘘が通じないのが解かったからか、私にした事を小さい声でモソモソと話し始めた。

彼女達が話し終わってから、しばらくして「はー…」という景吾の溜め息。
それから彼女達をキッときつく睨んで。

「俺に言いてぇ事があんなら、俺に言って来い。
俺はな、テメェらみたいにこういった小細工するような奴らが嫌いなんだよ!」
「ごっごめんなさいっ!でも、私たちは…」
「うるせぇっ、でもも何もあるかっ!…出てけよ。これ以上俺にそのツラ見せんな!」

声の限り景吾に怒鳴られた彼女達はひどくショックを受けた感じで、バタバタと音楽室から出て行った。
さすがに…少し可哀相な気がする…。
好きな人にあそこまで言われたら、それはショックだろうな。

…でも、景吾があんなに怒ったところ見たの、初めてかもしれない。
機嫌が悪くて怒鳴ることはあっても、それは部活中がほとんどだし、怒るのとはまた違うんだろうし。
たとえ怒ったとしても、怒鳴ることまではしない。
再び私に視線を合わせた景吾はあきれた声をして、乱暴に私の涙を拭った。

「…ったく、ノコノコついて行く奴があるか。しかも、泣き虫なのは変わってねぇようだしな」
「そんなの、私が一番解かってるよ。て、いうか…今は放っといて」
「あぁ?」

顔を景吾から背けて、涙を拭ってくれた景吾の手を力なく払う。
そんな私の仕草に景吾はムッとした表情をした。

「なんだよ、その言い草は。せっかく俺様が助けに来てやったってのに。アーン?」
「そんなこと頼んでないもん。だから放っておいてってば。…ぅ」
「……」

ああ、もうっ、涙が止まらない。さらに小さく嗚咽まで…。
これ以上景吾の前で泣きたくないってのに。
これが「誓い」を破った報いなのだろうか…?

だけどっ、なんで助けに来たりするの?
助けられたクセに、こんなこと言うのはどうかだけど、景吾がここに来なかったら「誓い」は破られずにすんだのにっ!
ここ数年、景吾に涙を見せずにしてきた私の努力って…。

しかも「放っておけ」と言ったのに、なぜに黙って景吾は私の横に座っているのよ。

あ、でもこの感じ…何だか懐かしい。
小さい頃は、こうして私の涙が止まるまでずっと傍にいてくれたんだっけ。
いつもよりもちょっとだけ、優しい顔してさ。
…変わってないなぁ。

だけど、いつまでも直らない私の泣き虫に、いつしか景吾は困った顔しかしなくなった。そんな顔をしてるのは、私の所為だって気が付いた時は悲しくなって一人で泣いた。
それから私は「誓い」を勝手に作った。

私にとっては大事だった「誓い」。
それを景吾の手で破られるなんて…!

いつの間にか雨が上がって、音楽室には夕陽が差し込んでいる。
景吾はまだ黙ったままのを良いことに、私はポツリと訊いてみた。

「なんで…助けになんて来たりしたの?」
「お前が他の奴等に手出しされんのは、面白くねぇんだよ。お前をいじめていいのは俺様だけだからな」
「…なにそれ。意味わかんない」
「ついでに言うと、お前の涙も泣き顔も全て俺のモンだ。それを他の奴等に見られるのは気にくわねぇ」

…私は君に涙と泣き顔見られるのが嫌なんですよ!
勝手な事言わないでよ。そんな事、優しい声で言わないでよ!

「お前、何かつまんねぇ事考えて…」
「つまんなくなんかないもんっ!景吾のバカ!バカァッ…うっ…ふぇ〜…」

景吾の言葉を遮って、泣きながら私は叫んだ。
つまんなくなんかない。私には大事な大事な「誓い」。
景吾に心配させないように、強くなろうと決めた、私の「誓い」。

「景吾がっ、私が泣いたらいつも困った顔するからっ。だから景吾の前では泣かないって決めたのに。それをつまんないとか言うなっ…」
「あ〜、悪かった悪かった」
「心がこもってなーい!」

睨みつける私に、景吾は溜め息。

「つか、お前、やっぱつまんねぇこと考えてたんだな。
お前が俺の前では泣かない?ああ、そんなん無理だ、やめとけ」
「なっなんでよ!」
「なんでって、そりゃお前…」

フッと不敵に笑ったかと思うと、物凄く優しく笑って。
こう、言った。

「お前が泣いてるときも、泣き止むときも俺がいただろ?ガキの頃からそうだったじゃねぇか。…それはこれからもずっと変わんねぇよ」

その時、私の中の「誓い」がガラガラと音を立てて崩れた。
少し悔しい気もするけど…ああ、やっぱり景吾には敵わない。
やっぱり好きだなぁ…。

『ずっと変わらない』…か。
景吾がそう言うからには、そうなんだろう。
不可能に近い事でも、景吾は可能にしてきたんだから。
変わらないなんて、それこそそんなん無理っぽいけど、景吾がそう言うと素直に信じられる。

態度がでかくて、我侭で、自信家で俺様な景吾。
そんな貴方がめちゃくちゃ大好きです。
私も景吾に魅入られた一人。

「いいか。お前の涙、泣き顔、全てこの俺に捧げろ。
そしたらずっと傍にいてやらなこともないぜ?」
「ずっとって…いつまで?」
「そうだな…。一生ってのはどうだ?」
「…一生?」
「ああ、一生だ」





END 04.10.21





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