政府税調:サラリーマンにとって増税色の濃い報告書を発表

 政府税制調査会(首相の諮問機関、石弘光会長)は21日、個人所得課税のあり方をまとめた報告書を正式発表した。給与所得控除や配偶者控除をはじめとする各種控除の整理・縮小が柱で、特にサラリーマンにとっては増税色の濃い内容だ。実施時期については、今後の消費税の引き上げ議論の行方をにらみ、「経済情勢も踏まえて段階的に」との表現にとどめた。国から地方への税源移譲は06年度税制改正で実施することを明記。このため、税源移譲に伴う所得税と個人住民税の税率変更は07年から実施される見通しだ。【三沢耕平】

 ◇給与所得の控除縮小、退職金は「2分の1課税」…

 給与所得控除は、サラリーマンの経費に相当する金額を、課税する所得から自動的に差し引いて所得税を減税する制度。年間の給与所得控除の総額は約61兆円(05年度予算ベース)で、給与所得総額(約213兆円)の約3割を占める。控除縮小の背景には「実態より過大」(石会長)との問題意識があった。

 具体的な縮小幅は明記していないが、中低所得者層にとっては大きな負担となるのは確実だ。

 第一生命経済研究所によると、控除額を3分の2に減らすと、年収500万円の世帯(夫婦と子1人)で年間9万6000円、年収800万円の世帯(同)で同20万円の負担が新たに生じる。

 また、退職金の課税強化の方向性を示した。退職金は控除を差し引いた額の半分が課税される「2分の1課税」。給与の一部を意図的に退職金に回す「事実上の租税回避」の防止を目指す。年収300万円以下の配偶者を持つ納税者に適用される配偶者控除、16歳以上23歳未満の子がいる場合に一定額を控除する特定扶養控除も、それぞれ廃止の方向性を示した。

 各種控除の見直しが“サラリーマンいじめ”との見方について、石会長は同日の会見で「この国を支えるには、サラリーマンに頑張ってもらうしかないというメッセージを送りたい」と発言。深刻な財政状況を解消していくには、就業者層の約8割を占めるサラリーマン層に税負担を求めるのはやむを得ないとの考えを示した。

 国(所得税)から地方(個人住民税)への税源移譲による個人負担の変化については「極力抑制する」との表現にとどめており、税率変更によって負担が増える世帯が出てきそうだ。

 現在の税率は、所得税が10、20、30、37%の4段階。個人住民税は5、10、13%の3段階。政府は3兆円程度の税源移譲を目指しており、住民税を10%に一本化して地方税を増税する案を軸に調整している。

 報告書では、住民税率が5%から10%に増税される層に対し、所得税率の引き下げで調整する考えを明記。しかし、例えば、年収325万円未満の世帯(夫婦と子供2人)など、所得税を払っていない約300万人は、住民税の5%引き上げ分がそのまま増税となるとみられる。

 ◆個人所得課税に関する報告書の概要◆

・給与所得控除を縮小。特定支出控除の対象を拡大

・自営業者の記帳義務強化。概算控除制度の導入検討

・納税者番号制度の導入検討

・退職金への課税強化

・配偶者控除、特定扶養控除の縮小・廃止

・子育て支援で所得税の税額控除

・個人住民税の均等割り(4000円)の引き上げ

・所得税と個人住民税の税率変更

・公示制度の廃止検討

 ◇皆が公平感を持てる税制を…石弘光会長

 今、財政再建は待ったなし。少子高齢化で社会保障関係の経費も増えていく。そうした中、所得税は過去十数年、定率減税や課税最低限の引き上げなど、景気浮揚のために減税ばかり行ってきた。最盛期で約26兆円あった所得税収は約14兆円にまで落ち込んでいる。所得税としての機能がまひしている。消費税とともに所得税が基幹税として支えない限り、日本は駄目になる。そういう意味で所得税の見直しが必要だ。所得税の抱える構造的な欠陥を修復しようというのが狙い。欠陥補修の結果として増収になるということだ。

 今回は、見直しの方向性を示したもの。来春からやろうという話ではないし、できるとも思わない。実施するには消費税との兼ね合いもある。どちらも増収に結びつくため、同時にはできない。所得税改革は消費税よりも後になるだろう。

 税務行政の見直しも今回の柱の一つだ。サラリーマンは、自分たちの所得が捕捉されやすいと怒っている。逆に、自営業者は給与所得者はけしからんと怒っている。皆が公平感を持てる税制を作らない限り、今後の財政危機は乗り越えられない。(自営業者と給与所得者の)オールジャパンで負担しないといけない。(談)

毎日新聞 2005年6月21日 21時26分