おやつができるまで

(……なんか腹減ったな)
 のんびりした日曜日の午後、リビングのソファーで図書館から借りた本を読んでいたバッツは、ぼんやりと胸中でぼやいた。
(昼飯早かったからなー)
 今日は日曜にしては珍しく昼前にクラウドが起きてきたので、昼飯を早めに取った。朝をきっちり食べたバッツはあまり腹が減っていなかったので、いつもより量を少なめにした。晩飯まで持つだろうとあのときは思ったけど、見通しが甘かったようだ。
 一度空腹を認識すると、そこから意識を逸らすことは難しい。すでに本の上に並ぶ文字をうまく追いかけられなくなっていたことに気付いたので、バッツはさっくり諦めてローテーブルに本を置き、お腹をさすりながら立ち上がった。
(買い物行く前になんか……)
 ぼんやり考えながらキッチンへ向かう。ぽっかりと空いてる菓子の保管場所を通り過ぎ、冷蔵庫を開ける。けれど買い物(しかも今日は買いだめの予定)に行く前だから、すぐに食えるものがない。
(昼飯でだいたい食っちまったからなあ……作るか)
 カウンターに置いてある時計を見ると時刻は三時ちょっと前。この時間ならおやつだろう、簡単なものだとクッキーかなと思いつくままに決める。もう一度冷蔵庫をあけて、バターを取り出す。意外と残量が少なかったバターに合わせて砂糖と小麦粉を計って混ぜる。食べたい気持ちが先行しているので、ねかせずにチョコボ型で抜いて、予熱しておいたオーブンレンジに突っ込んだ。
 道具を洗っているうちに、香ばしくて甘いにおいが少しずつキッチンを染めはじめていく。手を拭きながら覗きこんだレンジの中で、ほのかに赤く照らされた生地の表面がざらざらとしてきて、端のほうの色が変わりはじめている。我ながらうまそうだと自然と顔がほころんだ。
 なんとなくそのままチョコボたちがくるくる回る様子を見ていたら、レンジが唸る音にまぎれて、かちゃりとドアが開く音を耳が捉えた。ぺたぺたと足音が続く。
(においに釣られて出て来たな……)
 笑いながらもレンジから目をそらさないでいると、右半身にゆっくりと重さがかかった。
 今まさに出来上がるクッキーみたいに、あまやかな感触。
「何を作ってるんだ」
「クッキーだよ。小腹がすいてさ。クラウドも食うか?」
 肩越しにレンジを覗き込んでいるクラウドが問いかけに頷く動きが、首にくすぐったい。
「じゃ、焼けたら一緒に食おうな」
 もう一度頷いた彼の頭を、撫でる。いつの間にか腰に回っていた腕の力が強くなった。
 ……コーヒーを淹れようかと思ったけど、あとにしよう。

2014-12-05
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