プレゼントにはリボンをつけて
毎日特に代わり映えのしないこの世界の灰色の空の下、クラウドはテントの前でバッツを待っていた。閉じきった入口から窺うことはできないが、このテントの中にはバッツがいる。今日は彼と二人で探索の予定だった。
(遅いな……)
動かない入口を見ながら、ため息が一つ漏れた。バッツの服は装飾品が多いので、用意に時間がかかることがままある。それにしても、今日はさらに遅い。クラウドは出来るなら早く予定を終わらせ、バッツとのんびりする時間が欲しいと思っていたのだが、初手から躓いている。
いい加減声をかけようか。そんなことを考た瞬間、入口の布がめくれる音と共に朗らかな声がかかった。
「お待たせクラウド! 行こうぜ!」
ようやくか、と出てきたバッツの姿をなんとなしに見て、クラウドはブレイクを受けたように動きを止めた。
服装はいつものとおりの服だ。小手が少し違う気がするが、いつもの服だ。だが、今日はその頭をなぜか色とりどりの布が彩っていた。
「その頭はなんだ」
「ん? リボン装備だよ。見たことなかったっけ?」
近づいてくるバッツが、笑いながら頭の布を一房摘まんだ。凝視すると、それは一枚の布ではなく、太さの違う長い布の束のようだった。リボンは女性専用の装備だったと思ったが、武器だけでなく防具もあらゆるものを扱えるバッツだからこそ装備できるものなのだろう。確かティナは一つ結びの髪をまとめるのに使っていたと記憶しているが、バッツはまるでハチマキやヘアバンドのように頭に巻いて身に着けている。そう使ってもいいのかどうかは、装飾に疎いクラウドにはわからない。意外と似合ってる気がするのは、おそらく欲目だ。
「ほら、今日はお前の誕生日だろ?」
クラウドは首をかしげた。時が止まったようなこの世界に日時などあるのだろうか。どこかのひずみで目にしたのかもしれないが、あまり気にしていなかったからわからない。
「……そうだったか?」
「ティーダがそう言ってたけど、違うのか?」
今度はバッツが首をかしげてこちらを見る。動きに合わせてはらはらとリボンが揺れた。そう言えばそんな話をしたかもしれない、とクラウドは深く考えないことにした。
「それで、その装備なのか」
「おう!」
質問続きのクラウドを気にすることなく、バッツが笑って胸を張った。
「ジタンに『もうすぐクラウドの誕生日なんだけど何をあげたらいいと思う?』って相談したら、『おまえがリボンでもつけて二人でどっか行ったらいいんじゃないか』って提案してくれたからさ」
そうじゃない、その答えはそういう意味じゃない。
クラウドは内心で頭を抱えた。そんなところはジタンの世界と共通なのか。ジタンの言葉の本当の意味を、瞬時に理解してしまった自分が恨めしい。そして、全く知らないらしいバッツが額面通りに受け取っているのも、恨めしい。
内心だけに留めたはずなのに、表情が動いていたらしい。クラウドを見てなにかを勘違いしたバッツが、早口でまくし立てた。
「リボンはリボンでもスーパーリボンだぞ! モーグリのお守りが壊れないから、いくらでも戦えるぞ! あと、コスモスに頼んでライズとドロップも起こりやすくしてもらったからな! なんでも手に入れてみせるぜ!」
そうじゃない。そうじゃないんだ。
言いたい言葉を飲み込んで、クラウドの口はなんとか別の言葉を紡ぐ。
「そうか」
クラウドの答えに納得したらしいバッツが相好を崩した。目まぐるしく変わる表情が再び笑顔に戻って、クラウドも息をついて表情を緩める。
「他の装備もか?」
「ああ、盗賊の小手にモーグリのお守りとフォーチュンリング、素材アイテムも一杯持ってきた。あとサンライズと、セシルがくれたすべすべオイルも持ってきたぞ。ライズでも問題ないからな!」
「…………」
セシルのやつ、とクラウドは胸中で再びごちた。いや、酷い言いがかりをつけてはいけない。クラウドとバッツの関係を知っているジタンとは違い、セシルは何も知らないはずだ。おそらくバッツに話を聞いて、好意で用意してくれたはずだ。
クラウドが頭に手を当てて自分にそう言い聞かせている隣で、リボンを左右に揺らしながら、バッツが周囲を見回す。探索予定になっていた他の仲間が、すでに出かけたことを確認したようだ。
「話しこんじまったな。おれたちも行こうぜ!」
「ああ」
どこへ行く? と言いながら、クラウドを置いて走り出したバッツの後頭部に、リボンが鮮明にたなびく。こちらを誘うように動くリボンを追いかけて、クラウドも歩き始めた。
用意されたプレゼントは、後でゆっくり封を開けようと思う。