ホームページ タイトル

 

 韓国ネット言論 PRESSIAN 世界ニュース2013517日付)
http://www.pressian.com/article/article.asp?article_num=10130516175505&Section=05

 

           日本右翼の朝鮮学校弾圧、65年過ぎた今も・・・ 

[寄稿] ジュネーブに飛んだ、朝鮮学校オモニたちの鶴

 

 

藤永 壮(大阪産業大学教授

 

 

 

19484月の教育闘争

 

424日は、在日韓国人の脳裏に深く刻まれた日だ。今から65年前、即ち1948年のこの日、民族学校の強制閉鎖に抗議し、数千名の在日韓国人が兵庫県庁(神戸市)に押しかけて、県知事から民族学校の閉鎖を撤回すると言う約束を受け取った。

この闘争の背景には次の様な事情がある。日帝植民地時代、在日韓国人は、日本の同化政策により自民族の言語や文化を学ぶ機会を奪われた。ここに解放を迎えるや、日本各地に‘国語講習所’を起こし、子供達にウリマルを教えたが、しばらくして、体系的な教育プログラムを備えた民族学校に発展して行った。しかし、米ソ対立が激化される中で、日本を占領していたGHQ(連合国軍最高司令官総指令部)と日本政府は、当時最大の民族団体だった‘在日本朝鮮人連盟(朝連)’傘下の民族学校が、共産主義教育を実施すると言う疑懼心(ぎくしん)を持って弾圧に着手したのだ。

1948124日、日本文部省は各都道府県宛てに通達を下達した。在日韓国人の子供達を、日本の小・中学校に通わす様にする事、民族学校の正規科目から韓国語を除外する事などを指示した。また文部省は、この通達に従わない民族学校は閉鎖するように、各都道府県に命令を下し、同じ年3月から4月まで、山口、岡山、兵庫、大阪、東京の民族学校に対し、閉鎖命令が下されたのだ。

閉鎖撤回を要求して、民族学校関係者と学父母・学生達は、激烈な抗議活動を広げた。その中の一つが、先ほど言及した424日に成し遂げられた兵庫県知事との団体交渉だ。しかし、日本を占領していた米第8軍は、その日深夜に、兵庫県知事の約束が源泉(元々)無効である事を宣言する事と同時に、神戸市全域に非常事態を宣布した。この様にして、日本警察とMP(米軍憲兵)に依って在日韓国人に対する無差別検挙が行われ、4日の間で検挙者が1973名に達した。また大阪では、426日に大阪府庁舎前で、抗議集会に参加した16才のキム・テイル少年が、警察官の発砲で死亡する事件が発生した。この様に大阪と神戸で熾烈な闘争を象徴する事件が相次ぎ発生した為、当時の抗議闘争は、たびたび‘4.24阪神教育闘争’と呼ばれる。それ以外にも、山口と岡山、東京など、学校閉鎖が強行された地域でも抗議闘争が展開された事は無論だ。

当時、米極東軍総指令部は、在日韓国人がチェジュ4.3事件など、南韓の単独選挙実施と単独政府樹立反対闘争と連帯し、示威・暴動を引き起こす可能性を警戒していた。これは逆説的に、民族の主体性の回復と言う譲歩出来ない課題に直面した在日韓国人の教育闘争が、祖国の分断反対闘争と、目標を共にしていた事を意味する。

一方、55日、日本文部省と朝連系の‘朝鮮人教育対策委員会’間で覚書が交付され、民族学校に対する弾圧は一但中止された。しかし覚書に基づいて、私立学校として認可された民族学校は全体の4割に過ぎなかったのであり、次の年である19499月に朝連に強制解散されるや、10月には朝連傘下の民族学校も結局強制閉鎖、或いは改編に追い立てられる事となったのだ。                                         

      

△写真上19484月、教育闘争を題材とした、Unit‘航路’のマダン劇訳注―朝鮮近代以前の伝統演技を現代に継承した演劇様式)‘Oゼロ’。大阪公演は超満員となった観客に、大きい感動を与えた。(写真―藤永壮)

 

最近に、日本政府による朝鮮学校に対する弾圧政策は、この様な19484月の教育闘争を、今一度想起せざるを得ない。教育闘争65周年を迎えて今年4月、銃弾に倒れて逝ったキム・テオン少年が眠る東京青山墓地で、教育闘争を描いたマダン劇が上演され、超満員に達した観客達に大きい感動を与えた。


‘教育無償化’制度の改悪と裁判闘争

ところで、前回の寄稿で伝えた様に、昨年1226日に成立した自民党の安倍晋三政権は、発足直後、朝鮮学校に対する‘教育無償化’制度不適用方針を明らかにしたのだ。
(在日朝鮮人の人権を無視した安倍新政権/韓国・PRESSIAN 2013年1月9日付)

これに対し、大阪府の朝鮮学校10ヶ校の経営母体である、学校法人大阪朝鮮学園は、今年124日、‘高校無償化’制度に基づく就学支援金指定の申請に対し、文部科学大臣が如何なる措置も取らないのは違法だとし(不作為の違法確認)、大阪朝鮮学園の無償化指定を要求し(義務負担訴訟)日本国家を提訴した

また同じ日、名古屋では愛知朝鮮高級学校の在学生と卒業生5名が就学支援金の支給排除による精神的苦痛に対し、国家賠償を請求する訴訟を起こした。

しかし安倍政権は、220日、朝鮮学校を‘高校無償化’制度から排除する為の文部科学省令を改悪し、日本全国の朝鮮高級学校10ヶ校に不指定通知を送付した。各朝鮮高級学校に送った通知書には、不指定の理由として‘無償化’適用の法的根拠が消えた事に加え、就学支援金が授業料として確実に学生の為に使用されると言う確証が無い点を取り上げた。後者は、不指定通知書に新しく付け加えられた論点として、今後裁判で日本国家側がどんな主張を展開するのか、注視する必要がある。

下村博文文部科学大臣は、制度改悪に先立って、朝鮮学校が日本の学校教育法に基づいた‘学校’(いわゆる ‘一条校’)として、方向を転換すれば‘高校無償化’の適用対象になると語った。
下村博文文部科學大臣記者會見/2013年 2月 19日)

しかし、これは‘日本語’科目だけ除くすべての授業を、ウリマル(朝鮮語)で実施して来た朝鮮学校の教育方針を放棄する事を意味する。韓国系民族学校の中には、確実に‘一条校’を選択した学校もある。しかし、そんな判断をそれぞれの学校に委ねることで、就学支援金を条件として‘一条校’になれと強要する遣り方は、マイノリティーの教育権を保障する国際人権法の規定に明らかに違反する。

下村文部科学大臣の発言の背後に見えるものは、朝鮮学校で実施する民族教育の骨組を取り除き、日本の国家権力の管理、統制の下に置こうとする同化主義的発想に違いない。

文部科学省令の改悪と‘無償化’不指定の通知を受けた大阪朝鮮学園は311日、訴訟内容の一部を‘不作為の違法確認’から、‘不指定処分取り消し’に変更した中で、第一回口頭弁論が2日後である313日に開かれた。同様に、大阪以外の朝鮮高級学校9ヶ校も、不指定処分に即時異議申請を出し、特に東京と広島では、現在訴訟を準備中だと言う。そして昨年9月、補助金交付復活を要求して、大阪朝鮮学園が大阪府と大阪市を提訴した裁判も、さる411日に第3回口頭弁論を終えた。
(ホン・ギルドン、大阪府・大阪市を訴える/韓国PRESSIAN 2012年12月2日付)

地に堕ちた日本の人権感覚

一方、この様な裁判闘争の拡大の動きを牽制し様とするかの様に、昨年1226日、今度は大阪市が、反対に大阪朝鮮学園を相手に、中大阪朝鮮初級学校(大阪市東成区)の敷地として、長い間使用してきた市有地に対し明け渡し要求訴訟を出した事が明らかとなった。中大阪朝鮮初級学校の敷地が、大阪市から無償貸与されたのは、1950年から1961年まで同校の前身である民族学校が大阪の私立中学校として運営された歴史的経緯によったものだ。その事情は若干複雑なので、詳しい経緯は次の機会に持ち越す。ただ、ここで指摘しなければならない点は、大阪市は今まで、民族教育に対する一定の理解を見せてきたが、今回これを、全面的に覆したと言う事だ。

敷地問題は、2009年から大阪市と大阪朝鮮学園の間に、合意が持続されていたのに、大阪市側が一方的にこれを中断し提訴したのは、民族教育の権利を、まさに正面から踏みにじる暴挙だと言わざるを得ない。

             

△写真上−2013331日、東京日比谷野外音楽堂で開催された‘<朝鮮学校排除NO!すべての子供達に学ぶ権利を!>全国集会&パレード’には、約7500名が参加した。(写真―藤永壮)

そして、もう一度強調しなければならない点は、朝鮮学校を‘高校無償化’制度から排除する為に遡及して規則を変更した、日本政府の常識から外れた仕打ちが、“在日韓国人は差別されて当たり前だ”と言う、間違ったメッセイジを日本社会に発信していると言う点だ。

44日、東京の町田市教育委員会が、市内の初等学校に通う学生達に配布する防犯ブザーを、北韓の情勢等を理由に朝鮮初級学校の学生達にだけ、配布を中止した事実が明らかになった。町田市教育委員会は、北韓に不信感をもっている‘国民感情’を‘配慮’し、北韓と関係がある学校の子供達は安全性の配慮をする必要がないと言う、実に信じ難い決定を下したのだ。

各方面から夥しい抗議を受けて、この決定は直ぐ撤回された。しかし、‘国民感情’を理由として、在日韓国人に対する差別と人権侵害が正当化される、恐るべき事態が日本社会に広がって行っている事が、この事件を通して明白となった。今年春には、東京と大阪のコリアタウンで排外主義団体が韓国人に対する‘ヘイトスピーチ(人種などの属性に関連された侮辱的で攻撃的な表現)’を公然と恣行(しこう/勝手気まま)したが、日本政府と地方自治体による朝鮮学校に対する差別政策がこの様な動きを助長している事は、疑う余地がない。

ジュネーブで飛び立ったオモニたちの鶴

 

日本政府による朝鮮学校の‘無償化’排除と、相次ぐ地方自治体の補助金停止に抗議し、今年春には日本各地で、多様な集会と示威が展開された。324日、名古屋では約500名が集まり、‘朝鮮高校就学支援金差別、憲法違反訴訟決起集会’が開かれた。同じ日、大阪では約2500名が参加した中で、‘朝鮮学校ええじゃないか!春のモアパレード’が開催された。そして331日、東京で開催された‘<朝鮮学校排除NO!すべての子供達に学ぶ権利を!全国集会&パレード’では、最近の一連の行事で最大規模である約7500名が参加した。それ以外でも、奈良、京都,福岡、広島、北海道、埼玉、山口などでも、抗議集会、或いはデモがあったのであり、日本弁護士連合会を始めとする各地の弁護士会と各地の市民団体などでも、相次いで抗議声明を発表した。

 

     

△写真上 324日、大阪扇町公園で開催された‘朝鮮学校ええじゃないか!春のモアパレード’には約2500名が参加した。写真は、関西地方朝鮮学校オモニ会代表達。(写真―藤永壮)

特に、今年春に、幅広い共感と支持の中で展開された活動が、群馬朝鮮初中級学校のオモニ会が発議した‘わが夢、我が心のプロジェクトだ。’昨年9月、東京で開かれた第9回中央オモニ大会で朝鮮学校に対する‘高校無償化’制度適用を国際世論に訴える為に、20134月にスイスのジュネーブで開かれる国連社会権規約委員会に代表を派遣する事が決定された。中央オモニ大会は、日本全国の朝鮮学校学生のオモニ達が主催するイベントとして、講演、ワークショップ、経験交流、演劇、ビデオ上映など、多彩な企画で仕立てられる。

日本は、国連の社会権規約(国際人権A規約1966年採択)に加入しているので、規約の実施状況に対し、定期的に社会権規約委員会の審査を受ける義務がある。2013年には、12年ぶりに、日本政府の報告書に対する審査が予定されており、予備審査で作成された日本政府に対する質問事項は、20125月に公表された。そこでは、在日韓国人の子供達が適切な経済的負担で、教育を受ける事が出来る措置に対し、またマイノリティーの学校に実施される財政的な援助に対し、詳しい情報提供を要求したのだ。そこでオモニ達は、これに対する日本政府の報告書が審査される場に、代表団を送る事にしたのだ。

‘我が夢、我が心プロジェクト’は、‘高校無償化’実現を願い、朝鮮学校に通う子女を持ったオモニ達の‘夢’と‘心’を込めた色紙の鶴を、国連と日本政府に送る企画だ。群馬のオモニ達の訴えに応じて、日本各地は無論のこと、韓国の市民団体‘短い鉛筆’でも、3770羽の鶴を送ってきたし、そのほかに北韓とガーナなどからも、折り鶴を送ってきた。各地で集まった折り鶴は、合計38582羽に達した。代表団の活動資金のための募金も、430日現在、5891288円が集まったと言う。(わが夢わが心のプログ)

ジューネーブでの活動に先立って、425日、約150名のオモニ達は、折鶴を手に手に持って、衆議院議員会館で開かれた抗議集会に参加し、文部科学省を訪問し無償化の即刻適用と補助金復活を要求した。そして、折鶴と一緒にジュネーブに発った5名のオモニ代表団は、チマチョゴリを着て429日、社会権規約委員会の審査前日のNGOの集まりで、朝鮮学校をめぐる日本内の差別的状況を訴えたのだ。

しかし、つぎの日の430日の審査当日、日本政府代表団の発言は、朝鮮学校は朝鮮総連と密接な関係があり、いわゆる拉致問題に進展がない為に‘無償化’適用は‘国民の理解’を得られないと言うなどの従来の見解を繰り返した。

怒ったオモニ達は、日本政府の不誠実な陳述に抗議するため、折鶴を手に手にもってジュネーブの町をデモ行進した後、委員会会場である国連人権高等弁務官事務所周辺に座りこみ、朝鮮学校が置かれた不当な状況を訴えた。

連鎖籠城場には、日本政府の詭弁を恥じて、ここに日本のNGOメンバー達も合流したと言う。

オモニ達の夢と心を乗せた折鶴は、このようにして代表団の勇気と行動力に力を得て、遠いスイスのジュネーブの街で、色鮮やかに飛び立ったのだ。
                                             (訳 柴野貞夫 2013524日)

 

大阪朝鮮学校支援府民基金(ホンギルドン基金)hp

 

朝鮮高級学校の無償化を求める連絡会・大阪hp



<関連サイト>

 

●藤永壮教授の他の記事

 

世界を見る−世界の新聞から/ホン・ギルドン、大阪府・大阪市を訴える(韓国PRESSIAN 2012年12月2日付)

 

世界をみる−世界の新聞から/朝鮮学校差別は国際社会の笑い草 (韓国・統一ニュース 2012年12月30日付)


世界を見る−世界の新聞から/在日朝鮮人の人権を無視した安倍新政権(韓国・PRESSIAN 2013年1月9日付)

 


柴野貞夫時事問研究会論考

 

主張/「高等学校の授業料無償化」から、朝鮮学校を除外させてはならない(2010年3月8日)

論考/安倍政権の朝鮮学校無償化の根拠法令削除に抗議する(2013年1月23日)

 

関連記事

 

☆ 202 チョウセンジン’には、教育費の支援が勿体ないのか (韓国・ハンギョレ 2010年3月12日付)

 

民衆闘争報道/「朝鮮学校への高校無償化適用、子どもたちの学ぶ権利を守ろう」3月24日、大阪・扇町公園に2600名が集まった(2013年3月29日)