バッツの朝の話

 どんなに睡眠時間が短くても、どんなに体が疲れていても、いつもの癖か今日もふだんと変わらない時間帯に目が覚めた。欠伸をして体を起こす。と、鈍い痛みが腰を襲ってくる。昨日はほんとにやり過ぎた。正直ベッドにまた倒れ込みたい。だけど、すぐに体が慣れるはずだからそれまで我慢だ。
 起きあがった体勢のまま腰をさすっているおれの隣で、クラウドが小さく身動ぎした。起こしちゃったかと恐る恐る彼を見たけど、続くのは寝息だ。ほっと一息ついて、彼の頭に手を伸ばした。こんな時くらいしかクラウドの頭をゆっくり触る機会なんてない。そっと髪を撫でると、さらさらとした感触が手に残った。

 好きだなぁと、そう思う。当てなく旅をしていたおれが、あの夜彼に拾われたこと自体が奇跡で。一度別れた後にまた巡り会って、こうして生活している今このときなんて夢なんじゃないかって、たまにそう考える。そんなことを言ったらクラウドが苦しむのがわかってるから、面と向かっては言わないけど。

 不意に体が寒さに震えて、随分ぼうっとしてたことに気づく。季節は冬真っ盛りで、明け方は本当に寒い。素っ裸だと風邪をひく。それに、あまりゆっくりしていると、クラウドが起きる時間になる。それまでに、部屋あっためてコーヒー入れて朝飯作んないと。

 静かにベッドから降りて、クラウドに布団をかけ直す。そのとき、布団の上にタオルが放り出されてることに気付いた。このタオルおれのか? クラウドが取ってくれたのか。そういえば、布団もかけてくれたんだな、と芋づる式に思い至って嬉しくなる。今日の朝飯はクラウドの好きなベーコンエッグをつけてやろうと思いながら、部屋のドアへと向かう。慎重にドアを開けたところで、一度ベッドを振り返る。彼がまだ目を覚ましてないことを確認して、思わずこぼれた笑みをそのままに、おれはクラウドの部屋を抜け出した。

2014-01-26
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