小規模宅地等の改正と選択への影響

 相談事例

 小規模宅地等の特例について、平成22年度改正が実務に及ぼす影響を踏まえ、生前対策、遺産分割、2次相続までを見据えた対策の観点から、小規模宅地等の選択の実務の視点について教えてください。

 《1》相続税の増税と小規模宅地等の特例の改正

白井)平成22年度改正は、従来の考え方を変更しています。特に今までの取扱いに習熟し、小規模宅地等の特例を資産家の相続税対策として使いこなしていた実務家ほど、変更への対応に苦労しているかもしれません。

濱田)小規模宅地特例の趣旨は、残された相続人の「居住」または「事業」の保護です。具体的には宅地等を取得した親族が「居住」と「事業」を継続できるように評価減という手法での税負担軽減を認めているわけです。

白井)被相続人と生計を一にする親族が「居住」または「事業」に供していた被相続人の宅地等も小規模宅地特例の対象になっています。これは被相続人自身の「居住」または「事業」と同等だと考えられるからですね。

内藤)そのような趣旨を踏まえると、従来から「居住」や「事業」を継続しない親族にまで評価減が認められる取扱いは合理的でないとの意見がありました。

濱田)改正の影響が大きいのは都市部に自宅と金融資産を保有する人ですね。相続人が配偶者と子2人として、仮に基礎控除が従来の8千万円から4800万円に引き下げられると、小規模宅地等の特例を利用できるか否かが明暗を分けることになるわけです。

 ▲事例▲

 母の財産
 自宅用の敷地 8千万円(240u、80%減額後1600万円)
 その他の財産  1億円

      母(被相続人)
      │
 ┌────┴────┐
 │         │
 長男       次男


 (1)現行
 相続税額  400万円

 (2)基礎控除が4800万円に縮減する改正が実現した場合
 相続税額  890万円

 (3)基礎控除の改正があり、小規模宅地特例が使えなかった場合
 相続税額 2200万円
村木)基礎控除を縮減する改正が実現すると、490万円の増税、さらに小規模宅地特例が使えないと、1800万円もの相続税の負担増になってしまうわけです。つまり、平成22年度改正の影響で使えるはずの小規模宅地等の特例が使えなくなってしまったという取り返しのつかない事態は避けなければなりません。

白井)まず、平成22年度改正が実務にどのように影響するかを確認しつつ、小規模宅地等の選択実務への重要論点を確認していきましょう。

【税理士のチェックポイント】

 @平成22年改正により既存の相続対策の見直しが必要となる。

 《2》平成22年度改正の影響と選択の論点

 【平成22年改正項目】
 @ 申告期限まで事業又は居住を継続しない場合を除外
 A 居住又は事業を継続する者としない者が宅地等を共同相続した場合には、取得した者ごとに適用要件を判定
 B 一棟の建物の敷地に特定居住用宅地等が含まれる場合の優遇措置の廃止
 C 特定居住用宅地等については一つに限ることを明確化

1)申告期限まで事業又は居住を継続しない場合を除外

(1)改正の概要

白井)相続人が相続税の申告期限まで事業又は居住を継続しない宅地等が小規模宅地特例の適用対象から除外されることになりました。

 改正前は、被相続人が事業用又は居住用として利用していれば、仮に申告期限までに相続税の納税資金として売却しても、あるいは、親族以外の第三者が遺贈で取得しても200uまでの50%減額は認められていました。

        【改正前】           【改正後】
          (限度面積)(減額割合)
 事業用   継続せず 200u 50%減額┐
 貸付事業用 継続せず 200u 50%減額├→廃止(減額なし)
 居住用   継続せず 200u 50%減額┘
                      岡野)この改正に伴い、「貸付事業用宅地等」という概念が創設されました(措法69の4B四)。

(2)貸付事業用宅地等が未分割の場合

内藤)貸付事業用宅地等の具体的要件を確認しましょう。被相続人の宅地等を相続によって取得した親族で、次の2つのケースがあります。

 (1)親族が、申告期限までに被相続人の貸付事業を引き継ぎ、申告期限まで貸付事業を継続している場合(措法69の4B四イ)

 (2)生計一親族が、相続開始前から申告期限まで貸付事業を継続している場合(措法69の4B四ロ)

濱田)つまり、典型例としては、被相続人の不動産貸付業を、サラリーマンだった子が承継して宅地等を取得する場合が(1)です。この場合は親族であれば誰でもOKです。

 そして、(2)が、もともと被相続人の宅地等を使って不動産貸付業を営んでいた生計一親族が宅地等を取得した場合です。この場合は生計一親族以外が取得するのはアウトです。

村木)小規模宅地特例の趣旨は、被相続人が営んでいた家業の保護です。家業を継ぐ者と、元々家業を営んでいた者に限るというわけですね。

 仮に(2)で、生計一親族ではなく、別生計の親族が宅地等を取得して不動産貸付業を引き継ぐというのは、被相続人の家業がいったんリセットされたため、保護に値しないと見るわけです。

白井)未分割の場合に、(1)のケースで疑義があるようです。未分割の場合には小規模宅地特例は適用できませんが、申告期限から3年以内に分割が調った場合には更正の請求ができるのが原則です(措法69の4C)。

 ▲事例▲
 母から賃貸アパートを相続したが、申告期限においては未分割であったため、「3年以内の分割見込書」を提出のうえ、小規模宅地特例を適用せず申告した。翌年、兄が100%取得するとの分割協議が調ったことで、更正の請求をしようと思う。
 しかし、知人から、申告期限までにアパート事業を承継していないため、更正の請求は認められないのではないかとの指摘を受けた。

     母(被相続人)
      │
 ┌────┴────┐
 │         │
 兄         弟

  相続開始  申告期限(未分割)  兄が100%取得
 ─┼────────┼─────────┼─────
   ←────────────────→
    アパートを兄と弟が1/2ずつ共有  ↓
                    更正の請求は可能か?
岡野)申告期限までに分割していないので事業を承継したとは認められないという見方ですね。あるいは、兄は、共有持分2分の1を承継したものとしてアパート敷地の2分の1だけが、小規模宅地特例の対象となるという見方もあるようです。

内藤)事例の場合、更正の請求は可能と考えます。

 分割していないから、不動産貸付業を引き継いでいないという見方はできません。共有のアパートから生じる果実は相続人に帰属するわけですから。

 また、共有であるということは、兄弟各々がアパートの全体を支配しているということであって、2分の1だけ引き継いでいるという見方も間違いですね。

白井)なるほど。この事例では、遺産分割の日の翌日から4ヶ月以内に兄弟は、更正の請求が可能ですから不利になることはないというのが結論ですね(相法32、措法69の4C)

【税理士のチェックポイント】

 @事業または、居住が非継続の場合の小規模宅地特例は廃止
 A申告期限までに未分割でも貸付事業は承継したものとして、分割による更正の請求が受けられる。