上昇気流の集う先

 それは、今日の集合地点である小高い丘の片隅で、クラウドとフリオニールと僕がそれぞれの手持ちの武器の整備をしていたときだった。とはいってもクラウドと僕は既に整備を終えていて、手持ちの武器が多いフリオニールの整備の手伝いを始めようとしたところだった。地面を踏みしめる音に顔を上げると、僕たちの元に向かってティーダが駆けて来る姿が見えた。
「ただいまッス!」
 明るい声で言いながらあっという間にこちらにたどり着いた彼は、今日は珍しく僕たちとではなく光の戦士と共に探索に出かけていたのだけども、特に大きな怪我もなく戻ってきたようだ。お帰りと僕が声をかけると、ティーダはただいまセシル! と言いながら僕の脇に腰を下ろした。彼はなぜだかはわからないけど凄く興奮していて、そのままこちらに身を乗り出してきた。
「さっき、ジタンから驚きの話を聞いたんスよ!」
「驚きの話?」
「バッツってオレより年上だったんスよ! 二十歳だって! んで、スコールがオレと同じ十七歳だって!」
「……は?」
 ティーダの発言に一番反応したのは、整備をしながらなんとなしに僕たちの会話を聞き流していたフリオニールだった。手元が狂ったらしく、彼が調弦していた弓がいやな音を立てた。あれはやり直しだなぁ、なんて僕がのんきに考えていると、なんとか気を取り直したらしいフリオニールが疑いのまなざしをティーダに向けた。
「ティーダ、それはジタンに冗談を言われたんじゃないか?」
「本当みたいなんスよ! ジタンががっくりしながら『オレが一番年下だった』とか言うから、うそーバッツが年上でジタンが年下!? ってオレもうなんかぐるぐるしたッス」
「ティーダとスコールが同い年……」
 呆然とした様子でつぶやいたフリオニールと、フリオニールが共感したことに満足した様子のティーダを見て、そういえばクラウドはどう思ったんだろう、と彼に視線を向けると、彼は何かを考え込むようにうつむいていたので、やはり先ほどの話に驚いたのだろうと判断した。僕はといえば、ティーダが最後に言ったジタンがティーダより年下、ということに一番驚いた。ジタンは軽い口調とは裏腹にしっかり者だったから、彼は種族の特性で背が低いだけで歳は僕とそう変わらないんじゃないかと思っていた。
「んで、オレ、フリオニールたちはいくつなんだろ? って気になったんスよ」
 その声にティーダへ顔を向けなおすと、ティーダが太陽のような笑顔を僕たちに向けていた。興味津々なその様子に自然と僕の顔にも笑顔が浮かんだ。ティーダの言った言葉の中にある質問に、気づいているのかいないのかクラウドもフリオニールも声を上げないので、僕が先陣を切った。
「僕はバッツと同い年だよ」
「えっ、そうなんスか? じゃあ、バッツとスコールの立ち位置がセシルとオレって事ッスね」
「そうだね」
「……それは少し違うんじゃないか?」
 おもわず言葉が出たらしいクラウドに、そうかなと僕が言葉を返すと彼が黙って頷いた。クラウドからは僕とバッツは言動が全く違うように見えてるみたいだからそう思ったのかな、と納得する。そんな僕たちのやり取りをよそに、ティーダはフリオニールに年齢を尋ねていた。
「フリオニールはいくつなんスか?」
「俺か? ……たしか十八ぐらい、だったような」
 フリオニールの答えはあいまいだった。これははぐらかしたのではなく、覚えていないのだと僕は気づいた。みんながクリスタルを手に入れてから少しずつもとの世界の記憶が戻ってきているとはいえ、その速度は人によってまちまちらしい。この四人の中でクリスタルを手に入れたのが最後だったフリオニールはおそらく僕らよりもまだ記憶も不確かなんだろう。僕と同じ事に気づいたのかはわからないけど、ティーダが、そッスかと軽く受け流して矛先をクラウドに変えた。
「クラウドは?」
「十六」
 クラウドの口から出たその数字を聞いた瞬間、フリオニールが手に持っていた弓を取り落とし、ティーダが石化したように固まった。そんな二人の様子を何とか視界に入れた僕も、クラウドが年下という衝撃に、思わずまじまじと彼を見つめてしまった。僕たちの視線を集めた当の本人は、口元を緩めてこう付け加えた。
「……ウソだ」
 固まった場の空気を打ち壊すその言葉に、石化が解けたティーダがへなへなと肩を落とした。フリオニールと僕はそろって大きく息をついた。
「めちゃくちゃびっくりしたッス……」
「俺も」
「僕もだよ」
 そんな僕たちの反応を見たクラウドが、すまないと小さくつぶやいた。そんな様子を見ながら、クラウドは意外とお茶目なんだと認識を新たにした僕の隣で、気を取り直したティーダがもう一度同じ質問を投げた。
「んで、クラウドの本当の年はいくつなんスか?」
「二十一だ」
「今度は本当ッスか?」
「ああ」
 念を入れて確認するティーダと胸をなでおろしているフリオニールに、そこまで疑ったり怯えなくてもいいと思うけどと考えながら、僕は話を継ぐためにクラウドに声をかけた。
「今わかってる中では、クラウドが一番年上なんだね」
「……そうだな」
 僕の言葉に少し間をおいてそう答えたクラウドは、どことなく寂しそうな顔をしていたんだけど、そのことを聞こうか聞くまいか迷っているうちに遠くから光の戦士の集合の呼び声が聞こえてきて、僕たちは話を切り上げることになった。

2012-08-12
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