コンビニ店員バッツと、常連客クラウドの話(1)
明るい、だけど聞き過ぎて飽きてきた音楽が流れるコンビニのなか。人が来ないレジで欠伸をかみ殺しながら、バッツはちらりと時計を見た。
時刻は二十一時四十二分。
そろそろ来るかな、と考えていると、ちょうどいいタイミングで自動ドアが開き、一人の男が入ってきた。やっぱり来た、とバッツは何故か嬉しくなる。
金髪ツンツン頭のそいつは、いつもこのくらいの時間にコンビニにやってくる常連客だった。
買っていくのは基本缶コーヒーとハンバーグ弁当。ハンバーグがなければ唐揚げ。そして、週に二回は六枚切りの食パンを買っていく。
スーパー行った方が安いのに、と苦学生のバッツは思う。バイトをしてはいるが、バッツは客としてコンビニに来ることはほとんどない。この周辺には、三件のスーパーが火花を散らしている。バッツはチラシを細かくチェックして、食料の買い出しをしている。毎日コンビニに来るあいつはよっぽどお金を稼いでいるのだろう。
黒いライダースは明るく派手に色が舞う店内ではめっこう目立つ。店内はそこここに防犯ミラーがついてるから、その動きを追うのは簡単で、(あ、今日は食パンの日か)なんて思う。
毎日毎日同じものを買っていくあいつは、まるでそれしか動作を知らない人形みたいだ。
つまらなくないんだろうか、とバッツは彼の動きを目で追いながらぼんやり考える。たとえばあいつに、この前ジタンと行ったラーメン屋の、激辛ラーメンを食わせてみたらどんな反応をするんだろう。
ぐるりと店の一番外側を一周したあいつが、レジに来た。手に持っていた三品をどさりと置く。
いらっしゃいませ、と声をかけバッツはバーコードリーダを手に持つ。バーコードを読み込むためにうつむいていた顔をちらりと上げる。いつも同じものを買っていくのだから、値段なんてわかりきってるだろうに、彼はいつものように無表情でレジの表示パネルを見ていた。
もっと別の表情をさせてみたい。
思いついた欲望のままに、バッツは思い切って、彼に向かって口を開いた。