向かう先は、学校。きっと、そこにいるはず。


私、気付いたんだ。
今すぐに、伝えたい。


ジローに。









大きなケーキ。ジローのお母さんの作るお菓子はとってもおいしくて、
ジローのお誕生日には特別大きくておいしいケーキを毎年焼いてくれる。

ジローは私の隣で、嬉しそうな顔でケーキを頬張る。

私はまだ、ケーキには手をつけない。
後ろに隠したプレゼント。それを渡してから。

『ジロー。』

『なにー?』

隠したプレゼントをさっと差し出す。
それは、今になって考えたら、がらくた以外のなにものでもない
不恰好な手作りのプレゼント。

『お誕生日おめでとう!』


ケーキのお皿を置いて、わぁ、と声をあげて、ゆっくりと手を差し出すジロー。
私は、差し出された手にそれを持たせて、照れたように笑う。

するとジローは、本当に嬉しそうな顔をして、にっこり微笑んで

『ありがとう、!』

って言うんだ。








学校に着いた。
今日は多分、部活があるはず。

テニスコートにいたら近づけそうにもないな、と思いながら、
それならどうしよう、と考えなしに走ってしまったことを少しだけ後悔した。

「(ジローが普段どこにいるかなんて、わかんない・・・。)」

ジローはいつもどうしてた?
一緒にいた頃を思い出す。そう、あれは、いつだったかしら。
チャイムが鳴ってもジローが教室にいなくてクラスみんなで探したことがあった。

そのとき、ジローは・・・。





「・・・いた。」

そう、校舎裏の、木がたくさんあるところ。
そこの、一番日があたるところで気持ちよさそうに眠ってたんだ。



中等部にも似たような場所がある。テニスコートの裏のところ。

予想通り、ジローはそこの陽だまりの中の、大きな木の根元を枕にして眠っていた。


言おう。私の思ったこと。
ジローに言いたいこと。

だけど・・・。


「・・・今更、もう遅い・・・かな・・・。」

こうしてジローを目の前にするとなんだかとても不安になってきて、
もう、気が変わってしまったんじゃないかとか、そんなことを思い始めてしまう。
ジローを目の前にして、私はそのまま声をかけようかそのまま帰ってしまおうかと
考え始めていた。


「また逃げちゃうの?」


「!」

ジローの目がぱっちり開いて、私のことを見上げた。
私は驚いて、少し後ずさった。

「どうしたの。。」

「ん、んん・・・。」

何て切り出そう。言葉に詰まっていると、ジローは手招きをして。
「こっち。座って。」と言った。
私は、ジローの目の前に、足をぺたんとして座った。
木の影の中に見えるジローの表情はとても優しげだった。

「何か、俺に言うことあって来たんでしょ。」






びっくりした。
人の気配がしたから、樺地がまた俺を起こしに来たんかと思った。
だけど、聞こえた声は。

「(!だ。)」

どうしてかわからないけど。でもがここにいる。
そんで、なんかきっと俺に言おうとしてるんだ。


期待しても、いい?
だって今日は俺の誕生日だよ。
何かいいことがあったって、いいと思うんだ。


「何か、俺に言うことあって来たんでしょ。」


神様、どうか。そうでありますように。
の口から、「違うよ」って言葉が出てきませんように。






「・・・私、わかったの。」

ジローの目をまっすぐに見つめて、自分の口にした言葉を
確認するように、ゆっくりとそう言った。

ジローは何も言わずに、ただ黙って私を見つめ返している。


「中等部に入って・・・一緒に帰らなくなったでしょ、
 えっと・・・約束してないし、ジローはクラスの友達と帰ると思ったから。」

「うん。」

「それで・・・ジロー部活入ったし、クラス違うし、全然会わなくなって。」

「うん。」

「それで・・・それで、私、なんか・・・弟が・・・自立しちゃったーみたいな
 かんじで、それで、寂しいのかなって思ってたの。」


は、目線を落として、自分自身で言った言葉で
今までのことを確認しているようだった。俺はうん、うんとだけ言って、黙って聞いていた。


「俺と会えなくて、は、寂しかったの?」

どきどきして、ゆっくりした口調で、できるだけ優しく聞いた。
ここが一番、肝心なところなんだ。

「・・・うん。寂しかった。」


「寂しくて、他の子と仲良くしてるのがなんか嫌で、それで・・・。」


「うん。」



「私、ジローと一緒にいたいと思った。
 前みたいに仲良くして、一緒にいたいと思ったの。」


あぁ、、本当?


俺は、腕を伸ばして、の肩をゆっくり自分の体に引き寄せた。

「・・・、ほんと?俺と一緒にいたいの?」

「うん。・・・それでね、私。」



「ジローのこと、すきなんだって気付いた。」



が、俺の腕の中で下を向いたのが分かった。
俺は、胸がどきどきして、ぎゅっと、強いちからでを抱きしめた。


は今、たしかに俺と一緒にいたいって言った。
俺のことが、すきだって言ってくれた。



俺たち、また一緒にいれるんだ。



「・・・それじゃあ、は俺と一緒にいてくれるの。」

「うん。」




あぁ、この言葉が、ずっと欲しかった。




「・・・すげー・・・すげぇ嬉しい・・・。」









誕生日は毎年、俺の母さんがおっきなケーキを焼いて、をうちに呼んだ。
いつもは俺の前を歩くが、誕生日だけは絶対に、俺のうしろを歩くんだ。

、一緒にケーキ食べよ。』

『うん!』

は元気に返事をして、それなのに、
ケーキの皿が目の前に来てもケーキを食べないんだ。

、食べないの?』

『ん?食べるよ!』

ほんとは俺、知ってたよ。
が、俺のためにプレゼントを大分前から用意してくれてること。
そして、それを今、後ろにかくしていること。


『ジロー!お誕生日おめでとう!』

それは、他の奴から見たらがらくたって言われるかもしれない。
でも、それは、俺にとっては何よりも大切なもの。

『わぁ・・・ありがとう!』

お礼を言ってあとに、が見せる照れた笑顔が大好きだった。
嬉しそうな、はにかんだ可愛い笑顔。それも、俺にとってはプレゼントの一つだったんだ。

今でも、からもらったものは全部、大事にとってある。
もらったものも、の笑顔も。






「ジロー、・・・お誕生日だけど、私、・・・プレゼントないや。」

腕を緩めると、は顔をあげて困ったような悲しい顔でそう言った。


「もう、もらった。」

「?」


が、一緒にいてくれるって、・・・俺のことすきって言ってくれたでしょ。
 だから俺、それで十分。」


一番ほしかったもの。
がくれるものが、俺の一番ほしいもの。
が、俺の一番ほしかったもの。


「でも、そんなんじゃ・・・。」

「それじゃあ、笑って。」

「わ、わらう・・・の?」

「うん、笑って。」


もう一度。記憶の中に、またひとつの笑顔がほしいんだ。


「・・・そんなの、プレゼントにもならないよ。」



ふふ、と小さく笑った笑顔は、
俺の記憶の中の笑顔よりもずっと大人っぽく、綺麗になっていた。

これからは、その笑顔も、俺のもの。




「ジロー、お誕生日、おめでとう。」









今でも、からもらったものは全部、大事にとってある。
もらったものも、の笑顔も。

今日もらったものだって、これからも、ずっとずっと。













2005.5.5












ジロおめでとうおめでとう!
神様許斐先生ジローのお母さんあんな可愛い天使を
この世に産み落としてくれて本当にありがとう!!
去年のジロ誕も同じようなことを言っていたような気がします。
一年たっても変わらぬ思い、ジローのことが大好きです。
実は正直に言うと途中でなんだか自分で
わけわかんなくなっちゃったんだけど(最低)
でもジローがしあわせになればそれでいいやと思って
それで勢いで書きました微妙なおわりでごめんなさい
とにかくジローの誕生日を祝えて(祝えてるかは定かでないが)
良かった!ジローおめでとう!
来年もこうやってジローの誕生日に大騒ぎして
祝えるといいな!


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管理人感想

 私も便乗して慈郎おめでとうおめでとう!ありがとう許斐先生!と言いたい。
 でもこんな素敵な夢を見させてくれた璃桜様にもありがとうと言いたいです!本当に素敵です。
 冒頭の「私がいなくちゃだめな子だった」ってフレーズにどきりとしました。

 璃桜様のサイト『* accarezzando *』へ


 2005年5月20日


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