あのとき、急にジローが現れてびっくりした。最近はジローに驚かされてばっかりだ。


委員会が遅くまでかかって、それが終わってから教室に
数学の教科書を忘れていたことに気付いて教室に戻る途中だった。

『(・・・あ、あいつらだ・・・。)』

向こう側から歩いてくるのは、休み時間になるといっつも
ジローの周りに集ってくる奴ら。
私は嫌な奴らに会っちゃったな、と廊下の隅のほうに身体を寄せて
下を向いて歩いた。

『跡部くんマジかっこいい〜・・・。』
『でもうちら怒られたじゃん。もう無理だってぇ。』
『それにあと、ちょっとじゃね?』

跡部くん?こいつらジローが好きなんじゃなかったの?
だんだん近づくにつれ聞こえた声。

『あんたが一番いいかんじだよね!』
『まじ?やった!』

『跡部君は落とせそうにないけど、芥川くんならあとちょっとでいけるかも!』

『あーあ、それじゃーY香と芥川くんがつきあったらうちらどーする?
 次、宍戸くんあたり狙おっか!』




なにそれ。


かっ、と顔が熱くなった。おなかのそこの方が、息苦しくなるかんじ。

それじゃあ、あいつらにとってジローは跡部くんの代わり?


『ちょっと!今のもっかい言ってみろよ!』

気がついたら振り返って腕を伸ばし、あははは、と笑っていた
後ろからシャツの袖を強く握っていた。




だって、気に入らなかったの。
ジローは、ジローなのに。

そんな、『跡部くんの代わり』でジローのこと独占しようとしてたの?
そんなの、許せない。

私は、誰の代わりとかじゃなくて、ジローのこと・・・


ジローのこと、が。








「・・・あ。」

ぱち、と目を開けたら、いつもと同じ天井。

「・・・・・・。ここんとこ毎日じゃん・・・。」

いつも同じ夢。連休に入ってから。
いつも同じところまで考えて目が覚める。


私、ジローのことが・・・。




ー!起きて!もういつまで寝てるの!!」

「!!」

一階からl聞こえるお母さんの甲高い声にびくっとして慌ててベッドから降りる。
「ね、寝てないよ!起きてたよ!」

「そうなの?起きてるなら早く降りてきて!
 今日クローゼットの掃除するの手伝ってって言ったでしょ!」

そうだった・・・。
久々の連休、ゴールデンウィークの最終日。
お母さんはクローゼットの中を掃除すると休み前から
何度も繰り返していた。

「あーあ・・・めんどくさい・・・。」

私は動きやすそうな服に着替えてのろのろと階段を下りた。

「手伝ってって言ってたのに!ほら、ここにおいてあるの
この箱に全部入るように綺麗に入れて!」

「う、っわ何これ・・・。」

下に降りるとクローゼットの周辺は、よくこの中にこれだけのものがって
いうくらいたくさんのものが積み重なり、ばら撒かれていた。

「あーあぁ。これは時間かかるなぁ・・・。」
「お母さんもこの中拭いたら手伝うから!」
「はぁい・・・。」

その場にしゃがみ込んで、とりあえず楽そうなのを・・・と探しているとき
私はアルバムを見つけた。

「わぁ懐かしい!」
「ちょっと!そんなの見だしたら止まらないでしょう!」

お母さんがクローゼットから顔をだしてそう言ったときには
もう遅く、私は止まらなくなっていた。





分厚くて、たくさんあるアルバム。
次々とページを捲る。

幼稚舎のとき、小等部のとき。
どのページを捲っても、ほとんどのページにジローがいた。
どのページにも、どの思い出にも、ジローと私は一緒にいた。


あぁ、私たち、こんなにいつもいつも、一緒にいたのに。


今、どうして私たちは一緒にいない?




『私、ジローのこと、が。』


ふ、とさっきの夢の最後が頭に浮かんだ。

私、ジローのことが何だって言うんだろう。
ジローは、私のことが、すきだと言った。
だけど私は・・・。


「あら、懐かしいわね!」
お母さんの声が耳元で聞こえてはっとした。
お母さんはいつのまにか私の隣に並んでいて一緒にアルバムを覗き込んでいた。

「小等部のときまでは、毎年お祝いしてたのにねぇ。」
目線をアルバムに戻すと、そこには、ある年のジローの誕生日会を写したものだった。

大きなケーキの前に並んでいる小さい頃のジローと私。
写真の中の私とジローは楽しそうにはしゃいでいる。

「あんた、ほんとに全然喋らないの?
 おめでとうくらい言えばいいのに。今日ジローくんの誕生日じゃない。」



そんなの、知ってる。忘れるわけないよ。

幼稚舎のときから小等部最後の年までずっと、何をあげたかまで覚えている。
毎年毎年、ずーっと前からジローの誕生日に何をあげようかって考えてた。
自分の誕生日よりも、ジローの誕生日のほうが楽しみだった。

私のあげたプレゼントを見て、喜ぶジローを見るのが大好きだった。



「?、どうしたの?」



私、やっとわかった。




「おかあさん、ごめん、私ちょっと出かけてくる。」

立ち上がって、階段を上る。
「ちょっと!あんたほとんど何もしてないじゃない・・・。」
制服に着替えて、何ももたずにまた階段を下りる。

「帰って来たら手伝うから。」


ドアを開けたら眩しい光が目をさした。手をかざしてそのまま走り出す。

やっと、答えが出た。








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