塞がれた道
風の弱くなった海をシルドラの力を借りて進んだ船は、敵に襲われることなく風の神殿のそばまでたどり着いた。
留守を手下たちに預け、焦燥からか急ぎ足で進んでいくレナをなだめながら、それでも目算から考えると早い速度でおれたちは神殿に近づいていた。めったに近寄らない神殿の静謐な雰囲気が、どこかおかしいと気付くくらいの位置まで来ている。
先を進むレナとガラフの背中を見ていたおれは、ふと後ろからついてきているはずのバッツの足音が聞こえないことに気が付いた。振り返ってみれば、あのバカはおれたちから少し離れた場所で足を止めて、顔を右の方へ向けている。遠目でも呆然としているのが分かる横顔に、なにやってんだとおれは顔をしかめた。
「おいバッツ、ぼさっとしてんじゃねえよ。風の神殿はこっちだぞ」
不機嫌もあらわに大声で呼びかけると、バッツがぎくりと肩を震わせた後、ばっとこちらを見た。
「あ、ああ。わるいファリス。今行く」
慌てた様子で歩き出したバッツが、おれの横を通りぬけてレナとガラフの方へ向かっていく。それを見届けた後、おれはさっきまでバッツが見ていた方へと顔を向けた。
視線の先に見えたのは、森の先、少し開けた山のふもと。そこには倒れた木や岩が大量に積み重なっていた。記憶が確かなら、たしかあの場所には山の中にあった村へ続く山道があったはずだ。
(完全に塞がれちまってるな……。地震でがけ崩れでもあったか)
元々バッツは旅人だというし、次に訪れる予定にでもしていたんだろう。そう勝手に結論付けて、おれは先に進んだ三人に追いつくべく踵を返した。
★ 2013-07-28