神様お願い。
  他には何もいらないから。















  神様からの贈り物















  「おいジロー、てめぇまたさぼるつもりか?」
  そろそろ俺の行動パターンも、跡部に把握されつつあるようだ。
  
  「ぅわっ!?跡部!?」
  後ろから一番恐れていた声が聞こえて俺は思わず飛び起きた。
  振り向くと、錆びた大きな鉄の扉に跡部が寄りかかっている。
  「お前いい加減学習しろよ。また屋上じゃねぇかよ。
   おら、はやく行くぞ!起きろ!」
  「いで、いででで・・・!」
  跡部は俺の制服の襟をひっつかんで、
  俺はそのまま引きづられて部活へと向かった。





  
  ほんと、途中起き上がったけど俺は無理やりな格好で、屋上から校舎と少し離れた
  テニスコートまで跡部に引っ張られていった。

  「あっ景吾!何してんの!!」
  「〜・・・。」
  テニスコートは見えてくるのと同時に、の姿が見える。
  は俺と跡部の姿を確認すると、なんてことを、って顔で走り寄ってきた。

  「ちょっと景吾何してんの!ジロちゃん可哀想じゃない!」
  は跡部の手をぺしっと叩いて俺の手をとると、
  俺の頭を優しくなでて跡部をきっと睨んだ。
  「あァ!?こいつがさぼろうとしてたからいけねぇんだろ!」
  「だからってこんなことして!」
  俺はにぎゅっと抱きついて、跡部にべぇっと舌をだしてやった。
  そうだそうだ、跡部なんか、に怒られればいいんだ!


  「あーっ!まぁた跡部とが痴話喧嘩してるぜー!!」
  どっからやてきたのか、岳人が少し離れた所で大声を上げた。
  「うるっせぇぞオカッパ!てめぇはさっさとコートに入れ!」
  跡部が怒声を上げた。
  「わぁ跡部の奴むきになって!おもしれぇのー!!」
  岳人はがははと笑って、ぴょんぴょん跳ねながらコートに入っていった。




  そう。跡部とはつきあってる。

  こうやって二人はよく喧嘩もするけど、帰りも一緒のことが多いし、
  なんか知らないけど、は跡部のこと「景吾」って呼んでるし。

  そして、その跡部の彼女のに、俺は片思いしてる。

  は跡部の彼女なのに、俺が抱きついても怒らないし、頭撫でたりしてくれる。
  きっと、俺のことペットとかそんなようなかんじで見てるんだろーなぁ・・・。

  でも、その中途半端に触れることが出来るのが、またすごくつらい。


  




  俺は跡部に部室に突っ込まれて、ぶつぶつ言いながら
  着替えを始めた。
  べっつにさぼろうと思ってたわけじゃねーもん。
  昼休みからあこで寝てて、跡部の声でびっくりして起きたら放課後だったんだもん。

  跡部のことはすきだよ、
  跡部と試合すんのはすっげぇわくわくするし、跡部はなんだかんだ言って、
  俺には優しくしてくれるし。

  でも、跡部はを一人占めする。

  跡部のことはすきだけど、のことはもっとすきだ。
  俺だって、とずっと一緒にいてぇよ。
  
  ・・・ずりぃよ跡部。
  




  「ジローちゃん、大丈夫ー?」

  「えっ、あ!?!?」
  こんこんとノックの音と一緒にの声がして、俺はまた驚かされた。
  俺は慌てて半分だけ腕を通していた半そでシャツに頭を突っ込んだ。
  のこと考えてるときにに話し掛けられると、もうほんとにびっくりして心臓止まりそうになる。
  「景吾がジロちゃん寝てないか確かめに行けって!
   大丈夫そうね?」

  また跡部かー・・・。

  「うん!大丈夫!起きてるよ〜」
  の口から『景吾』って言葉が出てくるたびに俺はへこむ。
  が俺に話し掛けるときは、いっつも跡部がらみ。
  『景吾に言われたから』
  『景吾が呼んでこいって』
  俺は跡部がちょっとにくいんだけど、でもその跡部のおかげでは俺に話し掛けてくれるから、
  俺は跡部を恨めばいいのか感謝すればいいのかわからない。

  「ジロちゃん着替え終わった?もう入ってもいい?」
  ドアの外から、の可愛い声が聞こえる。
  「いいよ、入って入ってー!」
  ドアを開けると、がちょっと中をうかがうようにしてから入ってきた。
  「部室の掃除も頼まれててさ、景吾ってほんと人使い荒いんだから・・・。」
  はふぅと一息ついてから、慣れた手つきで部室の掃除を始めた。俺は邪魔にならないよう端っこのほうに移動する。
  はほんとに可愛い。
  優しくって、しっかり者で、笑顔がとっても可愛くて。
  でも、それも全部跡部のなんだよなぁー・・・。
  の後姿をぼーっと見ながら、俺はまたそんなことを考えた。

  と跡部が付き合ってるって知ってから、ずっとそう。
  のことがすきなのに、もうは別の人のものだなんて。

  「そうそう、ジロちゃんもうすぐ誕生日だねぇ、
   何か欲しいもの、あるー?」
  は掃除の手を止めず、俺に背中を向けたまま言った。

  そっか、もうすぐ俺の誕生日かー・・・。
  すっかり忘れてた。
  「えっまじまじ?なんかくれんの!?えっとねー俺の欲しいもの・・・。」
  俺は、考えてることがにばれないようになるたけ明るい声で言った。
  
  俺の欲しいもの・・・。

  
  俺が欲しいのは、だよ。


  そんなこと言ったら、はすっげぇ困るんだろうなぁ。
  困って、何て言うかな、『私は景吾がすきだから』って言うんかな。

  
  それなら・・・。



  「えっとねー、じゃあ、ちょっとここ座って!」
  「?何?」
  俺はソファをぽんぽんと叩いて、にそこに座るように促した。
  は手を洗ってから、小首をかしげてその場所に座った。

  俺はそのとなりに座って、の膝に頭を乗っけて昼寝の体制に入った。

  「跡部に見付かるまででいいから、ちょっと膝かして!」
  心臓がどきどきする。
  にばれてなきゃいいな。
  「せっかくの誕生日プレゼントなのに、こんなのでいいの?」
  「うん、これでいいの。」



  俺には、世界で一番のプレゼントだよ。



  「いいよ、景吾に見付かるまでね。」
  の手が、俺の頭に乗っかった。
 

  今日、この瞬間だけでいいから。
  他には何もいらないから。



  この、を一人占めできる時間が、少しでも長く続きますように。











  next?