輝き始めた光たち
ひずみの調査から本日の野営地へと戻った光の戦士は、この日同行していたフリオニールに待機していた仲間への帰還連絡を任せ、一人周辺の哨戒をしていた。野営地から少し離れた場所まで歩いたところで、赤の色彩が彼の目に留まる。そこにいたのはオニオンナイトとティナだ。この二人が一緒にいることは良く見る光景だったが、普段とは異なる雰囲気に光の戦士は足を止めた。よく見れば憮然とした表情で腕を組み黙り込んでいる少年を、少女が少し困った様子で見守っている状態のようだ。
周囲を警戒しているのがオニオンナイトではないことも珍しいが、普段からティナに負担をかけないようにふるまう彼が、彼女を困らせていることが気にかかる。そうさせるだけの何かがあったのだと判断した光の戦士は、ためらいなく二人のほうへと足を向けた。身につけた鎧が鳴らす音に、まずティナが光の戦士を振り返る。
「おかえりなさい」
「ああ」
彼女の挨拶に光の戦士は頷きを返す。そのやり取りに、初めて光の戦士が傍にいることに気づいたオニオンナイトが、ぱっと立ち上がった。勢いでずれた兜を慌てて直しながら、光の戦士の下へ駆け寄った。
「おかえりなさい。無事でよかったです」
「ああ。――何かあったのか?」
「え?」
「考え込んでいたようだったが、問題でもあったのだろうか?」
光の戦士の言葉に先ほどまでの様子を問われているのだと察したオニオンナイトは、目線を少しさまよわせた後、ぼそぼそと話し始めた。
「さっきまでジタンたちと装備品の整理をしていたんだけど、そこで皆が何才なのかって話になって」
普段に比べて歯切れが悪い少年の話をまとめると、その席でティナと光の戦士を除いた他の戦士達の年齢を改めて確認したということだった。オニオンナイトにとっては、自分が最年少であることを痛感しただけの出来事であったという。
「ティーダからは『やっぱりたまが一番下ッスよね』とか言われるし。まったく……」
説明を終えたオニオンナイトが、不満げな声音でつぶやく。説明にずっと耳を傾けていた光の戦士が、少年の不機嫌な様子を気にすることなく、普段と変わらない調子で尋ねた。
「聞いてもいいだろうか」
光の戦士の静かな声に、オニオンナイトが気を取り直して顔を向ける。その目を正面から見つめ、戦士は少年へと問いかけた。
「年齢とは、その数が少ないと何か問題が発生するものなのだろうか?」
発せられた疑問にオニオンナイトはぽかんと口を開けた。内容をそのまま受け取ればそれを一番年下の自分に聞かないで欲しいと思うような質問だったのだが、光の戦士の声色には嫌味がまるでなかったため、却って口に乗せる言葉を見つけられない。戸惑う少年に、彼は追撃のごとく質問を続けた。
「私は自分の年齢を思い出せないのだが、問題になるだろうか。もしかしたら、君より私のほうが年下かもしれない」
至極真面目な口調で続いた台詞にオニオンナイトは思わず「まさか」と言いかけたが、彼の年齢が分からない状況で言っても説得力がないと、直前で口を噤む。困り果てた少年に助け船を出すように声をあげたのは、ずっと二人の話を黙って聞いていたティナだった。
「大丈夫じゃないかな」
柔らかくも芯のある一言に、光の戦士とオニオンナイトが同時にティナを見る。二人の視線をまっすぐ受け止めて、少女は続けた。
「年齢がいくつとかの前に、みんな仲間だから」
「そ、そうですよ!」
ティナの意見にオニオンナイトも声を重ねる。
「年なんて関係ないです! 貴方は皆の前に立って歩いてるし、自分の意志をずっと貫いてる。とても立派で――僕は、尊敬してます」
二人の言葉に、光の戦士は厳かな声でありがとうと告げた。そして、オニオンナイトへ改めて向き直ると、口を開いた。
「私こそ、君のことを立派な戦士と思っている。他の皆も同じだろう」
「……あ、ありがとう、ございます」
自分が掛けた言葉をそのまま返されたような形になった少年は、顔を赤くしながらも目を逸らすことなく礼を言った。そんな少年の様子に、やりとりを見守っていたティナが顔をほころばせた。同じく目を細めた光の戦士が、次に視線を少年から少女へと移した。
「もうひとつ、ティナに聞いてもいいだろうか」
「わたし?」
「ああ。――ティナ、君の年齢はいくつなのだろうか? 先ほどの話の中では、君の年齢が出ていなかったようなのでな」
光の戦士にとっては事実の確認以外の意図はない問いかけだったが、隣で聞いていたオニオンナイトは一人焦る。説明の際に彼女の年齢が出なかった理由は「女性に年を聞くなんて!」と憤慨したジタンが話題を打ち切ったためだが、彼はそういったことに疎いらしい。しかし、同じ理由を挙げて少年が制止しようとする前に、ティナが答えを口にした。
「十八だよ」
「えっ!?」
その数字に大きな声を上げたのはオニオンナイトだった。質問を投げた当人である光の戦士は年齢というものに実感がないため、そうかと頷いただけだ。驚いたまま固まってしまった少年にティナは首をかしげる。
「意外、かな?」
「え、ええと」
不思議そうに聞いてきた少女に、少年は言葉を詰まらせる。
再び考え込んでしまったオニオンナイトを見ていた光の戦士が、突然体を野営地の方へ向けた。つられるようにティナが同じ方向を見やる。彼らの目線の先には、こちらへ近づいてくる旅人の姿があった。
「三人ともここにいたんだな」
バッツが声をかけたとき、ようやくオニオンナイトが顔をあげた。その様子を目にしたバッツが、少年へ問いかける。
「オニオン、さっきのことまだ気にしてるのか?」
「その話はさっき終わったところ! 蒸し返さないでよ!」
旅人の言葉にオニオンナイトが大声で言い返す。その声音が存外怒っていないことに気づいたバッツが、確認するようにティナを見た。少女は何も心配ないというように微笑んでいる。それだけで、旅人は納得したらしい。彼はそうかと頷いて、光の戦士のほうへ向き直った。
「飯の準備できた、って呼びにきたんだ」
ウォーリアも一緒にいてよかったと言うバッツに、光の戦士は首肯した。
「行こう。皆を待たせている」
告げた言葉に三人が頷くのを確認し、勇者は野営地へと歩き出した。