(韓国ネット言論 PRESSIAN 世界ニュース2012年12月2日)
http://www.pressian.com/article/article.asp?article_num=30121130112928&Section=05
ホン・ギルドン(訳注-下記)、大阪府・大阪市を訴える
[寄稿]法廷闘争が始まった朝鮮学校の秋
藤永壮(ふじながたけし) 日本・大阪産業大教授
訳者解題
[訳注―「ホン・ギルドン」とは、朝鮮王朝中期の許筠(ホギュン)が著わした、当時の社会矛盾を批判した[ 洪吉童(ホン・ギルドン)
伝] で、義賊として描かれた主人公の事である。
○この裁判は、「維新の会」に群がった反人権・政治ごろつき集団の不法行為を、司法の場で糾弾するものである。また「維新の会」が、総選挙において、安倍自民党と大連合を組み、憲法改悪によって国民の基本的権利を制約し戦争をする国家を作ろうとする事への戦いでもある。
去る9月20日、大阪の朝鮮学校の経営を受け持っている学校法人・大阪朝鮮学園は、大阪府と大阪市を相手に、2011年度分の補助金不交付の決定取り消しと、交付義務の賦課を要求する訴訟を大阪地方裁判所にかけた。
大阪市と大阪府を牛耳る「維新の会」、橋下市長と松井知事は、憲法に保障された子供たちの学習権、 普遍的人権として平等に保障されなければならない在日朝鮮人子弟の民族教育を受ける権利と、そもそも人間が等しく保障されるべき基本的人権を、自己の知的腐敗を示す政治的予断と、大資本の利益に従属させると言う抜きがたい反憲法意識によって、乱暴に否定しようとしている。
この裁判は、「維新の会」に群がった反人権・政治ごろつき集団の不法行為を、司法の場で糾弾するものである。それは同時に、「司法」と言う国家権力の中枢組織が、憲法の理念を貫き、それを蹂躙する者を容赦なく裁く事が出来るのかどうかを見守る場でもある。]
(本文)
法廷闘争が始まった朝鮮学校の秋
藤永壮 日本・大阪産業大教授
日本の秋は祝祭の季節だ。特に学校は、運動会と文化祭など、子供達が協同して開く行事で、1年中で最も忙しくて充実した時間を過ごす。
大阪に10カ所ある朝鮮学校(高級学校1校、中級学校1校、初中級学校1校、初級学校7校)の秋も、多様な行事で忙しい。年ごとに、この季節になると、多くの朝鮮学校で一般の人々を対象にした公開授業と秋の祝祭が同時に開かれる。典型的なプログラムは、午前に授業を参観し、午後には父兄たちが一日家を空け、準備したプルコギとチジミ、おでん、ノリ巻きなどを食べ、缶ビールを飲みながら子供達の合唱と楽器演奏、舞踊などの文化公演を楽しむのだ。
そして、参加者達を最後まで掴まえておくために、多くは行事の終わりに興味をそそる結構な景品を準備し、抽選をする。今年は特に、大阪朝鮮高級学校の創立60周年を迎え、11月23日記念祝典が開かれるので、文化公演に出演した幼稚園生の子供と、初中高級学校の学生達を含んで殆んど6000余名が、この行事に参加したと言う。
△大阪の或る朝鮮初級学校の秋祭りの風景。午前中に一般人を対象にした公開授業が開かれた、(写真・藤永壮)
△大阪朝鮮高級学校創立60周年記念祝典に、6000余名が参加した。写真は初・中・高級学校学生1300名が謳った開幕大合唱。(写真・藤永壮)
こんな公開行事が、年毎に活気に満ちて開催されるのは、朝鮮学校が民族教育の機関であるとともに、在日同胞のコミュニティーを維持、発展させて行く空間としての役割を受け持っている事を示すものと言えるだろう。その上これ等の行事は、地域住民を始めとして、日本人などの外国人にも広く開放され、外部の人々が朝鮮学校の実情に接する事が出来る貴重な機会となっている。
実は、朝鮮学校の公開行事が秋だけにあるのではない。一般人を対象にした公開授業を、春や冬の学期に開催する学校もあって、夏休みに、暑さを追い払う納涼祭りを催す学校もある。要するに、朝鮮学校は他の日本の学校より、遙かにもっと開かれた学校なのだ。
裁判闘争始まる
一方、大阪の朝鮮学校に来る秋は、法定闘争の開幕を告げる季節でもあった。
去る9月20日、大阪の朝鮮学校の経営を受け持っている学校法人・大阪朝鮮学院は、大阪府と大阪市を相手に、2011年度分の補助金不交付の決定取り消しと、交付義務賦課を要求する訴訟を大阪地方裁判所にかけた。
既に<プレシアン>に紹介された様に、大阪府・大阪市は今年3月、大阪朝鮮学園に対し、長い間支給してきた補助金を全面的に停止する決定を下したところである。これに大阪朝鮮学園の関係者と弁護士、また朝鮮学校を支援する市民グループの3者が中心となり、「朝鮮高級学校無償化を要求する連絡会・大阪」(以下‘連絡会’)を結成し、連絡会の下に朝鮮学校を財政的に支える為、‘大阪朝鮮学園支援 大阪府民基金’(別名‘ホン・ギルドン基金’)を置いて活動に入って行く事も伝えた通りだ。 .
△イラスト・ ノシンブ氏が描いたホン・ギルドン基金のキャラクター
12名のホン・ギルドン、いや、弁護士で構成された弁護人団(団長 丹羽雅雄弁護士)は、渾身を込めて訴状を作成してくれた。この訴状で弁護人団は、補助金不交付は、日本の現行国内法に照らして、憲法に保障された子供たちの学習権と幸福追求権を侵害しているのであり、私立学校法が定めた‘私立学校の自由’(教育内容決定の自由)にも反し、さらには国際人権法から見ても、民族教育は差別せず、平等に保障されなければならない普遍的人権として、補助金削減などの‘後退的措置’は、原則的に禁止されている点などを指摘し、補助金不交付の違法性を緻密に論証した
この様にして、第一回口頭弁論が、去る11月15日に大阪地方裁判所で開かれ、原告弁護人団による訴状要旨陳述と、ヒョン・ヨンソ大阪朝鮮学園理事長の代表意見陳術が行われた。平日にも拘らず、傍聴席が30余席である法廷に、傍聴希望者が150以上殺到し、次回(2013年1月22日)からは、傍聴席100席規模の大法廷に、審理場所を移す事となった。
訴状の要旨陳述を受け持った中森俊久弁護士は、次のような言葉で結んだ。
“自分が属する民族の言語で、その文化と歴史を守ってゆく権利が保障され、多民族・多文化が共生する社会の実現が要請される時代に、政治的また外交的理由で、子供達の権利が侵害される事があってはいけない。(社会的に)弱い立場に置かれた原告が、今まで必死に、どんな思いで学校を運営してきたのか、本件の不交付処分で、どれほど大きな打撃を受けているのか、それによって学校関係者と父兄、何よりも朝鮮学校に通う子供達が、現実的にどれほど大きな被害を負っているのか、原告が、どれだけ悔しく無念な心で、本訴訟を提起せざるを得なかったのか、裁判所は、朝鮮学校に通う多くの子供達の顔を常に念頭に置きながら本審理に臨んでもらう事を願い、訴訟のあらゆる意見陳術をするものである。” [日本語の原文は、大阪朝鮮学院支援府民基金]
今回の提訴は、表面的には行政訴訟であるが、その目的は、朝鮮学校に対する地方行政当局の差別政策に抗議し、補助金停止の不当性を広く世上に訴えるところにある。訴状には次のように言及されている。
“(補助金)不交付の理由は、明らかに政治的背景を持ち、さらにその背景の後ろには朝鮮学校に対する敵対視と差別、また、そんな政治と政治家の姿勢があり、こんな背景に起因する問題は、本件の対象事項に限定せず(日本社会に)広がっています。”
朝鮮学校に対する大阪府・大阪市など地方自治体の補助金停止と、その発端となった日本政府による‘高校無償化’適用保留などの差別的措置は、明らかに北韓を敵対視する政治勢力の意図に起因するものだ。しかし問題は、それだけで終わらない。朝鮮学校に対する差別政策を正当化する論理を注意深く調べてみれば、その底流に、在日同胞による民族教育自体を危険視し、差別する、植民地主義的発想が込められている事に気付くのだ。
そしてこれは、裁判を通して明白に解明されるだろう。
△学校法人 大阪朝鮮学園は、9月20日大阪府、大阪市の補助金支給を要求し、大阪地方裁判所に提訴した。写真は訴状を提出しようと裁判所に向かう原告と弁護人団、支援者達(写真・藤永壮)
支援拡大の動き
野田佳彦第3次改造内閣で、文部科学大臣に就任した田中真紀子は、就任直後である10月2日の記者会見で、朝鮮高級学校に対する‘無償化’適用審査を急ぐ方針を取り出した。
今まで“審査終了に至らなかった”と言う名目の下で、事実上、朝鮮高級学校を‘無償化’から排除した日本政府が、やっと適用する方向へ動き始めたのであり、朝鮮学校関係者と支援者は大きな期待を見せた。しかし、予想外に衆議院解散が速くなるや、田中文部科学大臣が方針を白紙化し、関係者達の期待は、はかなく消えてしまった。
衆議院議員選挙の結果、自民党中心の政権が誕生する事となれば、‘無償化’制度それ自体が廃止される可能性もある。
しかし、一方で、補助金裁判を支援する動きは共感を広げている。さる11月16日には、裁判費用を準備する為に‘モアコンサート’と名前を付けた慈善コンサートが、連絡会主催で開かれた。‘モア’は、韓国語の‘モア’と英語の‘more’の二つの意味が込められた名前だ。約1500名が入る会場が超満員になったコンサートでは、朝鮮学校学生達の歌とサムノリ、舞踊などの公演とともに、東日本大地震の時、被害を負った朝鮮学校を支援する為に、韓国で結成された<モンタンヨンピル(短くなった鉛筆の意)>の公演も成し遂げられた。
また、大阪朝鮮高級学校吹奏楽部の、関西地方大会金賞受賞、拳闘部のイコンテ選手の全国大会3冠王達成、ラクビー部の4年連続全国大会出戦など、学生達が積み上げた努力の結実は、学校関係者と支援者にとって、多くの勇気と力になっている。
△朝鮮学校を支援する為に開催された‘モアコンサート’、東日本大地震の時、被害を受けた朝鮮学校を支援する為韓国で結成された<モンタンヨンピル(短くなった鉛筆)>の一員として、歌組‘ウリナラ’などが公演に参加した(写真・藤永壮)
多様な行事だけではない。朝鮮学校関係者と連絡会は、街頭宣伝と署名運動、裁判費用準備の為の葉書製作・販売などなど、各自自身が出来る事を通して、支援の半径を広げて行っている。特に、経済的に困難な状況でも、ひたすら学生達の教育に力を費やする現場教師達の熱意と努力には、全くのところ、頭が自ずと下がってくる。
解放後に、在日同胞の民族教育は、“金があるものは金を、知識があるものは知識を、力があるものは力を”と言う有名なスローガンのもと、再建され始めたと言う。その精神が、今日の朝鮮学校を支える人たちに絶えることなく綿々と続いていると言えるだろう。(寄稿文はここまで)
(藤永壮大阪産業大学教授の略歴)
藤永壮(ふじながたけし)-大阪産業大教授は、日本国内の韓国学研究にあって、代表的な重鎮学者である。ソウル大研究生時代、“1932年チェジュ島海女闘争”論文を発表し、1980年代末、歴史問題研究所主催セミナーなどに参加しながら、韓国研究者たちと交流を広げていった。日本に帰った後、多くの韓国現代史関連研究を発表し、代表的な著書としては≪日本の植民地支配-肯定・賛美論を検証する>共著、東京岩波書店、2001)がある。
(訳 柴野貞夫 2012年12月5日)
<参考サイト>
☆民衆闘争報道 「在特会の水平社博物館差別街宣に対する裁判闘争」(2012年6月26日)
☆284 地震被害を受けた仙台東北初中級学校
(韓国・PRESSIAN 2011年5月19日付)
☆排外主義を許さない5・30関西集会に1200名結集
☆日本を見る-最新の時事特集 「朝鮮学校への攻撃を許さない 3・28 円山集会」
☆ 203 国連人種差別撤廃委員会の、日本政府に対する勧告出る/ “朝鮮学校など、差別するな”
(韓国・ヨンハップニュース 2010年3月17日付)
☆ 202 チョウセンジン’には、教育費の支援が勿体ないのか
(韓国・ハンギョレ 2010年3月12日付)
☆日本の労働者・民衆闘争報道(2009年12月26日)人種排外主義的暴力集団・「在特会」(在日外国人の特権を許さない会)による、京都朝鮮第一初級学校への白昼テロル(12月4日)を糾弾する!
☆ 202 チョウセンジン’には、教育費の支援が勿体ないのか
(韓国・ハンギョレ 2010年3月12日付)
|