誕生日プレゼントは、その日に貰わなきゃ意味がない。













  プレゼント













  「なぁなぁ姉ちゃん!俺の枕どこいった〜?」
  「えぇ何?枕ぁ?」
  
  私がめっずらしく机に向かって勉強していると、急にドアがばんと開いた。
  私はいつものこと、と特に驚きもせずに椅子をくるんとさせて振り向くと、
  ジローは私の部屋中をきょろきょろと見渡していた。

  「そう!さっきリビングで昼寝したときにはあったんだけどさー
   起きたらなくなってんの!もしかしたら姉ちゃんがもってったのかなーって・・・。」
  「そんなわけないでしょ!なんで私がジロの枕なんか持ってかなきゃならないの!
   ってゆうか、今起きたところなんだから枕なんかいらないでしょ?
   きっとすぐ出てくるから、ほら出てった出てった!」
  私は、わけのわからないことを言って私のベットに手を伸ばそうとしたジローを部屋から
  追い出そうとその背中をぐいぐいと押した。
  「だぁめ!今すぐいるの!明日から合宿で枕持ってくんだもん!」
  ジローは口を尖らせてそう言うと、私が押すのに逆らってまた私のベッドのほうに
  向かっていった。

  合宿・・・?
  「合宿って?何の合宿?」
  布団をめくって枕をどかしたり元に戻したりして、私のベッドを荒らし始めたジローの
  背中に聞くと、ジローはうれしそうに振り返って
  「テニス部の合宿だよ!明日からゴールデンウィークだろ?
   その間跡部んちの別荘で合宿すんの!」
  すっげぇうまい料理とか出るんだぜ!と嬉しそうに言うジローに、
  私はそういえば明日から休みだったんだわ、と思い出した。

  「ジロー、!夕飯の支度の手伝いしてー!!」
  「あっ、はーい!今行くー!」
  「やっぱねぇか〜、絶対姉ちゃんが持ってると思ったのに・・・。ふぁ・・・。」
  「お母さんが片付けたんだよきっと!ほら、ジローも下、行くよ!」
  階下から呼びかける母の声と夕飯のいい匂いに誘われて、
  私はまた眠りにつこうとしていたジローの手をひっぱって一階のリビングへと向かった。



  私の名前は芥川
  ジローは私より二つ下の弟。テニスの名門氷帝学園テニス部のレギュラーで、私の自慢です。
  芥川家には、私とジローと、あと兄と妹がいるんだけど
  兄は東京の大学に進学してて家を空けてるし、
  妹は聖ルドルフ学園の寮に入っててなかなか家に帰ってこない。
  だから四人兄弟、ちゃんと家にいるのは私とジローだけ。
  しかも実ののことを言うと、私はこの家の本当の娘ではありません。
  今の私のお父さんが、私の本当のお父さんの弟で、
  死んでるわけじゃないんだけどお父さんがまた世界中ふらふらする仕事をしていて、
  お母さんもそれについていくとすると、私も世界を転々としなきゃいけないわけで・・・
  中学生になってそれじゃいけないってことで、私は中学に入学すると同時にこの家に
  預けられることになりました。
  なんか難しくてよくわからないけど、
  とにかく今私は戸籍上では芥川の姓を名乗ることになっています。
  幸い、今のお母さんと私の本当のお母さんは友達で、今のお母さんとも
  昔から仲がよかったから、今はすごく幸せです。
  「お母さん」て呼ぶのももう慣れたし、お母さんも私の本当の娘のように可愛がってくれるし!




  「ジロー、明日の準備はできたの?」
  夕飯は、今日はお父さんの帰りが遅いので私とお母さんとジローの三人。
  聞かれると、ジローは口をむぐむぐさせながら答えた。
  「おう!もうほとんどばっちり!あと枕入れればいいんだけどさー・・・。」
  「枕なんか持ってくつもりなの?
    あなたいつでもどこでも寝れるんだから、そんなのいらないわよ。ねぇ?」
  「思った思った!ってゆうか聞いてよ!ジロー私が枕持ってるかもって、
   私のベッドすっごい荒らして・・・。」
  「ジロー!あんた今日部活から帰ってきてまだお風呂入ってないじゃない!
   のベッドそんな汚い体で乗っかったの!?」
  「だぁって・・・。」
  ジローはぶぅと口を尖らせた。
  
  ジローは本当に可愛くて、私はジローのお姉さんになれてほんとに良かったと思う。
  最初、子供ながら自分と二つしか年の離れていない他人の男の子と
  同じ家に住むなんて・・・!(このときにはもうお兄さんは東京に行ってたから)
  と思ってたんだけど、こんなに可愛い子ですごく安心した!
  中学三年になった今もすっごく可愛いし、テニスはうまいし、
  ほんとにジローは私の自慢!

  「そういえば、合宿ゴールデンウィーク中って言うと、
   ジローの誕生日うちで祝えないわねぇ。」
  「えっ?最後の日だから帰ってくるんじゃないの?」
  そう、ゴールデンウィークといったらジローのお誕生日。
  私は、毎年ジローのために誕生日ケーキを焼くのが楽しみの一つ。
  「それがさー跡部が学校にお願いしてテニス部レギュラーだけ6日も
   学校休んでいいんだって。だから帰ってくるのは6日の夕方なの。」
  ハンバーグを頬張りながら、ジローはいつもと変わらない様子でそう言った。
  そうだ、ジローももう三年生。部活も今年で最後だから、三年生は張り切るに違いない。
  「そうなのー、じゃあジローの誕生日会はゴールデンウィーク明けのお休みね。」
  お母さんが残念そうに言った。
  
  そうかぁ、今年はジローの誕生日、一緒に過ごせないのか・・・。
  去年までは合宿はあっても5日にはすでに終わっていて、
  ジローのお友達が誕生会を開いてくれてもジロは必ず夕飯には帰ってきたから
  一緒に誕生日を祝えたのに・・・。
  じゃあ、今年は5日にケーキを作らなくてもいいのね・・・。

  
  少し、というよりかなり残念な気持ちで、私は今年のゴールデンウィークを迎えた。

  じゃあジローもいないことだし、お母さんと一緒に買い物でも行きましょうか、
  と、お母さんは長い休みの間いろんなところに連れて行ってくれて、
  とっても楽しかった。
  ジローがいたら、服とか買いに行っても退屈だからってどこででも寝ちゃって
  ゆっくり見れなかったけど、この休みは本当に楽しかった。
  でも・・・。


  




  「あーぁ、ジローがいないとつまんないなぁ・・・。」
  5日の夜、柄にもなく独り言をつぶやいてしまった。
  寝てるときはいいけど起きてると騒がしすぎるあの子がいないのは、
  最初は静かでいいかもと思っていたけど、3日もするともう寂しくて仕方がない。

  ふと時計を見ると、もう11時。
  ジローの誕生日の5日も、あと1時間で終わってしまう。

  一緒にいるのが当たり前になっていた。
  ジローはこの年の子にしてはよく家にいる子ほうで、寝ていないときはだいたい私にちょっかいをだしてきた。

  「(私、依存症かなぁ・・・。)」
  
  いつもそばにいるあの子がいないのがたまらなく寂しい。
  しかも、今日はジローの誕生日なのに・・・。

  こんなことを考えて、私はこの調子じゃしばらくは彼氏はできないな、と思った。
  ジローのそばにいるほうが楽しいんだもん。




  そんなことを考えながら、明日の授業の準備ももう済んだ。
  もう12時少し前。そろそろ寝ないと明日起きれない。


  あぁ、もう今日は終わっちゃうのね。
  ジローに一言、『おめでとう』って言ってあげたかったなぁ・・・。
  
  


  布団に足まで入れて、電気を消そうとしたそのとき。

  「コンコン。」
  「!?」
  
  今、たしかに音がした。
  何・・・!?泥棒!?空き巣・・・!?
  
  背筋がひやりとして、どうしよう、お父さんはもう帰ってたかしらと思っていると、
  また音がする。

  「コンコンコンコン。」

  ・・・・・・!!
  どうやら、誰かが窓を叩いているらしい。
  怖い!怖いよジロー助けて・・・!!

  布団をぎゅうっと抱きしめてその場に固まっていると、携帯が鳴り出す。
  誰?その音にも驚きながら震える手で見てみると、それはジローからだった。

  「も、もしもし!?ジローあのね・・・!!」
  今の状況を説明しようとすると、それはすぐにさえぎられた。
  「姉ちゃん、あ、開けて・・・!」

  !?もしかして・・・。

  カーテンを開けると、部屋の窓の淵に片手をかけ、
  隣の木に足ともう片方の手を預けているという、かなり無理矢理な
  格好でつらそうな顔をしているジローがいた。

  「・・・へへ、来ちゃった・・・。」

  窓を開けると、ジローはにっと笑った。



  「ちょ・・・!ジロ!何してるのこんなとこでこんな時間に・・・!
   危ないでしょ!?玄関から入れば・・・!!」
  私はもうとにかく驚いて、なんで今ここに入るのか、合宿はどうしたのか、
  なんで玄関から入ってこないのかとか、とにかく聞きたいことや
  注意したいことがたくさんあって口がまわらない。
  「跡部に車出してもらってさ、すぐ帰んなきゃなんないんだ。
   ・・・ね、今何時?」
  慌てる私の様子とは裏腹にジローは落ち着いた様子で言った。
  「・・・11時58分。」
  携帯の小さなディスプレイに浮かびあがる文字を、ジローに聞かれるままに答えた。
  「姉ちゃん、今日は何の日?」

  あ、そうだ!!
  
  
  「ジロー、お誕生日おめでとう!」

  そうだった、あまりの出来事に忘れてた、今日はジローの誕生日。
  良かった、今日中に言えて・・・。思わず笑顔がこぼれた。

  ・・・ちょっと待ってよ?
  「ジロー・・・もしかして、これのためにわざわざ・・・?」
  嬉しさとともに少しあきれもした。私のこの一言のためにジローはわざわざ
  跡部君に車ださせたの・・・!?
  「違っげーよ!これはおまけ!
   ほんとの目的は・・・。」

  ジローはいつものにこにこの笑顔で、
   窓にかかる手に力を入れた。

  身体を乗り出して、ジロの顔が目の前に迫る。



  「・・・・・・!!」

  「へへ、誕生日プレゼント、もらいにきたんだ!」

  2、3秒?私の唇に、ジローの唇が触れた。
  放心状態の私に、ジローは少し顔を紅くして笑った。

  「姉ちゃんありがとね!んじゃ俺、もう行かなきゃ!
   明日の夕方には帰るね!」
  「・・・うん・・・。」
  ジローは木をつたって、ぴょんと飛び降りて家の前の道を走っていった。
  そこにあった大きな車の前で一回ふり返り手を振って、
  ジローが乗り込むと、それは夜の町に消えていった。
  私はその光景を、ただぼーぜんと見ていた。


  ふと、携帯を見る。
  時計はちょうど、0時をさしている。

  「・・・誕生日プレゼント、間に合ったみたいだね・・・。」










  今年のジローへの誕生日プレゼントは、
  「あげた」と言うより、「奪われた」というかんじでした。











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  ジローが弟だったら・・・!
  でも血がつながってたら何も出来ないので(問題発言)
  無理やりな設定にしてみました(兄弟設定も・・・汗)
  可愛いあの子が大好きvv
  ジロちゃんお誕生日おめでとうvv


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管理人感想
 ああなんておいしい設定なのでしょうvv
 慈郎が弟だったら…襲います!(待て変態)
 夜中に窓コンコンも萌え。ひたすら萌えますっvv

 璃桜様のサイト『* accarezzando *』へ


 2004年4月18日



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