First part     Sight      Food & Smile      Invitation      Decision
Waiting      Reason      Pieces      start
Interval     Monologe 桑原仁王切原
Second part     It's still early? 1      He'll obstruct it 1
    
Monologe





Side ジャッカル桑原


「ああ――ブン太の話の中に出てくる『ジャッカル』って、貴方の事だったんだ」

 ブン太に紹介されるなりそう言った彼女は、名をと言った。
 自分と同い年の女子中学生が、二人称に「貴方」を使うのにいささかの抵抗もなく、それに何の違和感も感じさせないのが妙に印象的だった。

「どーだ、美人だろぃ?」

 と得意気にブン太は言うが、その評価は特に間違ってはいないだろう。彼女は確かに整った顔立ちをしていて、街などで擦れ違えば思わず振り返ってしまうかもしれない。

「桑原君でいいのかな。よろしく」

 彼女が表情を変えず挨拶をした時、俺は曖昧に笑って応えた。
 顔は小さく、髪は黒く長く、肩は男に比べてずっと狭くて、腕も脚も細い。俺はあまり女子と関わったりする事がないので、こんなに近くに異性がいる事に戸惑いを覚える。しかも彼女が、今時の女子という感じを全くさせないのが余計に困惑の種だった。
 美人だが、無感情でどこか冷たい印象を受けるし、かと思えば、何かに向かっている時には一途な眼差しを見せる。
 女とはこんなものなんだろうか。それとも彼女は本当に珍しいタイプなのか。ブン太が彼女の何に惹かれて付き合うに至ったのか、俺には計り知れなかった。

「え〜? あの笑顔見ちゃったらさ、男ならイチコロだと思うけど」

 返ってきた答えに、どの笑顔だ、と訊ねたくなった。それほど、彼女は笑わない。まず俺は見た事がない。
 部活中の様子を見るだけでも、本当にブン太に向かって微笑んだのかすら怪しかった。彼女はブン太をかなり邪険に扱っている。
 いいのか? なんつーか、お互いに、それで。本当に付き合ってるんだよな?

「あったりマエだろ! あれは…そう、放置プレイってやつだよ」

 ブン太はフフンと鼻を鳴らすが、強がりにしか聞こえない。
 どうして付き合ってるのかはもうどうでもいいが、ブン太が彼女にベタ惚れなのは解かる。だからせめてコイツのテニスに支障が出なければいい。彼女の存在はテニス部にとっては吉となったが、ブン太にとっては凶となるかもしれないからだ。
 しっかりと手綱を握っていてくれる事を切に願う。










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Side 仁王雅治


 一年間同じクラスだったは、一言で言えば異質だった。
 つい最近まで小学生だったとは思えない程の落ち着き。線は細いのに、存在はくっきりとした輪郭を持っていて。窓際で読書なんぞをしている姿は、何の違和感もなく心地よく視界に入ってくる。
 高くも低くもない玲瓏な声は澱みなく響き、無感情な中にも実直さが窺えた。
 特に親しい付き合いはしなかったが、そんなの変化に気づいたのは、クラスも離れて一年にもなろうかという二年の冬だった。
 ある日部活仲間の丸井ブン太が、彼女が出来たのだと幸せ自慢を始めた。そこでの名前が出た時にはそれなりに驚いたが、話を聴く限りでは丸井がに一方的に惚れているようで、そりゃ両想いとは言わないなとツっこんでやった。
 だがそれからすぐに部活見学に現れたと話して、「おや?」と俺は顔には出さず心中で首を傾げた。
 漠然とだが、の雰囲気が以前とは違う気がしたのだ。一年の空白があった所為なのかもしれないが、俺にはが可愛くなったように見えた。美人だとは思うが、可愛いという形容はあまり当てはまらない女だと思っていたのに。
 そして、気づいた。ああ、本人は自覚がなさそうだがも丸井が好きなのだと。は丸井に惚れたいと思っている。それは既に惚れているという事に他ならない。
 丸井以外の男に興味を湧かせられなくて、最初から好きなくせに必死に丸井を好きになろうとするの姿勢が、ひどく可愛く見えたのだ。
 は丸井のどこに惹かれた? 何が決め手だったんだ?

「…さあ…?」

 そんな俺の質問にそう答えたは、本当に自分では解からないみたいだった。
 丸井の話によれば押しまくったとの事だが、なるほどは押しに弱いタイプだったと見える。こういう淡白な人間を相手にすると、大抵の奴は若干退き気味になってしまってなかなか深い付き合いまで行けない。は無感情だからこそ、自分へと向けられる強い感情が持続されればされる程、相手に興味も湧くわけだ。
 それをたった一日の内の僅か数分間で落とせたと言うのだから、これは幸運にも二人の相性が良かったんだろう。
 なかなかに面白い組み合わせだ。ガキっぽい丸井に、クールな。難しいタイプのに丸井が空回りして悩んでいるのが可笑しくてたまらない。
 俺だったら、もっと巧く付き合うがな――そこまで考えて、フッと息を吐いた。
 …さて、どこまで続くのかお手並みを拝見させてもらうぜ?
 邪魔するのは俺だけじゃないだろうし、しばらくは楽しめそうだ。










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Side 切原赤也


 丸井先輩のカノジョの先輩は、すっげー美人だった。
 話だけ聴いた時は見得張って大げさに言ってんだろこの野郎と心の中で毒づいたけど、マジだった。
 目は大きく切れ長で、睫毛も長くて、鼻も唇も輪郭もキレイで。パーツが平均的に揃った顔を美人と言うんだって話を聴いたことがあるけど、なるほどこういうことなんだと妙に感心しちまって、ちょっと見とれちまった。
 性格はクールでドライ。一筋縄じゃいかないって感じ。
 丸井先輩にはもったいねーほどのイイ女だな、が初めて会った時の感想だ。
 丸井先輩は俺が先輩にちょっかい出すのを見越していて、あまりカノジョに近寄らせてくれない。ケチだな。
 でも先輩がマネージャーになってからは、それなりに話す機会ができた。
 先輩は、ヒマさえあれば話しかけてくる俺を邪険に扱うことはなかった(誰に対してもそうだった)し、大抵の質問には答えてくれた。
 ただ一つ、どうして丸井先輩と付き合ってるのか? を除けば。

「解からない」

 と先輩は答え、本気で相手にされてないでやんの、と俺はこっそりほくそ笑んだが、それに反して面白くないという思いもあった。

「恋ってやつは、自分ではそうなのかどうか解からない場合もあるもんなんだぜ?」

 …なんて、ワケのわかんねぇことを仁王先輩が言うからだ。自分だけが知ってる、みたいな言い方するからだ。仁王先輩がマトモな恋愛したことあるとは思えねぇぜ?
 面白くない。
 先輩にベタ惚れなことを隠そうともしない丸井先輩も、丸井先輩を目の端で追いかける先輩も、そんな先輩を冷静に分析する仁王先輩も。
 面白くねぇ。
 このイラつきの原因は、一体何なんだ。










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Side 柳蓮二


 丸井の浮き足、ジャッカルの心労、仁王の戯れ、赤也の苛立ち。
 彼女――の存在で、我が立海大附属中テニス部の状態が僅かに変化した。それは微弱にしか感じ取れないが、確実に我々を侵食していく。
 新たな者の登場というのは、得てしてそういうものなのかもしれない。それが異性なら尚更だ。誰かとの間に恋心が芽生え、やがて恋愛関係に発展し、周りがそれに嫉妬したり、横恋慕しようとする者が現れたりもするだろう。
 今正に、テニス部はカオスの中と言っても過言ではない。その渦中に、様々な形でレギュラーの四人もが嵌ってしまっている。
 ジャッカルは丸井の事を気にしなければいいだけの話だ(それが無理だとも解かっている)が、彼女にもっとも近しい丸井と、彼女に種類の違うアプローチを仕掛ける仁王と赤也は、もうどうしようもない。
 柳生は「ダブルスパートナーの仁王君に特別な問題が起こらなければ私には関係ありませんね」と無関心だし、弦一郎の意見はいつもの「たるんどる」だ。精市は「面白いじゃないか」などと暢気に笑うが、それだけで済むだろうか。
 俺の思い過ごしならばいいが。俺にはどうも、簡単な話のようには思えなかった。
 恋愛などは俺の専門外だが、そういったものが誰にどう影響し変化していくのか『解からない』という事だけは解かる。それだけ未知数の感情だ。
 これから先どうなっていくのか、俺には全く読めない。
 そしてすぐには気づかないのだ。
 こうして思い悩んでいる時点で、既に俺もカオスに巻き込まれているのだと。










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中書き
 ヒロインとブン太が付き合い始めた頃のそれぞれの思い。
 これがどう本編に絡むのか、私にも解かりません。
 むしろ絡まないかもしれません(汗)


 2005年5月25日


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