付き合って俺とはたしか結構長いけれど、
というのも、あんまり普通に隣にいるのでいつから付き合ってるかよく覚えてないのが正直なところだが、
とにかく、とうとう俺との間に亀裂が入ってしまった。

それも、よりによって俺の誕生日に!










Happy Birthday V  ☆・。゜・










別に俺はそんなに敏感とかそういうわけじゃないけれど、それでもがなんか
もじもじしてるときはなんか言いいたいことがあるんだってわかる。

「・・・〜・・・どうしたの?」

連休前の最後の昼休み、いつもどおり日の照る屋上で俺はのひざでうとうとしながら
できるだけさりげなくなんでもないように声をかけた。
「えっ!な、なになに!?どうしたの!?」
それでもやっぱりはびくっとしておろおろしだした。見てると面白いけれど、
かわいそうなので出来るだけ優しい声で話を聞きだそうと試みた。
「何か、俺に言いたいこととかあるんじゃない?」
「い、いい、たい、こと・・・?」
起き上がっての目を覗き込むと、ぱっとそらした。
「目、ちゃんと見てよ。」
「う・・・。」
のほっぺを両手ではさんで、むりやりこっちを向かせた。
近距離でじっと見つめると彼女は頬を紅くして、それから、
しばらくは頑張ったようだけれどすぐにギブアップして話し始めた。
「あ・・・あのね・・・私は、ほんとは行きたくなかったんだけど・・・。」
「うん?」
もじもじしたあと、重たい口をやっと開いた。
「家族で・・・旅行に行くの・・・。」
それを聞いて、俺はなんとなくが挙動不審になっている理由がわかった。
「・・・いつ?」
「う・・・え・・・とね、それがね・・・。」
「うん。」
「明日から・・・5日まで・・・。」

やっぱり!!

!!それ、その最後の日!何の日か知ってる!?」
頬をはさんでいた手は今度は彼女の細い肩をわしづかみにして食いかかるように俺は言った。
「知ってる!!知ってるよー!!だから私、行かないって言ったんだけど・・・でも・・・でも・・・!」
も必死になって訴えた。俺は正直全然納得いかなくてもう
のうちに直談判に行こうかとまで思ったけれど、の必死な潤んだ目を見たら、
はっと我に返って肩を強く掴んでいた手を離した。
「・・・ごめんね〜、仕方ないよね・・・。」
「ううん、私こそごめんね・・・も、もっかい頼んでみるから!」
「いいよいいよ〜、せっかくなんだから楽しんできなよ〜。」
俺は頑張って笑ったけれど、やっぱりちょっとがっかり。もなんだか目に見えてしょんぼりしているから
なんだか気まずくなっちゃってそのあとはあんまり喋らないままに昼休みがおわってしまった。

初めての誕生日は、は俺の誕生日を知らなかったけれど、一緒にいた。
二回目は、がすげー張り切っちゃって大変だったけど、とにかく一緒にべったりしてた。
もちろんの誕生日もそう。やっぱり誕生日ってのはなんだかんだいって特別で、
いつもそうだけどそれよりもっとと一緒にいたいって気持ちが強くなる。し、その思いのとおりにしてきた。
だから今日のの発言は俺にとってすごい衝撃だ。
『そんなに毎年派手に祝わなくていーよ』なんて照れ隠しに言ったりしていたけれど、
実際そうなるとやっぱりしょんぼりしてしまう。
祝って欲しい!プレゼントがほしい!とかそういうことじゃなくて、
と一緒にいられないことがすごくショックだ。
「(あーあ・・・。今年はいないのかあ〜・・・。)」
午後の授業も寝るわけでもなくそんなことばっかり思っては肩を落としていた。
誕生日だからって何があるわけでもないけれど、それでもなんだか特別なかんじがする。
いつも一緒にいたいけれど、きっと6日になれば会えるけど、それでもやっぱり5日に、
俺の誕生日、そばにいてほしいなって。
そう思うのは俺のわがままなんかなぁ・・・。



「あれぇ、お兄ちゃんどうしてこんな時間まで寝てるの〜?」
部屋のドアがあいていたらしい。妹がドアの隙間からひょっこり顔を出して声をかけてきた。
俺といったら普通の何の予定もない休日と同じように午後の2時をまわった今も布団の中。
妹の声でぼんやり目が覚めて布団から顔を覗かせる。
「んん〜?なーんにも予定ないから寝てるのー。」
部活もないし、跡部たち部活の仲間は、俺が当日はとすごすって思ってるから
誕生日会は昨日やってくれた。しかし、今日とはあえないので俺にはなんの予定もないわけだ。
そう言うと妹は、ちょこちょこっと俺の部屋の中にやってきて、俺の寝ている隣までやってきた。
それから少し心配そうな顔をして、首を斜めにして、
「お兄ちゃん、ちゃんにふられちゃったのー?」
と言った。
『ふられちゃったのー?』というその言葉は俺にものすごいダメージを与えた。
ショックで目の前暗くなって、痛い言葉が何回か頭の中エコーして、
それからしばらくしてはっとして、心配そうな顔をした妹に精一杯笑って
「ううん、違うよ〜。用事があって今日は会えないんだって。」
と取り繕った。
「そうなんだ〜。お兄ちゃんかわいそう。ちゃんが帰ってくるまで私がお祝いしてあげるね。」
そう言うと小さい妹は小さな手で俺の頭をくしゃくしゃ撫でておめでとうーと言ってくれた。
起き上がって、幼い妹をぎゅーっとして、ありがとうーと言って頭を撫でた。
解放してやると妹はそれからぱたぱたとドアを出ていってしまった。

「(ふられちゃったのー、か〜・・・。)」
ベッドの上であぐらをかいて、苦笑してしまった。何気ない一言がものすごい大ダメージだ。
でもそんなようなもんなのかなぁ。そりゃあ俺たちはまだ子供だし、家族とのお出かけのほうが大事だっていうのはわかる。
でも、それでも・・・一緒にいてほしかった。
「実は俺と会いたくなくてそーいう嘘ついてたとかだったりして・・・。」
あはは、とくだらない独り言を言ってしまってから、あんまり笑えないことだと気づいた。
去年はあれだけ大騒ぎしてたのに、家族で出かけるからってなんかあっさりしすぎじゃないか?
去年、こういうことになってたらどうしただろう。去年のだったら、
どうやってでも無理やり俺と一緒にいてくれたんじゃないかな。
もしかして他に好きな奴できたとか?少しずつ距離おこうとしてるとか?
実は、そのほかの奴に会うために家族旅行口実にしたとか?
考え出したら嫌な妄想はきりがなくて、もやもやして苦しくなってきた。
「まず最悪の事態を想定する」なんてたしか忍足あたりが言ってた気がするんだけど、
俺は先のこととかこれからどうなるかとか何にも考えないタイプだから
そう言った忍足のこと心配性な奴だなーなんて思っていたけど今の俺はまさにそれだ。
悪いことばっかり頭の中ぐるぐるする。が他の奴のことすきになっちゃうんじゃないかとか、
俺から離れていっちゃうんじゃないかとか。

「(うわっ、やだやだ絶対やだ!)」
最悪な事態を想像して俺は頭をふった。ものすごく嫌な気分!下手したら涙まで出てきそう。
自分でマイナス思考だなーとか、女々しいなぁとかって自己嫌悪に陥る。
最悪な誕生日。がいないだけでこんなに違うなんて。
さみしくって、嫌なことばっか考えちゃって、自分のことも嫌んなる。
「(あーもうだめだ。寝よう。)」
これ以上考えていたら頭がおかしくなっちゃう気がして、俺はがばっと布団をかぶって
目をぎゅっと瞑って、もう一度夢の中に逃げ込もうとした。




次に目が覚めたときには部屋の中は真っ赤になっていた。
「あれ・・・もう夕方・・・。」
不貞寝して目覚めてもうこんな時間。あとは夕飯を食べて、家族にお誕生日のお祝いしてもらって、
それで寝るだけ。
「・・・なんか最悪。」
目が覚めたら覚めたでさっきの嫌な想像がまたもやもやっと頭の中を覆いだして
気分は最悪。夕飯になるまでまた寝ようかなんて考え出していたところで、携帯が鳴った。
「・・・めんどくせ・・・誰・・・。」
震える携帯を開くと、液晶画面に映し出されたのは、
俺が今、会いたくて会いたくてしかたのない子の名前。
「もしもし!!」
嫌な想像も眠気もその名前を見た瞬間にふっとんで、俺はかみつくような勢いで電話に出た。
「ジロー?もしもしだよ!」
「う、うん!どうしたの?」
なんだかもう何年ぶりかに聞いたような気がするの声。嬉しくてたまらないけれど、
どうにかおちつかなきゃと思って声をおさえようとする。
「あのね、今、そっち向かってるから、あ、ええと、今忙しい?」
「え?なになに?」
もなんだかあわてているようで、俺も嬉しすぎてうろたえててよくわからなくて聞き返した。
「あのね、早めに帰ってくることになったの!今、そっち向かってるの。それで、
 ジローが今、忙しくなかったら・・・。」
「うん。」
「会いたいな・・・って・・・。」
遠慮するようなそんな声ではそう言った。

俺がなんて言ったか、そんなことわざわざ言わなくたってわかるよね。




「ジロー。」

いつもは跡部に頭叩かれて怒られるくらいのろのろ歩く俺だけど、今日は
走りたい気持ちをおさえて早足で、だからもちろんよりずっとはやく待ち合わせの場所についた。
初めてと一緒に俺の誕生日をすごした、あの公園。

はあわてて走ってきたんだろう、少しほっぺを紅くして、俺の前までくると一息ついて
呼吸を整えようとしたけどまだ息苦しそうだった。
「座って。」
俺は、自分の隣、まだほんのりあたたかいベンチをぱしぱしと叩いて促した。
はこくん、とうなずいて俺の隣に座った。

「ジロー、あの、あのね・・・。」
「うん。」
一生懸命喋ろうとするの目をまっすぐに見て俺は頷いた。
「お母さんに頼んで、早めに帰ることにしてもらったの。でね、」
「うん。」
「ほんとは、ケーキつくりたかったんだけど、やっぱり間に合わなくて・・・。」
「うん。」
一生懸命だったから、最後までちゃんと話聞こうと思ったけど、でも、我慢できなかった。

肩を引き寄せて、それから両手いっぱいを包み込んで、そのままぎゅうっと抱きしめた。

「ジロー?」
肩と、腰に腕を回して、それからの狭い肩に顔を埋めた。
まきつけるように俺が腕をまわしたからは身動きをとれないようで、
それでもそっと手を俺の足に置いてくれた。

「(、ごめん、ごめん、ごめん。)」

心の中で何度も謝った。
はこんなに俺のこと想ってくれているのに。
旅行も早めに切り上げてきてくれたのに。
息切らして走ってきてくれたのに。

俺は、のこと疑ってた。
断る口実じゃないか、とか、ほんとは他の奴と一緒にいるんじゃないか、とか。

「(すきすぎてどうしうようもなくて、今のこの、とつきあってる状況が幸せすぎて、
 これ以上の幸せがないならこの幸せの行き先は続くか終わるかのどちらかしかないから。)」

恋って、キレイな感情だけでできているものだって、なんとなく思ってた。と付き合う前は。
恋人同士がお互いにすきあってて、思いやって、幸せでとてもキレイな感情。

でも、ほんとにほんとにすきになると、それだけじゃないんだ。

「(のことすきすぎて、やなことまで考えちゃう。
  のこと疑っちゃう。)」

それはなんて醜い感情。


「ジロー・・・今日、もうすぐ終わっちゃうね。)」

「うん・・・。」

抱きしめたまま、つぶやくようにそう答えた。
頭の中にぐるぐるする感情。キレイってだけじゃない、
汚い嫌な、醜い感情までまざりあった、『をすきだ』っていう気持ち。

「一日中、一緒にいられなくってごめんね・・・。」

「・・・ううん、そんなの、全然いい。」

かまわない。今、ここにがいてくれるんだから。

の体はまだ俺に拘束されていて、身動きは取れない。
けど、唯一うごくその右手が、俺のズボンの腿のあたりをきゅっと掴んだ。

「ジロー、おめでとう。・・・だいすき。」


かすれたその声に、胸がぎゅうっと苦しくなって、目頭が熱くなって、息が出来ないような。

「・・・ありがと〜。」

「お祝い、明日ちゃんとしようね。」

「・・・うん。」

嬉しくて、どうしようもなくって、悲しいときにも似た、この感情。

、・・・。だいすき。すっげーすき。」

「私も、ジローのこと、だいすきだよ?」

「うん。・・・大好き。」

だいすきだ。

何回も言ったから、はくすぐったそうな声で、そんなに何回も言わなくてもわかってるよ、って言った。
俺だってわかってるよ。でも、それでも言いたいんだ。何回でも。



のことをすきだって思うこの気持ちは、
たしかにキレイな感情でばかり出来ているわけではないけれど。
(やきもちやいたりうたがったり見境なくなったり、そんな、嫌な気持ちだって
 たくさんたくさん、あるんだけど。)
それでも。

がいるだけで、一日の色が180度変わったり
優しい気持ちになったり、自然と笑顔になったり、胸が苦しくなったり。
それはきっと、


「毎年言ってる、ってか、思ってるんだけどね。」
「うん?」
ぎゅっと、今よりもっと強く抱きしめた。
自然とこぼれる笑顔。優しい気持ち。
「なーんにもなくたって、がいてくれるだけで、俺にとっては最高の誕生日なんだよ。」
「ええ?・・・うん、あ、ありがとう。」
恥ずかしそうな声ではそう言って笑った。

「来年も、一緒にいてね〜。」
顔をあげて、にーっと笑ってそう言った。
のほっぺは紅かった。夕日はとっくに落ちていたけれど。
俺を見つめるその顔は、とても優しい笑顔だった。
「うん。・・・約束ね。」

ふわっとした頬に、掠めるようなキスをして、それから後ろ頭の髪の間に手をいれて
深く口付けた。やわらかい唇を割って最奥まで優しく犯した。

頭の奥がしびれるような、そのまま夢の中へ連れて行かれるような感覚。


「(・・・。だいすきだ。)」



どんなに醜くても、自分勝手で、人を傷つけたとしても。
そんな感情もすべてひっくるめた、を愛おしく思うこの気持ちは。
俺の中では、




せかいでいちばん綺麗な感情。














20060505. Happy Birthday Dear Jiroh.














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管理人感想

 話が04年からちゃんと繋がってて慈郎がヒロイン好きすぎてもやもやしててもう大好きです。
 でももしかしたら一番萌えたのは慈郎妹ちゃんの愛らしさかもしれません…!可愛すぎます。
 素敵な夢をありがとうございました!

 璃桜様のサイト『* accarezzando *』へ


 2006年5月30日


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