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韓国ネット言論 PRESSIAN 世界ニュース201319日付)

http://www.pressian.com/article/article.asp?article_num=10130109111851&Section=05

 

 

在日朝鮮人の人権を無視した安倍新政権

 

 

[寄稿] 朝鮮学校に対する‘無償化教育’排除の不当性

 

 

 

[藤永壮(ふじながたけし)大阪産業大学教授]


 

 

朝鮮学校に対する‘無償化’不適用が決定された

 

深い失望と憂鬱な気持ちで迎えた2013年の開幕だった。しかし逆境の中で、なんとか希望の光を見出す事を祈願しながら迎えた新年でもあった。

 

周知の通り、昨年1216日に実施された日本の総選挙で、自民党が圧勝し33か月ぶりに政権を再び取った。1226日には自民党党首、安倍晋三が5年ぶりに再び首相に就任し、安倍新政権が正式に出帆した。しかし、第2次安倍内閣の文部科学相に内定した下村博文が、就任する前から、所謂‘高校無償化’制度を、朝鮮高級学校には適用しない方針だと言う消息が伝えられた。

 

実際に、1228日の長官(閣僚)懇談会で、下村文部科学相が“拉致問題に進展がなく、朝鮮学校は朝鮮総連と密接な関係を持っており、[朝鮮学校の]教育内容と人事、財政面に影響を及ぼしている為に、[‘無償化’適用学校として]指定することは、国民の理解を得る事が出来ない”と主張するや、安倍首相は“そんな方向で着実にすすめてくれ”と回答し、その場で朝鮮学校を‘無償化’対象から排除する方針が決定されたという(<読売新聞>、20121228.夕刊)。

 

既に昨年11月に、自民党は‘無償化’を適用する外国人学校の基準を定めた文部科学省令の中で、朝鮮学校と関連する根拠条文を削除する法案を国会に提出した事があるので、いま政権政党となって、この方針を実行に移したのだ。

 

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△朝鮮学校を支援する街頭宣伝活動は、持続的に繰り拡げられている。写真は20127月、大阪市内の、或る駅前で実施された街頭行動 (写真出処− 藤永壮)

 

外国人学校に対する‘無償化’制度に対し、もう少し詳しく調べてみよう

 

所謂、‘高校無償化’とは、公立高等学校の学生から授業料を徴収せず、私立高等学校の学生にも公立学校の授業料に相当する‘就学支援金’を支給する制度だ。

日本の高等学校と同等な過程を設置した外国人学校(私立)の学生も、‘就学支援金’の支給対象であり、20104月に‘無償化’制度が始まった以降、その支給基準は文部科学省令によって次の様に定められた。

 

(イ) 大使館を通して、日本の高等学校の過程に相応する過程である事を確認する事が出来るもの。

(ロ) 国際的に実績がある学校評価団体の認証を受けている事を確認する事が出来るもの。

(ハ) (イ)、(ロ)以外、文部科学省が指定したもの。

 

(イ)に該当するものは、韓国学校、ドイツ学校、フランス学校、ブラジル学校などの‘民族系外国人学校’で、20122月現在、17個所の学校が指定されている。
(ロ)は、WASCCISACSIIBOなどの評価機関の認定を受けたインターナショナルスクールで、このような学校は、18個所が指定されている。.(文部科学省公立高校 授業料無償制、高等学校など就学支援金制度) 

 

そして、朝鮮高級学校は(ハ)に分類されているので、その審査基準は、授業年数と授業時間数、教員数と専門性、敷地・校舎面積などであり、これに基づいて朝鮮高級学校を審査すれば、‘無償化’対象として指定されるのは殆ど確実だった。

 

ところが、民主党政権の下では、朝鮮高級学校に対する審査が“終了に至らなかった”と言う理由で、事実上停止状態にあった。審査が長期化する理由に対し文部科学省は、“報道などで指摘された内容の中に、審査と関係するものに対し必要な確認をしている”と説明している。(<朝鮮新報>20124.12)

 

右派言論が朝鮮学校を攻撃する時ごとに、その報道内容を確認する途中だから、審査が終了に至らなかったと言うのだ。

 

また、“北韓とは国交がなく、教育過程の内容を確認することが出来ず、継続審査中だ”(<毎日新聞>201212.28.朝刊)とも報道されたが、元来、(ハ)の審査基準は前に言及した通り、教育施設として体制を備えているのかと言う観点から定められたもので、北韓との国交や教育過程の内容確認は、審査とはどんな関係もない。この様に至極政治的であって、恣意的な判断により、日本全国にある10個所の朝鮮高級学校だけが‘無償化’から排除されて来たのだ。

 

そして、今回成立した自民党新政権は、先に見た(ハ)の規定自体を削除することにしたのだ。すでに<PRESSIAN>で招介した様に、自民党は野党時代から朝鮮高級学校は‘無償化’の対象に含ませないと主張した為に‘無償化’不適用の方針は或る程度予想する事が出来た。, 2012.8.29)

 

しかし、朝鮮高級学校の学生を、就学支援金の支給対象から除外するために、法の条項それ自体を変更する、その卑劣な手段には憤怒を禁じ得ない。

 

下村文部科学相は、1228日の記者会見で“子供たちは無辜であり、民族差別ではない”と語ったと言うが(<朝日新聞>20121229日、朝刊)日本の学校や、他の外国人学校には‘無償化’を適用し、朝鮮学校にだけ適用しないのが差別でなければ、何だと言うのだ。自分たちが敵対視する者に対しては攻撃の手段を選ばないのが、安倍新政権の本質の様だ。

 

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△大阪朝鮮高級学校卒業生が、自分の美術作品に盛った考えを話している。写真は在日同胞と日本人の若者が中心となり、昨年1127日に開催された<朝鮮学校いいじゃないの!;等身大の朝鮮学校を見て、聞いて、話をしよう!>と言う行事の一場面(写真出処− 藤永壮)

 

‘無償化’不適用の影響

  

朝鮮高級学校の学生に対する‘無償化’不適用は、直接的には父兄の経済的負担に大きい影響を及ぼすこととなる。まず、‘無償化’実施にともなう税制改編で2010年度以降、満1618歳の子女がいる世帯に対する‘特定扶養控除’額が削減された。その結果、例をあげると、父兄の年間収入が400万円である場合には24500円、600万円である場合には37000円が増税された。‘無償化’から排除された朝鮮高級学校の父兄には、増税分がそのまま、新しい経済的負担となる計算だ。

 

特に、大阪府の場合には‘無償化’政策と連動し、2010年度に‘私立高等学校など授業料支援補助金’制度を発足させたのに、この制度も、朝鮮高級学校学生には適用されていない。この制度は、私立高等学校学生などに対し、国家から支給する就学支援金に加え、大阪府が独自的に補助金を支給することで、年間収入が約350万円未満である世帯には授業料を実質的に無償化する事などを内容としている。

 

大阪朝鮮高級学校の学生も、当初には交付対象だったが、‘無償化’除外の決定で、支給の展望が消えてしまった。即ち、大阪府では公立、私立を問わず、殆どすべての高等学校の学生の授業料が無償化されたが、朝鮮高級学校の学生だけが、年間約45万円の授業料を出さなければならない深刻な格差が生じたのだ。

 

こんな経済的負担の格差によって、朝鮮高級学校の学生数が減少しないか、憂慮される。日本社会の出生率の減少で、在日韓国人の世代も、最近出生率が低くなっている。それによって、朝鮮学校学生数も最近急激に減って、学校の統廃合が進められる事となった。大阪朝鮮高級学校の場合にも1999年度に606名だった学生数が2012年度には362名に大幅減少した。こんな学生数の減少傾向に、さらに拍車を加えるのではないか心配になる。

 

また、学生数減少による授業料、入学金などの納付金収入の減少は、朝鮮学校の経営基盤の脆弱化に直結する。大阪府にある10個所の朝鮮学校の経営母体である学校法人・大阪朝鮮学園の収入内訳をみれば、2010年度には学生などの納付金が、約46028万円で、収入の57.3%を占めていた。しかし、2010年度は大幅に減額されたが、まだ大阪府などから補助金12266万円を受けていたのであり、これは収入の200%に相当する。 (学校法人 大阪朝鮮学園<平成22(2010)年度事業報告書)

 

それ故、補助金が大部分停止された現在では、学生たちの納付金が占める比率が70%近くに達するはずだ。要するに、朝鮮学校は、納付金収入の他に、これと言う収入源がない状況に置かれたのだ。こんな中で、学生数の激減は、学校の財政基盤をゆるがす事になる。

 

財政問題は、長期的には、無論、朝鮮学校が自体的(自主的)に解決方法を模索しなければいけないだろう。しかし一方、その前提として、子供たちが民族教育を受ける事を願う父兄達には、彼らの意向が保障される制度を国家が準備しなければならない。今回の自民党政権の措置は、こんな制度の存在意義を正面から否定しようとする事に他ならない。

 

逆境の中で

 

国際人権法の規定には、国家(また 地方自治体)は、少数民族、少数(民族)集団の教育実現と促進を図る為、積極的な措置を講究する義務を負わしている。この問題に対する詳しい論議は、次の機会に持ち越すが、国際人権法と関連して、昨年、日本政府が行った重要な決定を招介しよう。

 

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     △大阪市内の、或る朝鮮初級学校公開授業の現場(写真出処− 藤永壮)

 

日本が、国際人権A規約(いわゆる‘社会権規約’)を批准したのは1979年だった。しかし、その第132項の(b)(c)、即ち、中高等教育の機会均等を定めた条項の中で、日本は‘無償教育の漸進的導入’と言う規定を昨年まで留保していた。ところが、‘高校無償化’政策の施行で昨年911日、当時の野田佳彦民主党内閣が、この規定に対する留保撤回を決定し、直ぐ国連事務局長に通知したのだ。

 

朝鮮学校を含んだ外国人学校の、中高等教育も当然‘無償教育の漸進的な導入’の対象となる。したがって、今回の安倍政権の朝鮮高級学校に対する‘無償化’不適用方針は、国際人権法の精神に照らし、社会権規約の規定を受け入れると言う国際的約束に違反する措置に他ならない。

 

大阪朝鮮学園は、すでに昨年9月、大阪市と大阪府を相手に、補助金復活を要求する訴訟を出したところだ。自民党政権が、この様にまで悪意を持って朝鮮学校に対し‘軍糧(兵糧攻め)攻撃’を敢行する以上、国家に対する訴訟も避ける事は出来ないようだ。名古屋でも朝鮮学校に対する‘無償化’適用を要求する提訴準備が進行中だと言う。

 

逆境のなかで、希望の光は、坐って待つだけでは得る事は出来ない。

韓国に居られる方々に、継続して朝鮮学校に対する声援の灯火を、高くもちあげて頂く事をお願いする。

                                              (訳 柴野貞夫 2013110)

 

 

<関連サイト>

 

世界を見る−世界の新聞から/ホン・ギルドン、大阪府・大阪市を訴える(韓国PRESSIAN 2012年12月2日付) 

世界をみる−世界の新聞から/朝鮮学校差別は国際社会の笑い草 (韓国・統一ニュース 2012年12月30日付)