First part     Sight      Food & Smile      Invitation      Decision
Waiting      Reason      Pieces      start
Interval     Monologe 桑原仁王切原
Second part     It's still early? 1      He'll obstruct it 1
    
 貴方は、私に何を求めるの?
 私は、貴方に何を期待してるんだろう?

 もう一歩。
 もう一歩だけ。

 互いに、向かい合って、歩み寄る。





  Decision





 付き合ってたった二日。
 この二日間、丸井ブン太はかなりのハイスピードで私達の距離を縮めようとしていた。
 とりあえず名前で呼び合うくらいにはなったけど、まあ、ひたすら向こうから話しかけてくるだけ。

 それも仕方ないのかもしれない。
 だって、私達は、お互いの事を何も知らない。

 知らないで、それでも…
 …必要だったんだろうか。
 互いの存在が。(何を求めて?)

 『お試し』という前提は既に崩壊していて。そんな事もう忘れていて。
 私達は今、不器用にも手探りで、互いの何かを掴もうとしている。
 それは、少しずつ真っ白なパズルのピースを合わせていくような。とても時間のかかる作業だけれど。
 それすらも、楽しく思えるならいいかもしれない。辛くない。


「…俺たち、付き合ってるんですよね?」
「そうだね」


 ブン太が不安そうに訊くから、迷う余裕なんか与えないほどにあっさり答えてあげた。
 自分で「俺たち付き合っちゃおうぜ」とか言ったくせに、何を不安がってるの?
 私は自分で決めたんだから。今さらそっちが悩まないでよ。

 ホントに、ブン太が自分で「俺ってアホ?」って言うように、正にアホだね。
 でもいいんだよ、アホでも。
 そこに一生懸命さがあるのなら。それは魅力になる。


「な、今日これからヒマっ?」


 放課後になった途端、さっきまでとは打って変わってのこの目の輝きよう。
 人の腕を掴んだまま考え事を始めたりして、ちょっと不気味だけど。

 「何か用?」って訊いたら「部活見に来てくれ」だってさ。
 かなり意表をつかれたけど、これはいいチャンスだと思った。
 聞かれないから言わないけど、私だって、ブン太の事知りたいと思ってるんだよ。
 ブン太を構成する一部分、テニス。それに興味がないわけがない。

 控えめに握られた左手だって、別に構わない。
 触れ合う事だって、大事だと思う。
 本当に、控えめで。壊れものとして扱われてるみたいだ。
 まるで、親の顔色を窺ってる子供みたい。

 テニスコートに着くと、見知らぬ少年が私達の元に駆け寄ってきた。
 ニコニコしてて、何だか人懐っこい感じ。 


「ウイッス丸井先輩!」
「おー」
「先輩、その人が昨日言ってた例のカノジョ…?」


 何、「例の」って?
 早速言い回ってるワケ?

 切原と名乗った少年は、些か不躾とも言えるほど私の顔をじっと見ていた。


「話に聴いた通り…美人っスねー…」


 …私ね、自分のいない所で自分の話されるの嫌い。
 それが例え褒めているんだとしても、全然嬉しくないんだよ。
 そういうのも解かってくれなきゃ困るよ、ブン太。

 私は繋いでいたブン太の手を離した。
 最初から大した力で握られていたわけじゃないから、すぐにほどけて。
 手のひらが冷気に晒されてひんやりすると、少しだけ、惜しくなった。


「…ブン太、着替えてきたら?」
「えっ?」
「その格好のまま部活するわけじゃないでしょ?」
「あー、うん」


 何だか躊躇っているように見えるんだけど。
 ブン太は数秒沈黙すると、目を据わらせて切原君を見た。


「来い、赤也」
「はっ!?」
「じゃあ、ちょっと待っててな」


 そう言うと、ブン太は切原君の首根っこを掴んで引っ張っていってしまった。
 …切原君は一緒に行く必要があったの?










 特にやる事もないのでコートに目を遣った。
 放課後に入ったばかりなので、まだそんなにテニス部員はいないみたいだ。

 近くのコートで、軽く打ち合いをしている人がいる。
 こちら側にいる人は後ろ姿しか見えないけど、チョロっと背中に垂れる付け毛に見覚えがあった。
 あれって、一年の時同じクラスだった…えーと…仁王君、だよね?
 あんまり話した事ないからよく覚えてないけど。

 しばらくじっと様子を見てたら、仁王君がバッ!と急に後ろを振り返った。
 少しビックリして怯んでしまう。

 仁王君も私がいて驚いたらしく目を見開いた。
 そしてラケットを肩に担ぐように立てかけると、ニヤリと含みのある笑みを浮かべた。
 練習相手の人に「ワリ」と片手を上げて謝ると、何故かこちらに向かってくる。
 間違いなく私の方に向かってる。だって私をじっと見てる。

 やがて仁王君は私の目の前に辿り着くと、友好的な笑顔を見せた。


「熱い視線感じたから誰かと思った」
「あの…」
「一年の時以来だな、
「うん……?」


 要領を得ないんですけど。
 絶対に、こんなお決まりの挨拶をしたいわけじゃないんだろう。
 こういう遠回しな言い方をする人だったという記憶も何となくあった。
 何かこう…人を食ったような感じ。


「ブン太と付き合ってるんだって?」
「…ああ、その事」
「予想もしなかった組み合わせだぜ」


 私も、夢にも思わなかったよ。
 全然タイプの違うブン太と付き合う事になるなんてね。


「合わないと思うでしょ?」
「いんや。ある意味お似合い」
「…どういう意味で?」
「アイツは尻に敷かれるのが意外と似合う」


 尻に…敷いてる?
 …私が? ブン太を?


「敷いてるつもりはないって?
 でも俺には、ブン太とっつったらそういうイメージしか湧かないけど?」
「…そう」
「そうそう、そういうあっさりしたトコロ。アイツはみたいなタイプに弱い。
 惚れられちまったのも、必然かもしれないぜ?」
「…よく、解からない」


 解かるのは、初めてまともに話した仁王君は、思っていた通り食えない人だという事。
 ブン太の心理的な部分を手に取るように熟知していて、まともに話した事もない私の性格でさえある程度理解している。
 すごく頭のいい人だ。そして自分でそれを解かっている。
 仁王君の言葉には、無意味なものなど存在しないんだろう。

 …とか仁王君を分析してる時点で、私も仁王君と同じタイプの人間なのかもしれないけど。


「――に、ぉーうッ!!」


 考え込んでいたら、突如ものすごい叫び声が聴こえた。絶叫に近い。
 ブン太、だと思うんだけど…

 振り返って見てみたら、やっぱりブン太で。
 すごい形相で私達の元に駆け寄ってきた。


「ブン太…早かったね」
「ホント、もっと遅くてもよかった」


 仁王君の言葉に、ブン太は仁王君を睨み据えた。
 この二人って、仲悪いのかな。良くはなさそう。
 何か…蛇とマングース?

 それで…何でかこの二人が試合する事になったし。


!」
「ん?」
「俺の天才的妙技、しっかり見てろよ!」


 「天才的妙技」? 自分で言う?
 でも試合なら、練習とはまた違った姿が見られるわけだよね。
 …いいよ、見ててあげる。


「うん、解かった」


 ブン太は意気揚々と、仁王君は含み笑いを浮かべて、コートへと向かっていった。

 それにしても…テニスの動きって綺麗だと思う。
 規則的な動き。変化する動き。
 同じ動作のはずなのに、人に因って全然変わってくる。
 面白いかもしれない。
 ブン太も、アホ話じゃなくてもっとテニスの事を話してくれればいいのに。

 私がテニスについて知っているのは基本的なルールだけ。
 そこにどんな駆け引きがあって、どんな葛藤や、苦しみや喜びがあるのかは解からない。

 私はブン太を見てる。
 それを少しでも理解する為に。
 ブン太を理解する為に。



















 試合結果はブン太の勝ち。
 ただ、仁王君が本気でやっていたようには見えなかったけど。

 ブン太は汗を拭いながらこちらに戻ってきた。


「お疲れ様」
「…おう」


 勝ったのに浮かない顔。
 ああ、やっぱり仁王君本気じゃなかったんだ。


「観てたか? 俺の勇姿」
「うん」
「どうだった?」
「……」


 どうもこうも。見直したよ。
 すごく強くて、レギュラーになれたのも解かるような気がする。
 こういうの、嬉しい期待の裏切りっていうのかな。


「すごかった。本当に強いんだね」
「っ…!」


 私は率直な感想を言っただけなのに、ブン太は突然顔を赤くして、手のひらで口元を覆った。
 何か…今にも泣きそうじゃない?

 ブン太は私から視線を外したまま、「テニスに興味があるか」と訊いてきた。
 「ある」と答えたら、何か言いたそうな顔をして。
 少しだけ躊躇った後、私を真っ直ぐ見て言った。


「……マネージャー…やらない…?」


 …思わず笑いそうになった。
 ある程度は予想出来てたから。
 いつか言い出すんじゃないかって、思ってたよ。

 「一緒にいたい」って、思ってくれてるのなら。
 それは私も否定出来な想いで。

 私はその願いを受け入れた。

 相手を知りたいと思うのは悪い事じゃないでしょう?
 私もね、このままじゃいけないと思ってた。
 ただ流れに身を任せるだけじゃ。

 たった一歩だけど、大きな一歩を。


 私達は今、踏み出そうとしている。





to be continued…




********************

中書き
 何かもうダラダラです。
 進むの遅くてごめんなさい。
 ちょうどスランプ突入してて…現在進行形。
 ニオくんは、ホントは九州弁もしくは高知弁で喋らせたかったんですけど…翻訳がね、出来なくて。
 次も誰かレギュラーキャラ出せたらいいなぁ…柳さんとか、柳さんとか(柳さん大好き)


 2004年3月26日


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