人は、いつか死ぬ。


 人だけじゃない。
 死に方は様々だろうが、何にでもいつか必ず平等に死は訪れる。

 私の場合、人より早く死ぬかもしれない。
 悲惨な最期が待っているかもしれない。

 でもどうせ死ぬのなら。
 あなたの傍で逝きたい。





土か煙か食い物。あるいは、







「人は死んでしまえばそのまま土に還るか、焼かれて煙になるか、動物の食料となりますよね」

 私が窓の外を眺めながら発した突然の言葉に、窓に反射して見えたあなたは一瞬だけ目を丸くした。
 そしてすぐに微笑んで、「そうね」と答えた。

「自分はどうなると思いますか?
 どう自分の死体を処理されたいです?」

 明るい会話に繋がる可能性の極めて低い質問だった。
 通常の恋人同士なら話題にも上らないだろう。
 そんな問いかけにもあなたは静かに微笑んだ。

「あなたと一緒に土に還りたいわ。
 あなたと一緒に焼かれたい。
 あなたと一緒に食べられたい」

 ゆっくりと振り返ると、あなたと目が合った。
 決して揺るがない、強い瞳。

 今の答えが意味するのはやはり、死ぬ時は一緒だという事なんだろう。


 私達は時に気紛れに、『死』について話をした。
 何せ、いつも死と隣り合わせの仕事をしているのだから。
 考えても仕方ないが、考えずにはいられない。

 そんな時あなたは、
「あなたは私が守る。あなたをひとりで逝かせはしない」
 と宣言してみせた。
 私が志し半ばで倒れた時には私の意志を継いでくれると言うのに、それが済んだら私と共に消えたいと言うのだ。
 私はあなたを道連れにする気など一つもないのに。生き残っていてほしいのに。
 でもあなたはその強い瞳で、有無を言わせない。
 これだけは譲れないんだと言うように。

 私にも譲れないものがあった。
 私より先に、あなたを逝かせはしない。
 あなたを常に自分の傍に置いて、守り続けるんだと。
 そんな私の決意に、あなたは不思議な微笑を湛えるだけ。

 譲れないんだ、これだけは。
 だが守り続けたあなたは私の後を追うという。

 ああなんて滑稽だろう。
 あなたがそう言ってくれるのを、私は少なからず嬉しいと思っているのだ。
 守るという事など、互いの自己満足でしかない。


「…私も、あなたと一緒がいいです」


 とどのつまりは、ふたり一緒がいいんだ。




 どの選択肢を選んだとしても結局、最後の最後には土となり、同じ物質となる。

 共に土へ還るあなたと私。
 魂と呼ばれるものは、どこへ還るのだろう。

 非科学的な話だが。
 私の魂が還る場所は、あなたがいい。