モスクワ地下鉄テロと自衛隊派遣を考える

 
先日のモスクワの地下鉄爆破テロは数十人が死亡する大惨事になりました。犯行声明は出ていませんが、これまでの経緯を考えると、チェチェンの過激派によるものと考えて間違いないものと思われます。一昨年10月に起こったモスクワの劇場占拠事件の記憶も新しいところです。
   こんな事件を起こし、モスクワ市民を殺しても、ロシア政府・国民の激しい反発を買うだけで、何も得るものはありません。却ってロシア軍のチェチェンに対する軍事攻撃は一段と激しくなり、多くの死者・負傷者が出るだけです。ただチェチェン人は、二百年以上にわたり、ロシアに徹底的に抵抗してきたという筋金入りの民族ですから、いつ空しい殺し合いが終わるのか、全く希望は持てません。プーチン大統領は強硬姿勢をとる以外に対応のしようがなく、多くの国民の支持を受けている反面、治安はますます悪化しています。そういう意味で、「プーチン大統領はチェチェンの人質になった」とも言われているそうです。

   以下は仮定の話です。
   もしイラクの自衛隊がテロに遭遇し多くの犠牲が出た場合、どうなるでしょうか。世論の反応は分かりませんが、日本政府の対応は、ほぼ明かです。今朝の朝刊で首相は「想定外の事態が起こった場合は撤退も有り得る」と発言したとありますが、先日の石破防衛庁長官の「犠牲が出ても撤退しない」という発言の方が真実味がありそうです。
   つまり「テロにひるまない」「自衛隊は腰抜けではない」と声高に叫び、「もっと兵員を増強せよ」「怪しい奴がいたら先に銃撃してもよい」というような方向に流れていくのではないでしょうか。読売や産経(最近の論調では「毎日」も?)その方向に世論をリードしようとするでしょう。
   アメリカの意向に従って決断した派遣ですが、撤退は更に難しい判断になるでしょう。過去日本には「シベリア出兵」での大失敗もありました。おそらく撤退もアメリカの意向でしかできないでしょう。その際「自主的な判断で決めた」と首相はのたまうでしょう。
   
   「北朝鮮のこともあるし、日本はアメリカの期待に応えて、自衛隊をイラクに派遣する以外に選択肢はない」という人もいます。果してそうでしょうか。露、中、仏、独、インド、マレーシアなど、イラクに派兵していない国がアメリカから露骨な嫌がらせを受けたという話は伝わってきません。日本は米軍に対する世界最大の基地提供国であり、また他に例を見ない思いやり予算など資金面でも多大なサポートをしています。全く引け目を感じる必要はありません。米大統領選の風向きも大分変わってきました。日本はどこまでもブッシュ政権にお付き合いして、あとで困ったことにはならないでしょうか。


                                                                                                                 (2004/2/10)