First part     Sight      Food & Smile      Invitation      Decision
Waiting      Reason      Pieces      start
Interval     Monologe 桑原仁王切原
Second part     It's still early? 1      He'll obstruct it 1
    
 席替えで俺の隣になったは、無口な女だ。
 たまにこっちから話しかけても、返ってくるのはたった一言。
 笑いもしない。
 美人だとは思うけど、俺はちょっと苦手だった。





  Food & Smile





 今日の女子の家庭科では、お菓子を作るらしい。
 俺は自分がそこそこモテるのを知っているから、きっといっぱい貰えるんだろうな〜とか思ってた。

 案の定、調理実習を終えた女子たちはいっぱいマドレーヌをくれた。
 俺はほくほくした気分で自分の席へ戻ろうとしたら、隣のが何やら思案顔。
 手元にはマドレーヌ。


「あーっ! それも美味そう!」


 ダメもとで、いらないなら貰おうと思って言った言葉。
 は俺の方をちらと見て、黙って俺の机にマドレーヌを置いた。

 …いい奴だ!
 食い物をくれる奴に悪い奴はいない!

 に少し好印象を持った俺は、調子に乗って「俺のこと好きなんじゃないの?」と言おうとしたら、ぴったりのタイミングで否定された。
 …やっぱ苦手かも。

 俺は貰ったマドレーヌの袋を開ける。
 はもう俺に関心はないらしく本を読み始めていた。


「…あのさぁ、前から思ってたんだけど…」
「何?」
サンて、結構キツいね…」
「変な誤解をされないようにしてるだけなんだけど?」
「それにしてもさぁ」


 俺は喋りながらマドレーヌを一欠け口に入れた。
 口の中にほどよい甘さが広がる。
 正直、今まで食べたやつの中で一番美味いと感じた。
 意外…


「…俺、アンタの笑った顔見たことないんだけど」
「必要があったら笑うよ。笑ってるよ。
 丸井君は私を見てなんかいないからそんな風に思うんでしょ」


 …もしかしたら、今までで一番のの長ゼリフ聴いたかも。
 しかもやっぱり言ってることがキツい。
 声も綺麗なのにと思うんだけどな。

 でも確かに、俺は言うほどのこと見てなんかいなかったよな。
 よし、なら見てやろうじゃねーか。

 じーっ、と。
 頬杖をついてマドレーヌを食いながら、の横顔を見つめる。
 あーやっぱ美人ではあるよな。
 これで笑えばなぁ…

 そう思っていたら、の友達がに話しかけてきた。
 本を閉じながら小さく息をついて、は友達を見上げる。
 は他愛もない話にじっと耳を傾けて、時折相槌を打って。

 突然…笑った。

 俺の呼吸が止まる。

 俺は気づかず手に持っていたマドレーヌの袋を落としていたらしく、がこっちを見て袋を拾わないのかと言ってきた。
 そこにはもう笑顔はない。
 でも、俺の脳裏にはさっきのの笑顔が焼きついていた。

 俺は袋を拾いながら、自分の顔が熱くなるのを感じる。
 さっきの笑顔を思い出す。

 気を許した相手だけに見せるような、飾りのないそれ。
 すごく綺麗で、忘れられなくて。


 俺はもう落ちていた。




















 放課後。
 誰もいなくなった教室でと二人っきり…というおいしいシチュエーションのはずなのに、俺は怒られていた。
 っていうか、怒らせていた。
 日誌を書いとくって約束を、果たしてなかったんだ。

 俺は素直に謝ったが、はめんどくさそうに自分でやると言って席に着いた。
 俺もの前の席に後ろ向きに座る。
 部活に行っていいと言われたけど、何もかも人に任せてほっぽり出すほど俺は無責任じゃない。
 …と、思う。
 相手がだからそんな言葉が出たんかな。
 他の奴だったら、こんなこと言わなかったな。

 は顔を上げて、俺を見た。
 少し驚いたように目を見開いて、しばらく見つめ合ってた。
 …ここで笑わねーかな…
 とか思ってたら、目を逸らされた。

 無言で日誌を書き始める。
 俺はそれを見てる。

 何気なく話しかけるけど、はどれも一言で流した。
 って、俺のこと嫌いなんだろうなー。
 自分で言って、ちょっとヘコんだ。


「…俺、サンのこと好きなんだけど」


 勇気を出して、何気なく言ってみる。
 でもやっぱり適当に返された。
 笑顔に惚れたって言っても、適当に返された。
 やっぱ俺のこと嫌いだろ?
 言って、またちょっとヘコんだ。

 が日誌を書き終え立ち上がる。
 俺も席を立つ。

 は日誌を出しておいてくれると言った。
 何から何まで悪いねぇと思った俺は、制服のポケットの中にガムを入れていたのを思い出して、に差し出す。
 でもいらないと言われた。

 ああそうですか。
 そんなに俺が嫌いですか。

 俺は少しふてくされて、そのガムを自分の口に放り込んだ。
 ふと目線を上げたら、が俺を見てた。

 …何つう目で見てんだよ。

 まっすぐで、透き通った目。
 目が合ったまま、視線を外せねぇ。

 なあ、そんな目で見られたら、俺止まんねぇぞ?

 一歩近づく。
 は一歩下がる。
 でも警戒なんかしてない。
 目を合わせたまま、窓際まで追い詰める。


「…ねぇ、サン。俺アンタのこと好きだよ」
「それはさっきも聴いた」
「ちゃんと意味わかってんの? 好きなんだぜ…?」
「だから?」
「…だから」


 ちゃんと俺を、見ろ。

 俺は窓に手をついて、顔を近づけた。
 は動かない。

 だからそのまま、キスをした。

 抵抗しない。
 身体を強張らせる様子もないし。
 俺のこと嫌いなんじゃなかったのかよ。

 悔しくて愛しくて、抱き寄せて、キスを深めた。
 指に絡まるの髪の柔らかさや、身体の細さにドキドキする。
 が俺の肩に手を置いた時には、理性なんてなくなってた。
 口の中に舌を滑り込ませて、絡めようとした。

 …次の瞬間。

 俺は、首を絞められていました。


「…ぁの…苦しぃんですけど…」


 正気には戻ったけど、いきなりこれはないだろ。
 、すっげー睨んでる。


「…ぃ」
「ん?」
「汚い」
「舌入れたのが?」
「…何つーモンを飲ませてくれたの」


 「飲ませた」? 何か飲ませたっけ?
 …そういや、口の中が何か淋しい。


「……ガム?」


 当たっていたようで、はやっと手を放してくれた。
 ていうかマジで力こもってたんですけど。


「舌はいーのにガムはダメなんだ?」
「最初からどれも「いい」なんて言ってないんだけど」
「でも、抵抗しなかったよな?」


 顔を近づけたら押し返された。
 おいおい、さっきのは何だったんだよ。

 そして「どうしてだと思う?」とか訊いてきやがった。
 お前は好きでもない奴とキスすんのかよ。

 わかんないんだとか言いやがるから、これは刷り込みのチャンスだと思って、お前は俺が好きなんだと言い聞かせてやる。
 おーおー、考えてる考えてる。
 あと一押しか?

 俺をこんなに夢中にさせたんだから、責任取れ。
 俺もお前を大切にしてやるから。


「…少しでも生理的に受け付けなくなったら別れてもいい?」


 スゲェ言い方。
 でも真面目な顔で言ってるから、何か可愛い。

 俺が快諾すると、は「ならいいよ」と言った。

 その時の俺の喜びようと言ったら。
 抱きついちゃってチョップをかまされるほどだった。


 あー、俺、マゾでもいいや…
 もうがすんげぇ好き。マジ好き。



 …あ、でも俺、「好き」って言われてねぇや。





to be continued…





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中書き
 『Sight』のブンちゃんsideです。
 これは『Sight』をアップした直後に書きました。
 何か、書きたかったんで…おまけみたいなモンだと思ってください。
 でもこのサイトで初めて携帯を使っていない作品です。何か感動。
 視点を変えるのは楽しいけど難しいです。
 今度はヒロインに「好き」くらい言わせようと思います。
 もう順番がめちゃくちゃですね(笑)


 2004年1月13日


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