First part     Sight      Food & Smile      Invitation      Decision
Waiting      Reason      Pieces      start
Interval     Monologe 桑原仁王切原
Second part     It's still early? 1      He'll obstruct it 1
    
 好きなヤツとは、できるだけ長くずっと一緒にいたいと思うだろ?
 そんで、カッコイイ自分を見て惚れ直してもらえたら、まさに一石二鳥だと思うワケ。

 だからさ、だから。


 こういうのはどう?





  Invitation





 と付き合うことになってから二日。
 まだお互いにはっきりと見えない、手探りの想いを、なんとか形にしたくて。
 この二日間、俺は暇さえあればにひたすら話しかけまくっていた。

 の趣味や、好きなもの、嫌いなもの、家族のこと。
 全部知りたくて、いい加減ウザがられるくらいまでに。

 一方の方は、以前と全然態度が変わんねぇ。
 無視されないだけいいけどさ。

 …俺たち、付き合ってるんですよね?

 ちょっと不安になってそう確認したら、


「そうだね」


 って無表情で一言。

 …その反応ってビミョーじゃねぇ?
 ならホホの一つくらい染めてみろっつの。

 でも、これがなりの照れ隠しなんだと思ってみたら、すっげー愛しく思えた。

 恋は盲目。
 俺は既に末期。
 たった二日なのに。


「なぁ…俺ってアホだと思う?」
「うん」


 間髪入れない返答。
 俺はアホです。

 少しヘコんでいると、は読んでいた本を静かに閉じて俺に言った。


「別にアホでもいいんじゃない?
 アホも貫けば、それでいいと思うよ」
「……」


 …それはさ。


「…アホな俺が好きってこと?」
「違う。アホだからって嫌いになりはしないって事」


 それもまた微妙な…

 あ、けどさ、これって…一応慰めてくれてんのかな? きっとそうだ。
 …優しいじゃん…やっぱ好きだ。

 俺はさ、こんな気持ちを、も俺に抱いてほしいと思うんだ。
 相手のふとした言葉や態度に、「ああ、好きだなあ」って思っちゃうような、そんな気持ちをさ。

 とりあえず今の時点でわかったことは、は俺がアホでも嫌いじゃないってことだな。
 …それもどうよ?

 いやいや! 嫌われてないだけいいぜ。
 これで実は嫌われてたりしたら…かなりツラい。
 でも、誰だって嫌いなヤツと付き合ったりしないよな。

 それだけが俺の支え…っていうかそれでいいのかよ!
 付き合ってるハズなのにまるで片想いじゃねーか!

 そんな一人ボケツッコミを頭の中で展開しながら、俺はふと思った。

 ――こんなアホなとこばっかり曝して、はたしては俺を好きになってくれるのか? つうか、「好き」って言ってもらえるようになるのか?

 答えは、否。

 ダメなんだ、俺だけ歩み寄っても。
 の方からも俺を見てもらわなきゃ。


 その時俺は、一つの答えを導き出した。

 俺にとっては非常に都合のいいことを。




















「な、今日これからヒマっ?」


 放課後。掃除も用事もないのでいつものようにさっさと帰ろうと鞄を持って立ち上がったの腕を、俺は咄嗟に掴んだ。

 うわ…細っせぇ…

 二日前のことを思い出す。
 この細い身体を抱き寄せて、キス、したんだよな…
 思い出して、ドキドキした。
 つうか…服越しに触れてるだけでも理性飛びそう…

 イカンイカンと首を振り雑念を払う。
 はそんな俺を、変質者でも見るような目で見ていた。

 …ち、違うッ!
 俺はただの健全な男子中学生だ!

 何が違うんだかわからないが、思わず心の中で言い訳してしまった。


「…何なの?」
「あ、や、だから…これからお暇はあるでしょうかね…?」
「何なの?って訊いたんだけど。何か用?」
「んー、えーっとな…」


 うわ、うわ…じっと俺を見てるよ…

 のこの目に俺は弱い。ウソなんか絶対につけねぇ。
 ウソつくつもりなんか毛頭ないけど、まるで裁かれてるような気分になる。
 それが嫌じゃなくて、もっと見ていてほしいと思う俺は相当ヤバいと思う。


「用がないなら帰るけど」
「あーっ! ちょっと待て!」
「待つから、何?」
「ぶぶ、部活!」
「部活?」
「そう、部活!
 テニス部の練習、見に来…てください…」
「……」


 は俺の頼みに不意をつかれたようで、少しきょとんとした。
 微妙な表情の変化だったけど、可愛いかも…とか、思った、り。

 …あの…返事がないぞ?


「ダメ…か?」
「…いいよ」


 …………


「…マジで?」
「断る理由もないし」


 ここだけの話、こんなにあっさりいくとは思わなかったぜ。
 今考えると、付き合う付き合わないの話をした時もよく巧くいったもんだよな。
 は別に来る者拒まずとか、軽いとかいうわけじゃないんだろうけど…俺はもしかしたらただラッキーだっただけなのかもしんねーな。
 『断る理由がなかった』から。
 だから逆に、『断る理由がない』今がチャンスなんだ。
 絶対に、俺にハメさせてやる!


「じゃ、行こーか!」
「何で手繋ぐの?」


 の手を握って何気なく歩き出そうとしたら、即座にツっこまれた。

 ぐっ…!
 バレたか…そりゃな。


「手ェ繋ぐの嫌?」
「…別に、いいけど」


 …こりゃまたあっさりだな。
 でもはちょっと溜め息ついたりなんかして……俺のことガキだと思ってる!?
 自分の解釈が間違ってないだろうと思えてちょっとショックだ。

 の手を引き、とぼとぼと廊下を過ぎ外へ出る。
 一月の寒さが身に凍みた。

 あー…こんな寒い日にも部活かよ。動きたくねー…
 でもな、今日ばかりはそうも言ってられねーよな。
 何と言っても、今日の俺の活躍如何が俺たちの今後を決めるかもしんねーんだからな。

 テニスコート前に着くと、既に来ていた後輩の赤也が一も二もなく俺たちに駆け寄ってきた。ニヤニヤしながら。
 …目ざといな、コイツ…


「ウイッス丸井先輩!」
「おー」
「先輩、その人が昨日言ってた例のカノジョ…?」


 とか俺に訊きながら、をジロジロ見てやがる。

 …あ、何か腹立つ。
 俺のを好奇の目で見てんじゃねーよこのモジャ。


「…後輩?」


 が無表情に赤也を見つめて言った。
 赤也はその一言にパッと表情を輝かせる。


「ども、一年の切原赤也っス!」
「ご丁寧にどうも」
「話に聴いた通り…美人っスねー…」


 赤也の一言に、は俺をちらと見た。
 こっえー…


「ブン太が何を言ったかは知らないけど、どうも」


 繋がれたの手に力がこもる。…痛い。
 何で褒められてんのに怒ってんの?
 わっかんねー…

 は繋いだ手をほどくと、身体を少し俺の方に向けて言う。


「…ブン太、着替えてきたら?」
「えっ?」
「その格好のまま部活するわけじゃないでしょ?」
「あー、うん」


 でもをここに置いてって、赤也と一緒にさせとくのは嫌だ。


「……来い、赤也」
「はっ!?」
「じゃあ、ちょっと待っててな」


 俺は有無を言わせず赤也の首根っこを掴んで部室へと引っ張っていく。
 ちなみに、赤也はもうジャージを着ていた。


「ちょっと先輩、何するんスか!?」
「うるせー」
「…男のヤキモチはみっともないっスよ」
「…黙れぃ」


 くっそ! だってこうするしかねーだろ?
 コイツは絶対にコナかける!
 男の勘がそう言ってる! 間違いねぇ!

 つーか俺、いきなりしくったか…?










 部室に着いて、赤也には俺が着替え終わるまで出んなよと念を押しておく。
 部室では先にジャッカルが着替えてて、俺らの会話を怪訝そうに聴いていた。


「…何かあったのか?」
「拉致られましたー」


 赤也が不機嫌に言い放つ。
 特に間違ってもいないので、俺は何も言わず着替えに専念した。


「…不穏に聞こえるのは俺の気の所為か?」
「丸井先輩がカノジョ連れてきたんだけど、自分が着替えてる間俺とカノジョを二人っきりにしときたくないからって俺を引っ張ってったんスよ」
「…おいブン太…」


 呆れた声出すなよ、ジャッカル。
 俺だって自分に呆れてんだぜ?
 でも俺のプライドよか、の方が大事だ。
 それだけのこと。


「ハイハイゴメンネ赤也クーン」
「うわすっげムカつくッ! もう俺戻るっスよ!」


 棒読みで謝った俺にご立腹の赤也クン。
 コラコラ、先輩に向かって「ムカつく」はねーだろ。

 ちょうど着替え終えた俺は、部室を出ていった赤也の後を追う。
 赤也、には近寄らせねーぞ!

 コート前に着いて赤也の姿を目に捕らえたが、事態はそれよりももっと大変なことになっていた。
 赤也の先にいる、の目の前にいる…


「に、ぉーうッ!!」


 仁王! あの野郎!
 何でお前がと話してるんだあ!
 お前の方が赤也なんぞより危険だこのペテン野郎!

 俺は「何故そのスピードを普段出さない?」と言われそうなまでのダッシュで赤也を追い抜かし、二人に駆け寄った。
 そして無意味に疲れてぜーはー言う俺を見て、はぽつりと言う。


「ブン太…早かったね」
「ホント、もっと遅くてもよかった」


 仁王がニヤッと笑った。
 なにおう!


「仁王…と何喋ってたんだよ…」
「世間話」
「初対面だろが」
「一年の時クラスが一緒だったんだよ」
「なっ…」


 …にぃ?
 そんな話聴いてねぇぞッ!


「まあそんなに話した事はなかったけど、お前がと付き合う事んなったって言ってたからさ。今さっき声かけたんだよ」
「……」
「んな怖い顔で睨みなさんなって」


 睨みたくもなるぜ。
 絶対コイツは、俺をからかう為にに手ェ出すに違いねぇ!
 コイツはそういう奴だ!


「仁王…」
「んー?」
「一つ、『死合い』とシャレ込もうじゃねーか」
「『試合』、な」


 俺らはどっちもダブルス向きのプレーヤーだけど、俺はシングルスだからって負けるとは思っちゃいねーぜ。
 恥かかせてやる!
 …俺と仁王の戦績、5戦2勝3敗なんだけどな。


!」
「ん?」
「俺の天才的妙技、しっかり見てろよ!」
「…うん、解かった」


 …? 、今日はすげー素直じゃねえ?
 や、「今日は」って言うほど長い付き合いなわけじゃないけど、俺が予想した反応はもっと冷ややか…じゃなくて冷めてるものだと思ってたのに。

 …ま、いっか。
 俺を見ててくれるんだから。

 軽いストレッチで身体をほぐして、俺と仁王はコートに立つ。
 無理矢理審判をやらせてる赤也のコールで試合が始まった。

 うん、大丈夫だ。
 俺はもう平常心を取り戻してる。
 集中もしてる。
 やっぱ、コートに立つのはいい。


 何もかも忘れて、

 目の前の相手を見据えて、

 ただボールを追いかけて、


 勝つことを考えるだけでいい。




















 最後のポイントを俺が決めて、ゲームセット。
 6−3で俺の勝ちだ。これで戦績6戦3勝3敗。

 ただ、すっげぇムカつく…
 仁王の奴、絶対手加減しやがった。
 わざとだろ!? ゼッテェわざとだろ!!

 俺が燃えてる時に限って手ェ抜きやがって…!
 だから俺はコイツが嫌いなんだ!

 タオルで汗を拭いながら、試合をずっと観ていたの方へ向かう。
 でも足取りは重かった。


「お疲れ様」
「…おう」
「勝ったのに浮かない顔だね」


 しょーがねーだろ、『勝たされた』んだから。
 だけどそんな不機嫌をいつまでも露わにするほど、俺はガキじゃねぇ。


「観てたか? 俺の勇姿」
「うん」
「どうだった?」
「……」


 は黙って俺を見つめる。

 そして、ふっ、と。
 小さく微笑んだ。


「すごかった。本当に強いんだね」
「っ…!」


 ヤバい、ヤバい!
 俺今、絶対真っ赤んなってる。
 そんで、何でか涙腺緩んでる。

 ああ、俺は…のこの笑顔が欲しかったんだ。
 それだけで、よかったんだ。


「…なあ、テニスに興味ある?」
「うん」
「マジで?」
「うん、興味ある」
「…じゃあ、さ…」


 この後の一言を言うのに、何でかすごい勇気と覚悟が要る気がした。

 だってよく考えてみろよ。
 俺はあの危険地帯にを投げ込もうとしてるんだぜ?
 でもだけど、とずっと一緒にいたい。俺が守ってやればいいとも思う。

 だからさ、だから。


「……マネージャー…やらない…?」
「…それはブン太の一存で決められるものなの?」
「俺たちはやる気のある人間を必要としてる。
 続けられるなら、それだけでいいんだ」


 は静かに俺を見つめていたが、やがて考えるように目を伏せた。

 少し俯いた顔。その目の下にかかる、長い睫毛の影に目を遣って。
 俺はの答えを待つ。

 大した間もなく、は顔を上げた。


「うん、やる」
「…ホントにっ?」
「うん」
「や…」
「ただし」


 ったあ! と続けようとした俺を遮って、は強く言った。


「やるからには、手抜きはしない。ブン太だけに構ったりしないからね」
「えっ!?」
「何が「えっ!?」なの? 当たり前でしょ」


 ラブラブ部活ライフを送れると思っていたのに…
 俺はの性格を計算のうちに入れてはいなかったようだ。

 そして…


「マジっスか!? 先輩マネージャーやるの!?」


 嬉しそうに笑うコイツ(赤也)と、


「よろしくなー」


 何かを企むような笑顔のコイツ(仁王)の存在が、厳しい現実を知らしめるように、俺に重くのしかかった。

 俺が「やっぱやめよう!」と言おうとしたら、はいつの間にどこかへ行こうとしていた。


「ど、どこ行くんだよ!」
「入部届、書いて提出しないと」
「がっ!」


 はもうやる気マンマンだ!
 こうなったらもう俺には止められねぇ!

 俺はひきつった笑いを浮かべ、いってらっしゃいとに手を振った。
 踵を返して去っていく

 危険地帯の地雷原に飛び込んだのは、俺の方かもしれない。

 うなだれる俺に、赤也と仁王が何も言わず笑顔で肩をぽんと叩いて去っていき、最後にジャッカルが「お前バカだな」とか言いながら慰めるように肩に手を置いた。

 俺がバカだなんてこと、俺が一番よくわかってるさあ!

 いい考えだと思ったのに、思ってたのに…


 俺はどうやら、早まったらしい。





to be continued…





********************

中書き
 はー…やっと終わった…
 これですね、最初に考えていたのと全然違ってしまいました。
 もっとシンプルに、行くはず、だったん、ですけど…ね。
 赤也が出てきた時点で流れは大きく変わってしまいました。
 何でか仁王くん出ちゃったし!口調よく解かんないのに!
 自分でもビックリです。キャラが一人歩きし過ぎです。
 ブンちゃん壊れ過ぎです。
 あ!説明が遅れましたが、この時点ではブン太は二年で三学期の話です(遅)
 とりあえず、これのヒロインsideも書けたらいいなぁと思っております。


 2004年2月4日


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