自社株の評価額を引き下げる方法を教えて下さい。
Q 自社株の評価額を引き下げる方法を教えて下さい。
ポイント
[1]評価方法ごとの評価引下げ手法を把握しておく
[2]評価引下げのためだけの対策実行にはリスクが伴うことを理解する
[3]評価引き下げ手法には、節税以外の理由が必要
解説
1)類似業種比準価額の引下げ
類似業種比準価額は、比準要素を引き下げることで、評価額を引き下げることができますので、配当、利益、純資産の各数値を引き下げることが株価引下げ対策になります。ただし、引き下げすぎて、比準要素が1あるいはゼロの会社にならないようにする必要があります。
配当を引き下げるには配当を実施しないことが効果的ですが、株主に配当を実施する必要がある場合は、臨時配当や記念配当にしてしまう方法が考えられます(評基通183(1))。具体的には、毎期の配当は行わないか、配当率を低額に抑えておき、利益が計上された事業年度は、記念配当や特別配当を行うことで、株価の評価を引き下げます。
利益を引き下げるには、含み損がある土地などの資産を譲渡するほか、退職金の支払いで損失を計上する方法があります。また、レバレッジドリースや養老保険や定期保険などの役員の生命保険を利用した損失計上も利益の圧縮効果があります。
高収益部門を後継者の会社に事業譲渡することも有効です。この場合は事業譲渡によって会社規模が縮小し、評価額がかえって高くならないように注意しなければなりません。類似業種比準価額よりも純資産価額の方が高額である前提で説明すると、大会社が中会社になってしまえば、類似業種比準方式と純資産方式の折衷方式になります。さらに中会社については、さらに会社規模に応じてLの割合が変更し、純資産価額の割合が大きくなるため、評価額が高くなってしまいます。
純資産を引き下げるには損失を計上することですが、比準要素としての純資産は法人税法上の純資産を使うため、含み損は実現しない限り、純資産額を引き下げることはできません。したがって、含み損のある土地や不良在庫、不良債権の損失処理を行うことは、純資産を引き下げる効果があります。また、役員退職金などの支出も利益の引き下げとともに、純資産の引き下げ効果が生じることになります。
一般に類似業種比準価額は、純資産価額よりも低い場合が多いため、仮に中会社が他の会社との合併によって大会社となれば、類似業種比準価額のみで評価できることになり、評価引き下げ効果が生じることになります。
しかし、適格合併の実行直後に相続が発生すると、類似業種比準方式が使えないという不利益が生じることに注意が必要です。合併によって、3つの比準要素が、合併後の会社実態を反映せず、適切な数値が把握できないことがあり得るからです。類似業種比準方式の適用には限界があると考え、類似業種比準方式は採用できないとする見解が公表されています(国税速報 第5528号)。
したがって、合併を行った事業年度に相続が生じた場合と、合併の翌事業年度に相続が生じた場合については、純資産価額のみで評価することになります。この場合の具体的な純資産価額の計算方法として、合併を行った事業年度に相続が発生したときは、比準要素がゼロの会社として、純資産価額のみによる評価(評基通189(4))となります。合併の翌事業年度に相続が発生したときも、原則は純資産方式だが、比準要素のうち、純資産だけは課税時期の直前期末の会社の実態を反映しているため、比準要素1の会社として、Lの割合0.25とする併用方式(評基通189−2)を採用することも可能です。
ただし、合併の前後を通じて合併法人の会社実態に変化がない場合には、比準要素を合算して、類似業種比準方式を採用することも合理性があると説明されています。
株価引き下げだけを目的に合併を実行することは控えるべきです。合併をしたがために経営に問題が生じたという事例はいくらでも見受けるところですし、評価額の引き下げが否認されるリスクが生じることは言うまでもありません。